趣味でハッカーをしている俺、隣の家の幼馴染がエロサイト見てウィルスに感染してたので助けてあげたらなぜか修羅場。

和橋

第1話 幼馴染のスマホがウィルスに感染したらしい


 カーテンの隙間から溢れた朝日が、ちょうど俺の膝辺りの布をキラキラと照らす。


『ラシア合衆国がガスタニアに侵略戦争を仕掛けてから二週間が経ち、ガスタニアでは依然──』


 ぼんやりとテレビに流れるニュースを眺めながら、カリカリに焼いたトーストを齧る。マーマレードの甘みと、僅かばかりの苦さが口の中にじんわりと広がる。

 眠気眼を擦りながら、残りのトーストを口に中に放り込み、ぬるくなったカフェオレを飲み切る。

 時刻は7時30分。なかなかに優雅な朝だ。


「こんな優雅な朝初めてだなぁ……」


 いつの日にかこんな優雅な朝を過ごすために買っておいたマーマレードとパンをまさか開封できるなんて。

 というのも基本的に俺の朝は遅い。すごく遅い。というのも趣味がとてもとても忙しいのだ。

 余裕で日を跨ぐ時間に寝て、学校遅刻寸前に起きる。諸事情で親が二人とも家に居ないために、そんな生活を俺、【九十九つくも 透琉とおる】は送っている。

 数年前までは懇意にしていた……いや、させていただいていた幼馴染も居たが、最近ではほとんど関わりを持っていない。


「準備するかぁ……」


 考え事に耽るのはここまでにして、俺はゆったりと学校の準備を始めた。



▲ ▼ ▲



 はっきり言おう。俺は学校で目立つキャラではない。というか、目立たない。ちなみにこれはオブラートに包んだ言い方だ。オブラートに包まなければ『ド』陰キャなのだ。

 負け惜しみなどではないが、別にコミュ力が0な訳ではない。と思っている。こうして、教室隅の番長として君臨している理由は、至極単純。

 

 高校に入ってからひたすら寝ていたから。


 授業の半分は寝ている。休憩時間も寝ている。もちろん昼休みも寝ている。

 そうすると一体全体どうなってしまうだろうか。そう、答えは簡単。話しかけられないし、話しかけても貰えないっ!!


 それに、自分が圧倒的孤独を背負っていると気づいたのが入学して半年後というのも痛かった。

 教室内では「そういう奴」というレッテルが張られ、話しかけてくれる人も居ない。

 かといって話しかけるわけでもない。だって眠いもの。



 キーンコーンカーンコーン。


 今日も今日とて多大なる睡眠時間という餌食を貪っていくのだった。



▲ ▼ ▲


 

 時刻は午後8時半。

 ということで。

 僕の一日の過ごし方(前半)はいかがだったでしょうか。

 大して面白くなかったですよね知ってます、ハハ。

 ですが、本当の一日はここから始まるのです。

 自分の部屋に設置されたデスクトップパソコン。その前に設置しているゲーミングチェアに腰を掛ける。

 部屋を暗くし、絶妙な明るさのLEDを付ける。ちなみにこれは色んな色に変色して、すごくかっこいいゾ!

 首の骨を鳴らし、体を伸ばして、指の骨を鳴らす。そして、ゲーミングチェアをくるりと一周させ、いつもの決め台詞を言うために俺は口を開く。


「今日も今日とて世界を――」


 ピーンポーン。

 インターホンが鳴ったが、この台詞を言わなければどうしてもスッキリしない。


「……今日も今日とて世界を――」


 ピーンポーン。

 どうやら俺の決め台詞をなんとしてでも邪魔したい奴がいるようだ。


「……世界を――」


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピン――


「あー今からいきますぅっ!!」


 俺はゲーミングチェアを勢いよく半周させ、未だなり止まないインターホンの音を止めるために一階に降りる。何度かこけそうになりながら、なんとか玄関までたどり着いた。

 

「はーい今開けます」


 こんな時間にピンポン連打してくるなんて。害悪迷惑野郎はどんな面をしてるんだ全く。

 ぐちぐちと独り言をこぼしながらサンダルを履いて、ドアを開く。

 目の前には見覚えのある美少女が立っていた。

 一瞬の沈黙と夜風が目の前の美少女を通り過ぎ、俺の元に残り香と肌寒さを運んできた。


「と、ととととと、とう、るぅ……」


 今にも泣きそうな声を出しながら、この時期にしては薄着な服装で立っている女の子は、【加賀美かがみ 風花ふうか】。ここ数年疎遠になっていた、隣の家の幼馴染だ。


「どうした、そんな薄着で」

「あのっ、えっ、えっ、えっええええ」


 薄紅色の大きな瞳は、今にも涙がポロリとこぼれてしまいそうなほどに涙をため込んでいた。


「だ、だからどうしたんだって」

「こ、これぇ……」


 ガタガタと震える手を俺の前に差し出す風花。手には、スマートフォンが握られていた。

 画面をのぞき込むと、途轍もない量の広告が画面いっぱいに埋め尽くされていた。

 どこか、遠い昔に見たことのあるような、無いような。なぜだか俺は、どこか不思議な懐かしさを感じていた。

 だが、そんな俺とは裏腹に目の前でスマホを突き出している幼馴染は、相変わらず今にも泣きそうな様子で口を大きく開き、息を吸った。


「あのっ、あ、え、えええ、えっちなサイト見たらなんかスマホが変になったんだけどぉぉ!?!?!?!」


「……………………は? ……………………はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」



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