第25話:錬金人形

 「アンナ様、おはようございます。朝です。」


 「ん?んー」


 翌朝、メイドのニーナに起こされて一日が始まった。結局昨日は一度も起きることなく、気が付いたら朝になっていた。自分で気が付いていないだけでよっぽど疲れていたようだ。気づけばアドラーも私の横で丸まって寝ていた。


 いつものように寝巻から着替えて朝食を食べにダイニングへ。いつもの師匠の家の感覚でいたので、部屋から出て『あれなんか違う?』ってなりニーナに聞いてしまった。恥ずかしい。


 「「おはようございます。アンナ様」」


 「ん、おはよう」


 「クゥー」


 ニーナに案内されてダイニングに着くと、ユシアとシアンが出迎えてくれた。朝食はもうできているようだ。良かった、あの変な肉じゃない。普通の飯だ。


 「アンナ様、アドラー様は何をお食べになるのでしょうか?一応色々と用意してみたのですが。」


 ユシアからそういわれて、部屋を見渡すと、野菜とか生肉とか果物とかが入った箱が置かれていた。


 「何でも食べるよ?苦手だったらアドラーが伝えてくれると思うし。ね、アドラー?」


 「クゥ」


 私が聞くと、アドラーは頷いた。


 「なるほど、アドラー様は賢いのですね。」


 「クゥクゥ!」


 賢いといわれ、胸を張りどや顔するアドラー。めちゃめちゃ可愛い。


 朝食を摂った私とアドラーは、ニーナにお願いして家の中を案内してもらった。家は地下室つきの二階建てで、1階にはリビング、風呂、トイレ、キッチン、ダイニング、応接室、倉庫、食糧庫、空き室2部屋。2階は主寝室と使用人の部屋が3室、空き室が3室。地下室は大きな空間があるだけで、それ以外には特にない。使用人三人と私の四人で済むにはいささか広すぎる気がするけど、まぁいいだろう。


 「そういえばニーナたちの給金ってどうなってるの?」


 「はい、その説明はリビングで行います。ついてきてください。」


 リビングにいき、ニーナから説明された内容はこうだ。


・今から1ヵ月間の間はウォート・クリムゾンが雇い主で、給金もウォート・クリムゾンが出す。

・1ヵ月後、雇い主はアンナに変更となり、給金もアンナが出すことになる。これは自動で更新される。

・ニーナの給金が月50万ゴル、ユシアが35万、使用人見習いのシアンが20万ゴルとなっている。

・契約内容の変更や、新たに人を雇う場合は商会ギルドを通して手続きすることになる。


 「と、このような形となりますが、何か質問はありますでしょうか?」


 「ん、契約は私の口座?からみんなの口座に自動引き落としされる形になるの?」


 「えぇ、商会ギルドのマネーカードを持ってましたよね?そこから引き落とされることになります。」


 「そう、わかった。あと、毎月の食費とかその辺はどういう扱いになっているの?」


 「はい、それにつきましては、ウォート様より月100万ゴルが運用費として割り当てられており、その中でやり取りする形となっています。」


 「なるほどね。それも来月からは私が用意するということね?」


 「はい、その認識で間違いありません。」


 ってことは・・・、毎月200万近くかかるのか。まぁ、何とかなるか。


 「ところで食費とか諸々を考慮したとして毎月100万もかかるものなの?」


 「貴族でしたらかかりますが、アンナ様は貴族ではないので、そこまでかからないかと。食費だけなら月々10万ゴルもあれば十分ですね。他に何か必要となった時に追加で経費に割り当てるという形でもいいかと思います。」


 「そう?じゃぁ、来月からそうしようか。その辺の細かいところも商会ギルドで行う必用があるの?」


 「必ずしも必要というわけではないですが、商会ギルドで手続きしない場合、経費を引き落とす際にアンナ様の印が必要となります。ただ、それを毎回行うのは面倒ですし、主人がいない時は経費を引き落とせなくなってしまいます。

 それを回避するために商会ギルドにて『使用人が毎月使える経費は○○ゴルです』という旨の追加契約を行い、使用人でも経費を落とせるようにするという形をとるのが一般的です。」


 「なるほどね。じゃぁ、来月商会ギルドに行って更新すればいいんだね?」

 

 「えぇ、そうなります。」


 「了解。あとは大丈夫。下がっていいよ」


 「かしこまりました。」

 

 さて、給金とかお金周りについては解決したし、これからどうしようかな。


 「クゥー」


 「ん~、よしよし。」


 アドラーを何となく撫でながら、今日はどうするか考える。


 「あっ、ニーナ!」


 「はい、なんでしょうか?」


 「ハルトさんとザックさんから私宛の手紙か何か来てたりしない?」

 

 「あぁ!たしか1ヵ月ほど前に受け取っております。少々お待ちください。今持ってきますね!」


 渡した古式魔術本の内容次第では追加報酬があるというのを思い出して、ニーナに聞いてみた。案の定、修行中に手紙が来てたみたいだ。


 「こちらがハルト様、こちらがザック様の手紙となっております。」


 「ありがとう、ニーナ」


 手紙を受け取り、中身を確認する。まずはハルトさんの方から読もうか。



————————————————————————————————————―

アンナ様


 先日は貴重な本の写しをさせていただきありがとうございます。おかげさまで魔術協会はかつてないほど活気づいております。私も貴重な魔術書を持って来たということで、大きな臨時収入を得ることができました。アンナ様と出会えたことに感謝いたします。


 さて、先月古式魔術の内容次第では追加報酬として魔術書庫アーカイブのCクラス参照権限をお渡しするとお伝えしたかと思いますが、無事その旨が承認されました。つきましては、お時間があるときで結構ですので、この手紙を持って学園都市にある魔術協会の本部までお越しください。


                                賢者ハルト

————――————――————――————――————――————―――

 

 なるほど。学園都市ってここだよね?そしたら後で行こ・・・いや、師匠みたいに面倒な人がいたら嫌だな。しばらくゆっくりしたいから来週にしよう。


 「で、次はっと」



————————————————————————————————————―

アンナ様


 先日は古式魔術の書という貴重な本を写させていただきありがとうございました。おかげさまでうちの団員のみならず、王家や貴族の方々も色々と興味津々といった様子です。しばらくは魔術周りの動きが活発になりそうです。


 先月、内容次第では宝物庫から好きなのを二つを追加報酬としてお渡しします。と話したかと思いますが、国王陛下よりその旨が承認されました。つきましては、好きなタイミングで構いませんので、この手紙に同封しておりますカードを持って、ソル王国王都にある王城までお越しください。

                     魔術師団 団長 ザック・ラゼウス

————――————――————――————――————――————―――


 えっと、カードっていうのはこれか。何かの紋章が書かれたやつ。無くさないようにアイテムボックスにしまっておこう。王都に行くのは来月かな?向こうまでどれくらいかかるかわからないけど。


 さて、やることやったしどうしようかな。あ、錬金人形の組み立てでもやるか。確か結構難しい魔術を使うことになったはず。近くの空き部屋にテント広げてやるかぁ。


 「ニーナ、近くの空き部屋でテント広げて作業してるから、何かあったら呼びに来て」


 「かしこまりました。」


 ニーナにどこにいるかを伝え、近くの空き室で魔法テントを広げて中の錬金部屋に入る。


 「さて、錬金人形の本と、パーツと・・・。よしっ、これで全部だね」


 必要なものを全て取り出していざ実践。


 「まずは各パーツに対して指定刻印を使って、右腕とか左腕っていうのを定義するんだったね。部位ごとに術式が異なるからそこは気を付けないとだね。」

 

 ぶっつけ本番でやる前に適当な魔石に指定刻印を使用。問題なく使用出来たのを確認し、各パーツへ指定刻印の魔術を使用していく。その際、指定する部位とパーツを間違えないように注意する。


 「よしっ、これで指定刻印は出来たかな?」


 パーツを確認すると、各パーツの一部分に右腕や左腕と言った文字が記載されている。それらが間違いないことを確認した私は次のステップへ進む。


 「で、次は~、錬金魔術の結合?8文字か・・・、かなりきついな。魔力消費もかなり多いのね。どれくらいなんだろう?」


 試しに何もない場所に向けて空打ちする。


 「うわっ、めっちゃ減った。今ので2000も使ったんだけど・・・。まじか」

 

 とりあえず魔術の使用感覚はわかった。錬金人形の各パーツを並べ、錬金魔術の結合を指定する。この魔術により、各パーツ間の関係が確定し、オートマタにした際にしっかりと動くようになるらしい。これをしないと何がどう連動してるかわからなくなり、立ったり歩いたりといった簡単な動作もできなくなるらしい。


 「よし、ここまでは大丈夫そうだね。で、最後が人形作成の魔術で確定・・・って9文字じゃん。出来るかな・・・」


 いままで一度も使ったことのない9文字の魔術。本によるとそこまで魔力を消費しないみたいだけど、実際どんなものなんだろう?てかそもそも使えるかな?ここしばらくあまり出番のなかった第二頭脳セカンドコアを発動し、処理能力を向上させ、適当な場所に空打ちしてみる。


 「ん”ん!?お”っ?」


 出来そうで出来ないという何とももどかしい感じが何度か続いたあと、10回目で成功した。思ったより簡単だった、というか私が成長したのかもしれない。


 「この感覚を忘れないうちに、いざ本番!」


 そして人形に向けて人形作成の魔術を使用する。その直ぐにピカッっと光り輝き、いよいよ動くのか?という感じになったが、その光は直ぐに収まり、動くような気配もない。なんでだろうと思って本を見直すと、魔石を魔力タンクに入れる必要があるらしい。そして最後に魔力を少し流せば起動するそうだ。魔力タンクは背中部分についているのが一般的みたいなので、人形をひっくり返して背中を確認。


 「おっ、これか。魔石を入れればいいんだよね。ダンジョンで手に入れた奴がたくさん余ってるからそれをいれちゃおうか。雑多に入れても問題ないっぽいからいれたおう。えいっ」


 魔石を魔力タンクに入れたので、背中の蓋を閉め、椅子を出してそこに座らせる。


 「さて、最後に魔力を流して終了と。よーし、起動してください!」


 魔力を流すと、ギュウウウウーという起動音がなり、少ししてオートマタが立ち上がった。


 「おー!!凄い凄い!ちゃんと動いたー!!!」


 『ガガッ、主人マスター。名前を登録してください。』


 「おー!しゃべるの!君しゃべるの!?凄い凄い!名前だね。えーっと・・・わわっ!?えっ!?何々!?」


 オートマタの名前を考えていると、私の第二頭脳セカンドコアがオートマタの頭に吸い込まれていった。その後、オートマタは電源が切れたように椅子に座り込んだ。


 「えっ・・・うそっ?何が起こったの?」


 とりあえず第二頭脳セカンドコアは発動した状態の感覚は残ってる。けれどオフにすることはできない。背中の魔力タンクにある魔石が切れたのかと思って確認しても、魔石の魔力は特に減ってなさそう。


 「んー?何でだろう。もっかい魔力流してみる?」


 試しに魔力を流すと、今度は今までにないほど光り輝き、眩しすぎて目を開けない状態になる。そして光が収まり、目が慣れてくるとそこには全裸で男とも女ともつかない顔をした黒目黒髪の線の細い男性が立っていた。

 

 「なななっ・・・なんじゃこりゃーー!!!」

 「なななっ・・・なにこれ―!!!」

 「クゥー―――!?!?」


 錬金部屋に2人と一匹の大きな叫び声が響いた。

 

 

 

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