なにそれ初耳なんですけど!

玉響なつめ

第1話

 長谷川凜は三十二才、アパレル系の企業で企画部に勤めている。

 恋人の笹川大輔は同い年、商社マンとして忙しくしている。


 二人の出会いは、大学時代のコンパだった。

 偶然誘われて、偶然隣り合わせになって、特に出会いを求めていたわけでもなく酒の席に招かれたから場の雰囲気を保つために参加しただけの、そんな感じでの出会いだった。


 そこからは気が合って出会って数ヶ月で付き合い始め、キスもセックスもして、そのまま大学卒業後、就職した後も関係は続いている。

 初めの頃こそ同棲を考えたが、お互いの勤める会社の中間地点で良い物件が見つからず、そのままだ。

 週末になればお互い時間が合えばデートをし、互いの家に泊まったりホテルに行ったりと……まあ、それなりに仲良くやっている。


 そんな関係ではあるが、今のところ結婚という二文字に関してはお互い口に出したことはない。

 なんとなく……だが、今のぬるま湯のような関係がお互いに楽だということは、凜も自覚していたからだ。


 仕事は面倒くさいことも多いが、幸い周囲に恵まれていることもあって遣り甲斐はある。お給料もそれなりだ。

 最近では施錠があまりよくないこともあってボーナスは雀の涙であったが。


「――……で、それなんだって聞いてンだけど?」


「あ、あははー……」


 そんな中、大輔が大口の契約が入ったとかで大変忙しい日々を送るようになって、二ヶ月ほどデートもできず電話すら厳しい日々が続いていたのだ。

 

 だから、それは魔が差したというやつだった。

 なんとなく女だってムラムラする時がある、それを解消しようとしただけで決して浮気をしたいとかそういう願望があるわけでもない。


 サブスクで適当に映画を見ている中で、ふと成人指定の映画の項目があったと思いだした凜は初めて使うエロスのコーナーをタップして、適当に女性向けのAVとやらを眺めて、適当に選んで、タップしてテーブルに置いて眺めた。


 そう、なんとなく、だ。

 別に見入っていたとか、そういうプレイがしたいとか、そういう疚しい気持ちはなかったのだ。おそらく。多分。


 ただ、間が悪かったのだ。

 凜の借りている部屋の間取りで、彼女が過ごす部屋の出入り口を背にして、普段見慣れないAVなんてものを見ていたから「おお……すごい……」なんて食い入るように見てしまったのがいけなかったのだと思うが、それは言っても仕方がない。


 男女が睦み合い嬌声が出てくるそのスマホを覗き込む凜の上に影が重なって思わずびくりとしてのろのろと顔を上げたら、二ヶ月ぶりの恋人が無表情で立っていたというその状況に悲鳴を上げなかった凜を褒めるべきかもしれない。

 なんせ時刻は深夜だ。

 一般的には深夜と言われる時間帯で、いくら防音がある程度保証されている物件とはいえ真夜中に悲鳴を上げれば近所迷惑もイイトコロである。


 ……というわけで、まあ。

 長谷川凜の、初めての女性向けAV鑑賞は。


 カレシに発見されて中断されたのであった。

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