第9話:王都1日目(1)


 「とりあえず、王都にある儂の家に向かうぞ。儂は今日活動報告にいくのでな。あまり構うことが出来ん。本格的な指導は明日からじゃな。」


 翌朝、師匠は食事中にそう話した。結局、昨日私はリビングにベッドを出してそこで寝た。そして朝起きてきた師匠に『なんでそこで寝とるんじゃ』とか言われたので、『師匠がベッド使っていたからです』と答えたら、『儂の隣で寝ればよいじゃろう』。と言われた。美女の横で寝る権利を得ることができた私、次からはそうします。この師匠最高ですね。


 そして師匠がどこからとも取り出した馬車に乗って王都に向かう。なお、馬車を引くのは馬ではなく馬型のゴーレムの模様。


 「ところで師匠、あの馬って魔術で作った物ですか?」


 「そうじゃな。ゴーレムといって、錬金術で産み出したやつじゃ。作り方は儂が教えてもいいが、儂よりもお主が持っている本の方が詳しくかかれていると思うぞ?読んでないのか?」


 「あの本ってダンジョン攻略中に手に入れたものなので読んでないんですよね。魔術の本は初期地点にあったので、それで覚えることが出来ましたけど。」


 「ふむ、そういえばお主のいたダンジョンについて聞いてなかったの。どんな感じじゃったのだ?」


 そこで私のいたダンジョンについて詳しく説明する。私の話を聞いている最中の師匠は少年のようにキラキラした目をしていた。


「ほう~、最初の場所に手引書があったのか。しかもその魔術は古式魔術と呼ばれるやつじゃな。それを覚えるのに時間がかかったと。試練というだけあって、どの魔物も強さが調整されていたようじゃな。大分弱く設定されていたようじゃ。あと黒いモヤを纏った魔物もいたのか。ふむ・・・」


 一通り私の話を聞いた師匠は、ブツブツと何やら独り言をつぶやき始めた。古式魔術とか、本来の魔物より弱くセットされているとか、黒いモヤの魔物についても何かが引っかかるところがあるみたい。


 色々と聞きたいところだか、完全に自分の世界に入ってしまったので、師匠から話を聞くことはできなかった。



 「ウォート様!お帰りなさいませ!」



 「む?もう王都についたのか?お主はここで待っておれ。少し話をしてくるのでな」


 外から師匠を呼ぶ声が聞こえ、師匠は外へ出ていった。今更だけど、この馬車の中、見た目より全然広いよね。私のテント程じゃないけど、ちょっとした客室くらいの広さはありそう。ただ、窓がないから外の様子は見えない。その割に明るいのは不思議だけど。



 ――えぇぇ!?弟子!?


 何やら外から驚いた様子が聞こえる。弟子がいることに驚いたっぽい雰囲気。


 「おう、お主も出てこい。手続きに必要らしい。」


 「あっ、はい。」



 そして外に出るとそこは街に繋がる門の前。巨大な壁で街を囲っているようで、中が見えない。そして数人の兵士がこちらを興味深そうな目で見ていた。『おおおーー』とか言われても、私どう反応していいのかわからないし、困る。


 「ほれ、可愛いのはわかるが、早く手続きしてくれ。」


 「あっ!失礼しました!こちらの水晶に手を置いてくださいますか?」


 「あ、はい。わかりました。」


 何かはよくわからないが、とりあえず言われた通りにする。すると水晶は白く光った。


 「ありがとうございます!大丈夫ですので、どうぞお入りください!」


 結局何だったのかわからないまま、師匠と共に馬車に入り街の中へ。


 「結局あれなんだったんです?」


 「あぁ、あれは犯罪歴の確認じゃな。もし何かしらの犯罪をしていたらあれが黒くなるんじゃ。」


 

 へー、そうだったのか。しかし街に入ったはずなのに、窓がないから街並みが一切わからない。門からちらっと見えた感じ、街並みは中性ヨーロッパのような雰囲気で、建物は基本石造り。そしてかなり綺麗な印象を受けた。近いうちに街中を探索したい。


  

 そんなことを考えているうちに馬車が止まる。


 「む、家に着いたようじゃな。降りるぞ」


 私と師匠は共に馬車から降りる。そこはどこかの家の門の前。家に着いたといっていたからまず間違いなく師匠の家だとは思う。門前から見える家は二階建てで横にも結構広い。白を基調として赤で綺麗な模様が入っている。門から玄関まで続く道があり、左右には綺麗な庭が広がっている。


 前世では見たことのない家に見惚れている間に、師匠は門を開け中に入っていく。慌てて私もそれに続く。


 「お帰りなさいませ!主様!」


 中に入ると、メイドたちが家の中から出てきて迎えにくる。



 「此度は随分と長旅だったのですね」


 その中のメイド長と思われる人が師匠に声をかけた。


 「まぁの。儂のいない間、何かあったかの?」


 「陛下が小言を漏らしたそうですよ。せめて年に一回くらいは顔を出しに来いと。他は特には。」


 「かっかっか!そうかそうか、まぁ、今日顔を出しにいくわい。」


 どうやらこの国の王様とは結構仲がいいっぽい?にしても話を聞く感じ2年以上はここを離れていたみたい。何していたんだろう?


 「ところで、そちらの方は?」


 「うむ、儂の弟子じゃ!アンナという。今日から儂と共にここに住むのでな。よろしく頼む」


 「おおお!!!ついに弟子をお作りになったのですね!これでクリムゾン家も安泰ですね!できればこの調子でお子さんもお作りになってくれると、とても嬉しいのですが」


 「うるさいのぉ、老人に子を望むとかお主鬼か。」


 「いえいえいえ、主様に年齢など関係ないでしょう?常に最盛期なのですから」


 「かぁー。まぁ、気が向いたらの」


 「なるべく早く、その気が向くことを願っております」


 師匠が老人???いや、見た目詐欺にもほどがある。絶対嘘でしょ。子供とか作りたくないだけでは?


 「アンナ様、ウォート様はああ見えて御年80です。肉体年齢は20代で止まっておりますが」


 そんなことを疑問に思っていると、メイドの一人が私の元に来て、小声で衝撃の事実を伝えてきた。80とか絶対嘘。肉体年齢が止まるってなに?そういう魔法?ならまぁ・・・あり・・・なのか??


 「アンナよ、中に入るぞ。」


 「あっ、はい。」


 そして私は家の中に入っていく。外から見て豪華な家だなと思っていたけど、中もやっぱり豪華だ。広いエントランスが広がっていて、立食パーティとか出来そうな広さがある。壁には絵画とか鎧とか色々なものが飾られている。


 師匠は自分の家だから当然といった様子で、特に気にすることもなく家を進んでいき、私もそれに続く。そして書斎につき、促されるままにソファに座る。


 「さて、儂はこれから王城に行く。ただその前に、お主の持っている本を写させてもらえんかの?あれ全部貴重なモノでな。儂も持っておきたいのじゃ。」


 「あ、いいですよ?でも結構な数があるので時間がかかるのでは?」


 「それについては問題ないわい。それ用の魔法具を持っているのでな。っと、テントの魔法具の中にあるんじゃったな。ここでは狭いか。場所を移動するぞ。」



 家の表にある庭に出て、テントを展開。中の書斎に入る。そして師匠は掌サイズの魔法具を取り出して、本の前に翳していく。まるでスキャンしているような感じでその道具を次々と本にかざしていく。


 その作業が終わると師匠は戻るぞといって家の中にある書庫に移動する。

 

 書庫の中で魔法具に対して何かの操作を行うと、先ほどスキャンした本が山積みとなって出てきた。


 「おぉ~便利ですねぇ。」


 「じゃろ?まぁ、使うには紙と魔石を中に入れる必要があるがの。逆にそれさえあればどんな本でも写せる優れものよ。じゃ、儂は外出してくるでな。家の中については使用人に聞くとよい。ではまたあとでな。」


 そして師匠は部屋を出ていった。えっと、私どうしたら?


 「アンナ様、お部屋の準備ができましたので案内いたします。こちらの本はどうなさいますか?」


 どうしようと思っていると、メイドさんが私に声をかけてきた。


 「あ、師匠がここに置いた本だからここに置いておけばいいと思います。」


 「かしこまりました。ではそのように。ニーナ、書庫の整理をお願い」


 「了解です!」


 「ではアンナ様。こちらへ。」


 そのメイドはニーナという若いメイドさんを呼んで書庫の整理を任せ、私を連れて部屋に向かう。


 「こちらがアンナ様の部屋となります。何かありましたらこちらのベルを鳴らして頂ければ、直ぐ参りますので何なりとお申し付けください。昼食が用意できましたら呼びに参ります。では私はこれで。」


「あ、はい。わかりました。」


 そしてメイドは部屋を出ていった。部屋の中はかなり広く、豪華なベッドが壁際にあり、クローゼットにドレッサー。あとは部屋の中心にソファとテーブルが設置されている。



 「ん~、暇になったなぁ。あ、卵の孵化でもさせようかな。たしか魔力を卵に流せばいいんだっけ?」


 昨日従魔の本で読んだ内容を再度確認してそれでいいことを確認。魔力を流し、魔力が一定量溜まると孵化すると書かれていたので、実戦する。


 「ん?これどこまで流し込めばいいんだろう・・・?」


 まるで穴の開いた樽に水を流しているような感じで、溜まっているような感覚がない。とりあえず流せるだけ流していく。


 「アンナ様!?大丈夫ですか!?」


 え・・・なに?



 ―――side.ニーナ


 私はニーナ・ブラウン。ブラウン子爵家の次女で、今は特級魔術師のウォート様のところで使用人をしている。私も魔術師の端くれとして、あわよくばウォート様の弟子になれたらと日々精進している。最近は書庫にある本を読む許可を頂き、休憩中はいつもここで魔術書を読み勉強している。


 今日も休憩時間に本を読んでいると、ウォート様が帰ってきたとの連絡があった。私たち使用人は急いで出迎えの準備をする。ウォート様が帰ってくるのは実に三年ぶり。手紙での連絡は取りはあったと聞いているが、私はそれを見てないので、ウォート様の元気なお姿を見れるのが楽しみだ。



 「お帰りなさいませ!主様!」


 私たち使用人は家から出て、ウォート様を出迎える。3年ぶりに帰ってきたウォート様は相変わらず美しい。しかしその後ろに獣人の女の子がいる。露出の激しい服装に、左脚と右腕が水晶のように透明な不思議な子。


 「そちらのお方は?」


 メイド長のサラさんが、後ろの女の子について問う。


 「うむ、儂の弟子じゃ!アンナという。よろしく頼むぞ!」


 弟子・・・弟子!?!?


 私は酷く驚いた。なにせ特級魔術師になってから約60年、誰に頼まれても、それこそ国王陛下直々にしても弟子を取るのを断っていたというウォート様。恐らく死ぬまで弟子を取らないのだろうと言われていたのに、一体どういう心変わりなのだろうか?


 “私を差し置いて弟子になるなんて!“という気持ちもあるが、それ以上に弟子を取ったという事実が何よりも嬉しい。クリムゾン家の後継者が出来たというのはもちろん、他の人にもウォート様の弟子になれる可能性が出てきたということ。直弟子でなくとも、アンナ様の弟子となりウォート様の技術を継ぐこともできるかもしれない。

 

 それも無理でも、アンナ様がお子様を作れば、その子から教えてもらえるかもしれないという可能性が出てきたのだ。しばらくはその事実で魔術界隈は賑わうことだろう。


 その後、ウォート様とアンナ様は家に入り、そのまま書斎へと向かっていった。



「あなたたち。話は聞いていましたね?アンナ様のお部屋を用意しますよ。」


 サラさんの指示に従いアンナ様の部屋を用意していく。みなウォート様が弟子を連れてきたのが嬉しかったのか、どこかウキウキした様子が使用人の間に広がっていた。



「ニーナ、アンナ様を呼びにいきますよ」


「はい!」


 そして部屋の準備が出来たので私とサラさんでアンナ様を呼びにいく。アンナ様はウォート様と共に書庫に移動していたようだ。書庫にいくと、ウォート様はこれから外出するようだった。書庫の中には大量の本が積まれている。


「ニーナ、こちらの整理をお願い」


「かしこまりました。」


 サラさんがアンナ様を部屋に案内し、私は大量に積まれた本を本棚にしまっていく。


「これ何の本なのかしら?」


 そう思って適当に手に取った本をパラパラとめくっていく。本に書かれていたのは古式魔術について。まさかと思い他の本もさっと目を通していくと、そのどれもが古式魔術の書。中には古式→現式に移り変わるまでの途中に書かれたと思われる本もあった。


「わわっ、ててっ、丁寧に扱わないと」


 あまりに貴重な本に私の手が震えるが、必死に抑えて整理していく。しかしこんなに貴重な本を大量に持ってくるとは一体なにがあったのか。非常に気になる。


 そんな感じで本を整理していると、膨大な魔力を感じた。私はそのあまりの魔力に恐怖しながらも、その発生源を確認しようとその場にいくとアンナ様の部屋だった。何かあったのかもと思い、私は意を決して中に入る。


 「アンナ様!?大丈夫ですか!?」


 「えっ?何が??」


 中に入るとアンナ様が卵?を持ってベッドに座っていた。あれ?何もない??


 「あの、大量の魔力をこの部屋から感じたのですが、何かありましたか?」


 「あ、私がこの卵に魔力流したからそれかな?何か魔物の卵らしくて、人間の魔力で孵化させると従魔になるらしいんだよね」


 「えぇぇぇ・・・・」


 それであの魔力量?数値換算で1000は軽く超えていましたよね・・・?て魔物の卵ってそうやって孵化するのですか?いえ、彼女はウォート様の弟子。ならそれくらい当然・・・なのかしら・・・?


 「そ・・・、そうですか。とりあえず、あまり大量な魔力を使われると私共も驚きますので、少し抑えていただけると助かります。」


 「あっ、そういう感じなのですね。次から気を付けます。」


 「何卒お願いいたします。」


 一先ずは何事もなかったようで安心しました。しかし、あれほどの魔力を使ってなお余裕があるという魔力量。ウォート様の弟子というのも納得ですね。将来が楽しみですね。さて、私もお仕事頑張りますか!

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