第5話:レベル上げ


 「ふぁ~・・・よく寝たぁ」


 20年ぶりのベッドはもう本当に気持ちよかった。寝床が柔らかいって最高だね。これで風呂もあったら完璧だったんだけど、ここお湯出せないからなぁ。まぁ、これだけでも十分か。


 石机と椅子をどかして、もって来たソファと机を設置しよう。 


 ゴンッ!



「ッッ~~~!」


 そう思ってベッドから出ようとすると上手く起き上がれずに転び、床に頭をぶつける。とても痛い。そういえば右腕と左腕は義肢になっていて碌に動かせないんだった。忘れていた。


 どうにか身体を起こしてベッドに座る。そして石机と椅子を魔術で壊して、通路に吹き飛ばす。空いた場所にソファと机をアイテムボックスから取り出して模様替え完了。



 そして今度は転ばないように設置したソファの元に慎重に移動して座る。


「ふかふか~!最高~~!」


 このまま寝れるくらいには気持ちいい。ついついだらけてしまいそうになるけど、気を強く持って作業に入る。


「ってダメダメ。今日はこの右腕と左脚をどうにか動かせるようにするんだから!」


 まずは宝箱からドロップした『錬金人形』という本を取り出して読む。


 最初の方は私が戦った人形――オートマタというらしい――の作り方が書いてある。そして一通りオートマタの解説がされた後、オートマタの技術の応用法が書かれているページに入り、その中に“義肢としての利用”という項目があった。


 基本はオートマタに使用される物と同じ作りをしているようで、使用した素材と、刻み込んだ魔術式の細かさによって出来の良さが変わるらしい。ただし、動かせるようになるまでにかなりの修練が必要になるとか。

 使い方は傀儡術に近いけど、傀儡術自体が一般的な技術ではないから、教えようがないと書かれている。もしお金があるならダンジョンからドロップする魔法具の義肢を使ったほうが遥かにいいという。


 何でもダンジョンからドロップする義肢は劣化することなく、見た目も通常の手足と大差なくて神経も通っており、違和感なく動かせるのだとか。しかも加工すれば魔術媒体としても使用できるという優れものだという。


 ・・・あれ、説明的に魔法具かなと思ったけど、私のとは違くない?見た目どうみても水晶なんだけど?とりあえず付けとけば普通に動かせるような感じで書かれているし、私のとはやっぱ違うよねこれ。もしかして前者のやり方じゃないとだめ?これ動かし方は教えられないって書かれているんだけど。手探りでやるしかない感じ?


 いやいやいや、まだあの屋敷からもって来た本はたくさんあるし、そのどれかに書かれているかも。諦めるのはまだ早い。




 ・・・そして探し始めて数時間。一切ありませんでした。本に書かれていたのは錬金術が7割、調薬が3割程度で、義肢の動かし方について書かれている本はなかった。錬金術とか調薬とかそれはそれで興味あるんだけどね。道具も回収したし試せるなら試したい。


 まぁ、それするよりも手足をどうにか動かすのが先だけど。



「とりあえず魔力流してみる?昨日はなんか弾かれてたけど、流し方っていうのがあるのかもしれないし。」



 そして何度も魔力を流し、失敗するたびに流す場所を変えたりとか、流すスピードを速くしたり遅くしたり色々と試していく。単に身体の中を循環してるだけっていう扱いなのか、魔力が減ることはないので何度でも試すことが出来る。



 数時間ほど試した結果、どうやら水晶の中には見えない血管のような何かが張り巡らせているようで、魔力はそこにしか流れない。しかもその血管は針のように細いというおまけつき。


 ・・・これ本当に自力で魔力流して使うモノなの?実は魔術式的なのがあってそれを起動すれば勝手に流れてくれて動くようになるとかそういうことない?



 ないんだろうなぁ。このダンジョン色々と鬼仕様だし。ドロップ品まで鬼仕様であるとかドン引きだけど。まぁ、頑張るかぁ。せめて一度魔力を流せば二回目は必要ないとかそういうタイプでありますように。



 

 結論からいうと、一度魔力を流しきればいいタイプだった。ただし、魔力が切れた場合は動かなくなるので、再度流す必要がある。検証として魔力切れたらどうなるか試したらそうなった。死ぬほど後悔した。

 

 ただ、起動が難しいだけあって性能はめちゃくちゃいい。普通の手足としても動かせるし、関節を逆方向に曲げるとか、人形特有の動きもスムーズにできる。後魔術式の構築がかなり楽になった。感覚的に『第二頭脳セカンドコア』がもう一つ増えた感じ。おかげで魔法使わなくても超級魔法を使えるようになった。『魔法』具というだけあって、その性能はめちゃめちゃいいみたい。



 ちなみに腕と脚の両方を起動するのに2週間かかった。苦労に見合った性能はあると思うけど、にしたってもう少し起動するの楽にならなかったのか。いやまぁ、ここのダンジョン内は歳取らなさそうな雰囲気あるしいいんだけどさ。


「はぁ~、検証はこんなものでいいかなぁ。次どうしよう。」


 屋敷から取ってきた錬金術と調薬の本を読みたい気持ちはある。けどあれ実践するには素材がない。このダンジョンでどんなのが取れるかわからないけど、やれることも少ないだろうしなぁ。道具は屋敷にあったけど。


「んー、戦闘の練習したほうがいいよなぁ。最後ボスと戦うのは確定してるし。狼倒してレベルあげてく?・・・ってまって、もしかしてこの間の戦闘でレベル上がってるとかない?」


 そう思ってステータスを表示させる。


 ---------------------------

 ステータス


 名前:アンナ・セリーニ

 職業:無

 種族:人(?)

 レベル:29

 ランキング:未実装


 HP体力:220/220

 MP魔力:3210/3210

  VIT生命力:150

  MND精神力:450

 DEX器用:1330

 AGI敏捷性:160


 スキル:魔力操作Lv8、魔力感知Lv5、魔術Lv6、魔法Lv1

 称号:奴隷、魔術師、魔法使い、引きこもり、本の虫

 ---------------------------


 うわ、レベルかなり上がっているし。あとなんかステータス値高くない?ていうかMP魔力かなり多くない?私こんな魔力多かった?それともレベル上がったからそれでこんなに伸びたとか?そんな伸びる?元の数字覚えてないけど100もなかった気がするんだけど。

 

 あとDEX器用もやたら高い。これは元々高かった記憶だけど、更に上がっている。むしろ他が低いだけ?それとも普通がこれくらいでDEX器用MP魔力だけ異常ってだけ?

 うーん、比較対象がないしわからないからいいや。スキルについては、このレベルが上がったところでアーツとか覚えたわけでもないからスルーで。

 当人が持つ技術の中で、一定以上に習熟していている技術がスキルとして表示されるとかそんな感じかな。


 それよりも称号に引きこもりが付いているのは納得いかない。まるで私が引き二―トみたいじゃん!!本の虫はいいよ!実際その通りだったし。

 でも引きこもりはなくない!?こちとら引きこもりたくて引きこもったわけじゃないの!引きこもるしかなかったの!!!



 ふぅ、まぁステータスはいいや。レベル上がるなら、とりあえず狼倒してレベル上げかなぁ。ソロで戦うことになるしAGI敏捷性上げていきたいんだけど、これ狙ったステータスを上げるとかって出来るのかな?全力で走りながら倒していたらAGI敏捷性上がったりするかな?試してみればいいか。


 ということで拠点から出て狼狩りに行く。まずは隠密状態で魔術を使って、どれくらいで倒せるのかを確認。


 ――風刃ウィンドカッター


 たまたま近くにいた狼に風刃ウィンドカッターを発動。すると狼は避けることなく首が切断され、消えていく。そして周りにいた狼が今の魔術で私の存在に気が付き、こちらに向かって攻撃してくる。


 ・・・やっべ完全にやらかした。



 ってそんなこと言ってる場合じゃない!


光球障壁ライトバリア!」


 ガキンッ!


 私に襲ってきた狼の攻撃を光球障壁ライトバリアで防ぐ。あの人形ほどの攻撃力はないらしく、何度も光球障壁ライトバリアに向かって攻撃してくるが、一向に破られる気配はない。

 

 この隙に次の魔術を発動させる。


暴風ストーム!!」


 私を基点に強烈な暴風が発生し、こちらにくる狼を吹き飛ばしていく。


氷晶吹雪クリスタルブリザード!」


 そして吹き荒れる暴風の中、更に吹雪を発生させる。これはただの吹雪ではなく、雪に触れた箇所を一気に凍らせる超級魔術だ。


 これにより吹き飛ばされた狼が凍り、壁にぶつかるか地面に落ちた際に凍った部分が破壊される。


 暴風が収まるころには周囲にいた狼は全て死んでおり、大量のドロップ品を残して消えていった。遠くにいた狼たちは、私に挑むのは危険だと思ったのか、いつの間にか逃げていった。


 ・・・もう素早さ上げるとかよくない?何か魔術が使いやすくなったから、試しにと思って超級魔術の氷晶吹雪クリスタルブリザード使ったけど、これがこんな気軽に使えるならどんどん使えばよくない?あの蜘蛛も水の超級魔術で糸を無効化して氷の範囲攻撃でよくない?

 

 あ、ちなみに暴風ストームは結構な威力あるけど、あれでも分類上は上級魔術になる。ただ消費する魔力は超級並みだけどね。ちなみに人形戦の時に使った大津波タイダルウェイブ氷結凍土アイスエイジも上級魔術。こっちも魔力消費量は超級並みに多いけどね。超級になると氷晶吹雪クリスタルブリザードみたいに追加効果が発生するようになる。



 おっと、さっさとドロップ品を回収しよう。ドロップ品は魔石?と思われるものと、狼の毛皮。そしてコスプレで使いそうな狼の耳と尻尾が一つずつ。


 いや、なんでそこでケモミミと尻尾なの?服をちょうだい服を。これ私が付けるの?何か効果あるの?・・・つけてみようか。



「んなぁっ!・・・」


 耳を付けるとなにかがつながった感じがしてくすぐったい。あとなんかめっちゃ音が聞こえてムズムズする。変な感じ。ついでに尻尾もつけてみる。


 こっちも不思議な感じに尾てい骨付近に繋がった感じがある。試しに動かしてみる。


「おぉぉぉ、動いてる!てか耳も動く!」


 向こうにもこういうギミックがあるケモミミとか尻尾はあるが、流石に自分の意思で動かせるようなものはないので感動した。あと尻尾が地味にフワフワしてて気持ちい。


 気持ち身体の動きが良くなった気もする。試しに走ってみると身体が軽い。っていうか気持ち動きが良いとかそんなレベルではないくらいに上がっている。だって足がめっちゃ速くなったもん。今なら100m5秒切れる気がする。


 といっても、この体で走るのは今が初めてまであるから、比較対象は前の身体なんだけどね。一度耳と尻尾外して走るか。


 

 結果、装備の効果は耳が非常に良くなることと、気持ち身体能力が上がる程度ということがわかった。あの足の速さは元からあのレベルだったらしい。嘘でしょ。

 なお、耳の機能はオンオフが出来るようで、ただのアクセサリーとしても使うことが出来るようだ。


 これなら探索時は機能をオンにして、休憩の時とかはオフにするとかそういう使い方もできるね。・・・ってなんで常につける想定で考えているんだ私。普通に外せばいいじゃん。



 ん“ん”っ“。えっと、今のレベルは40ね・・・。40!?あれで11も上がったの!?本当に!?。すごく効率いいじゃん。いや、私の魔術がたまたまハマっただけ?まぁ、何でもいいや。ステータスも結構上がっているし、引き続き狼狩ってレベル上げしていこう。


 

 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る