第18話 どんなことがあっても

 爽やかな朝の光で目を覚ます。時計を見ると、目覚ましよりも先に起きていたらしく、いつも起きる時間よりずっと早かった。私はベットから体を起こして、カーテンを開けた。なんだかいつもより、心が清々しい気がする。晴天の空にも負けないような清々しいさ。なんだか今日はいいことが起こりそう、なんてぼんやりと考えながら、私は身支度を始めた。朝はお姉ちゃんとばったり会ってはいけないから、身支度を整えてから顔を洗いに…………。と、そこまで考えて、はっとした。


 そうだ。お姉ちゃんとはもう、和解したのだった。昨日あれだけのことがあって、私達は抱き合い、お互いを許し合い、そうして眠りについたのだ。もう今日からは、お姉ちゃんの動向や言動やその他すべてにいちいち怯えなくていいのだ。私とお姉ちゃんの関係はようやく姉妹に戻ったのだから。なら、顔を洗いに……と思ったが、思えばこんな寝起きの格好でお姉ちゃんに会ってしまったら恥ずかしくてたまらないから、やっぱり身支度は整えていこうと思った。いつものように制服を着て、髪の毛を整える。そうして鞄を持って、私はリビングに向かった。


「あら~、おはよう美孤。今日は早いのねぇ」


「おはよう、お母さん。……あれ、お姉ちゃんはまだ?」


「ん~?お姉ちゃんはまだお部屋で準備中みたいねぇ」


「……そうなんだ」

 

 お母さんとそんな会話をしながら、私は洗面所に向かった。いつも通りに顔を洗って、髪の毛を整える。そうして鏡の自分に向かって、話しかける。


「顔よし、髪よし、制服よし、笑顔よし!うん、今日も完璧」


 1つ1つ丁寧に確認して自分にOKを出していた、その時だった。


「毎朝それやってるのか?」


 鏡の後ろにお姉ちゃんが映っていて、私は思わず声を上げてしまった。


「お、お姉ちゃん……!?」


「おはよ、美孤」


「う、うん、おはよう!」


 何食わぬ顔で私を見ていた。洗面台に来ると、そのまま身支度を整え始めた。


「今日は早起きだな」


「……う、うん!」


「じゃあ、早く朝ごはん食べて学校行こうぜ」


 お姉ちゃんは私にそう言うと、そのままリビングに帰っていった。私はその姿をただ唖然として見ていた。


(お姉ちゃんと会話が出来た……。しかも朝から……!)


 やっぱり今日は何かいいことが起こりそうだ!そう確信しながら、私もリビングへと向かった。




「あらあら、美都と美孤が一緒なんて珍しいわねぇ~」


「ははは、仲良くなった証拠さ!今日は雨でも降るかもなぁ!」


「もう、お父さんったら」


 朝ごはんの時間。昨日の仲直り事件のこともあってか、お母さん以上にお父さんがハイテンションだった。もしかして今までぎすぎすしていたのを我慢させていたのかな、と思うと一気に申し訳なさがこみあげてきた。


「美都も美孤も気にしなくていいからね。それより、はい!今日のお弁当。美孤ちゃんは今日は体育があるから頑張るのよ」


「うん!お母さん、ありがとう」


 そんなこんなしている間に私達はさっと朝ごはんを食べ終えた。


「ご馳走様」


「ごちそうさまでした!」


「はい、お粗末様~」


 お姉ちゃんの後を追いかけて玄関に向かい、靴を履く。お姉ちゃんは先に靴を履き終わっていて、玄関の扉を開けて待っていた。


「じゃあ美都、美孤、いってらっしゃい~!」


 お母さんにそう見送られ、私はお姉ちゃんと家を出た。




 お姉ちゃんが怒らない。私が後を付いてきているのに、お姉ちゃんが何も言わないなんて……!これが姉妹の力か……!なんて感激していると、私の数歩先を歩いていたお姉ちゃんが、こちらを振り返った。


「美孤」


「っ、あ、はい!なんでしょう!?」


「そんなに緊張するなよ。別に喰ってかかったりしないから」


「……!う、うん!ごめんなさい」


「謝らなくてもいいから。……それより」


 お姉ちゃんは手招きをして私を自分の隣に立たせると、そこから歩き続けた。


「せっかく早く家出たんだから、あの美孤が言う神社に少し寄ってみようぜ」


「え、神社に……?」


「もしかしたら、その美孤が見たって言う神様に会えるかもしれないだろ」


「で、でも、神様に会って、一体何を……」


「そりゃあ聞きたいことは色々あるけど、とりあえずは呪いの解き方を聞きたいかな」


「呪いの、解き方……」


 私は背中に冷や汗が伝うのを感じた。だって神様は、何をするのはわからないから。もしかしたらお姉ちゃんにまで呪いをかけてしまうかもしれない。もしそんなことがあったとしたら、私はすごく嫌だ。私はいい、でもお姉ちゃんに危害を加わすだけは、それだけは…………。なんて考えていた時だった。ポン、と頭の上に手が乗せられる感触があった。驚いて上を向くと、そこには私の頭を撫でているお姉ちゃんがいた。


「大丈夫だよ、美孤。もし危なくなったら美孤を連れて逃げるし、自分のことは自分で守る。呪いをかけられるようなへまはしないから、安心しろ」


 どこから湧くのかもわからない自信満々なお姉ちゃんの顔に、私は吹き出してしまった。


「…………ふふっ、お姉ちゃんったら。でも、わかった。ありがとう、お姉ちゃん」

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