第2話:魔術練習中

「うぇ・・・相変わらずまっずいなこれ」


 俺がここに来てから2週間ほど経過した。部屋の外にでることもなく、起きている時間は常に魔力操作の練習をしていた。水も生み出せないので身体は非常に汚くなってしまった。体臭も酷いことになっている。


 最初は水がない環境が辛くて、水だけでも魔術で生み出せないかと、本を読み進めて見つけた水生成を発動させようとしたのだが、魔力操作の技術が全然足りなくて上手くいかなかった。


 魔術は、魔力を用い魔術式というのを書いて発動させる。だから魔力操作が出来なければ当然魔術式を書くこともできない。しかも魔力は目に見えないから、完全に感覚だよりに魔術式を構築する必要がある。これのせいで難易度が更に上がっている。


 それがわかってからは、魔力操作の練習により真剣に取り組むようになった。とにかく水もない環境が辛く、日に日に汚れていく身体をどうにかしたいという一心でめちゃくちゃに頑張った。


 おかげで魔力操作は短期間でかなり上達し、ステータスのスキル欄に魔力操作の項目が追加された。スキルLvは2だが、最初と比べると雲泥の差だと思う。



 流石にここまで来たら次のステップに進んでもいいだろう。本によると次のステップは基本魔術と呼ばれる生成系の魔術の使用だ。前回魔力操作を飛ばして挑戦した水生成もここに記載されている。


 魔術発動時に必要となる魔術式は、最大5つの魔力文字で構成される。魔力文字は大まかに“属性”・“形状”・“動作“・”条件”・“座標“の5つに分類されるとのこと。

 この魔力文字をいくつ使用するかで基本→初級→中級→上級→超級と変わっていくらしい。基本魔術はこの文字が属性しかない最も単純なものを指すとのこと。


 いまから挑戦するのは水属性の基本魔術である水生成。前は出来なかったものにリベンジだ。これが出来れば身体を洗うことができるようになる。


「よし・・・やるぞ・・・」


 魔力を操作し、水生成の魔術式を構築していく。そして無事最後まで書き上げた時、俺の目の前にコップ一杯分の水が生成され、そのまま地面へと落ちていった。


 「しゃぁぁぁ!!!成功!!!」


 魔術発動に時間がかかるとか、発動と同時に下に落ちるとか、生成した水を保存する容器がないとかの欠点はあるが、とにかく水が出たのはめっちゃ嬉しい。これで身体を洗うことができる。




「ふんふーん♪・・・やっと身体洗えた♪!!」


 一度に生成される水の量は少なく、発動にも時間がかかるため全身を洗うのにかなり時間がかかったが、大分身体が綺麗になった。おかげさまで気分がいい。

 できれば『清潔魔術』という対象を綺麗にする魔術を使用して身体を綺麗にしたいところなのだが、それは上級魔術らしいので、しばらくは冷たい水で身体を洗うしかなさそうだ。


 ちなみにこの情報は、休憩中に読んだ『生活を便利にする魔術決定版!』という本に書かれていた情報だ。他にも服の皺を伸ばす魔術とか、物を軽くする軽量化とか、簡単な料理なら自動で作ってくれる魔術とか、生活する上で何かと便利そうなのが書かれていた。・・・そのどれもが上級か超級魔術だったのは酷いと思ったね。タイトル的にもっと簡単かと思ったら全然そんなことなかった。騙された気分だ。



 と、とにかく、まずは水生成をよりスムーズに発動できるように練習していかないと次のステップに進めない。水生成は魔術の中でも一番難易度が低い分類に入るとのことだから、こんな所で躓くわけにはいかない。それに属性は水の他にも火風地光闇の5つあるから、これらについても使えるようにならないといけない。


 あ、火は使えないから水風地光闇でいいのか。まぁそれでも大変だけど。


 一先ずの目標は清潔魔術を使えるようになること。少なくともそれまでは毎日練習を続けよう。毎回水生成を使って身体洗うのでもいいけど、水で身体洗うと寒いし辛い。頑張ろう。







 魔術の練習を開始して2週間。火生成以外の基本魔術は一通り使えるようになり、かなりスムーズに発動できるようになった。特に水生成については大分上手くなっており、一回でバケツ一杯分くらいは生成できるようになり、更に生成量の調整もできるようにもなった。


 ちなみに、魔術の出来は、魔術式をどれだけ綺麗に書いたか、適切な魔力量で書いたかによって変動する。これを意図的に汚く書いたり魔力量を減らしたりすることで威力の加減が出来る。といっても、限度があるようだが。水生成なら最小の効果でコップ一杯、最大でもバケツ一杯分の範囲でしか調整出来ないようだ。それ以上の水を産み出したいとなると別の魔術となるらしい。



「大分いい感じになってきたし、そろそろ次のステップに進むか」


 次のステップは初級魔術なのだが、今読んでいる本に初級魔術は書いておらず、『魔術・初級編』を読むことをお勧めされた。本がたくさんあって次に何を読めばいいかわからないので、おとなしくオススメを読むことにする。同じく、中級編・上級編・超級編と続いていたので、シリーズ物の本なのだろう。


 本によると初級魔術は属性と動作の2文字を使用する魔術全般を指すようで、この本では数ある動作の中でも “発射”・“治癒”・“付与“のいずれかの魔力文字を含む魔術が記載されていた。これらの文字は他の魔術でも使うことが多いので、これを使う魔術を覚えると後々楽とのことだ。頑張って覚えよう。





 初級魔術の練習を始めて1年が経過した。基本魔術を問題なく発動できるのだから初級魔術もすぐに使えるだろとか思っていたら全然そんなことなかった。


 本には書いていなかったけど、発動するには2つの文字を同時に書き上げる必要があるらしく、このタイミングが少しでもずれると発動しない。例えば属性を先に書き上げると生成魔術になっちゃうし、動作を先に書き上げると何も起こらずに術式が消えてしまう。しかも文字によって必要な魔力量が異なるので、これも考慮しないと発動しない。


 “目隠しした状態で両手に筆を持ち、左右で異なる絵を描くようなもの “とでもいえばその難しさは伝わるだろうか。この本を書いた人に初級とは何なのか小一時間問い詰めたい気分になった。


 誰でも使える技術とか言っているけど、その頭に『理論上は』っていう注釈が付くタイプの奴じゃないのこれ。それともこの世界の人はこの程度の魔術は当然のように使えるの?だとしたらこの世界の人って化け物しかいなくない?頭おかしいって。


 ・・・考えたら中級、上級、超級と進むごとに文字が増えるんだよね?この感じだと中級以降も全部の文字を同時に書き上げないといけなさそうだし、アホみたいに難しくなっていくんじゃ。10年で上級が使えたら天才とかそういうレベルの可能性ないですかね。いやでも俺のステータスはDEX500あるからその部類に入るはず。

 ・・・俺は天才だと思って頑張ろう。じゃないと耐えられる気がしない。


 ま・・・まぁ、きっとそんなことないよね。大丈夫だよね。超級魔術覚えました!ってなった時には既にお婆さんになっていたとか嫌だよそんなの。


 と、とにかく本に書かれていた魔術は火属性のモノ以外一通り使えるようになった!本当に頑張ったと思う。折角なので使えるようになった魔術を紹介しよう。




 まず初めは攻撃魔術。これは水発射ウォーターショットとか強風ウィンディ―といった発射系の魔術で、ただ水を勢いよく飛ばしたり突風を発生させたりするだけの魔術だ。攻撃魔術とはいうが、威力はないと言ってもいい。ただの悪戯レベルである。


 次に回復魔術。これに該当するのは光属性の微治癒スモールヒールのみ。それ以外の属性に回復魔術はない。本によると『かすり傷が治る程度』らしい。あんま使う機会なさそう。


 最後に付与魔術。これは○○属性付与という魔術だ。これ、本によると『対象に属性を付与する。対象の攻撃属性・防護属性が付与した属性になる』と書かれているんだけど、実際に発動すると何が変わったか全然わからないんだよね。

 試しにその辺の石に付与して思いっきり投げてみたりもしたけど、特に変化あるように見えなかったんだよね・・・。


 ど、どれも大した効果ではなかったけど、この先に進むにあたって必要な術式だし、付与魔術に至ってはこの発展形が清潔魔術になるというのだから、それはもう必死に覚えた。いつまでも冷たい水で身体洗うのは嫌だし。



 他にも初級魔術について書かれてそうな本はあるが、先にこのシリーズを読破しようと思う。次に挑戦するのは中級魔術だ。中級魔術は初級魔術に“形状“の文字を追加した3文字の魔術のことを指すとのこと。

 ここでようやく、ゲームとかでありがちな風矢ウィンドアローとか火球ファイアボールとかそういう感じの魔術が登場するようだ。引き続き頑張ろう。






 そして中級魔術の練習を開始して3年が経過した。・・・アホ程難しかった。難しいだろうとは思っていたけど、思っていた数倍難しかった。


 ”初級で1年かかったけど、その分魔力操作の技量も上がったしそれほどかからないかな”とか思ったけど、全然そんなことなかったね。


 両手だけじゃなくて足も使って絵を描くようなそんな感覚。まじで難しい。

 

 しかもこの難易度の割にボールとかアロー系の攻撃魔術は大した威力ないし。岩がちょっと欠ける程度の威力しかないんだよ?他も大した効果はなくて、使えそうなのが地属性の魔術に容器ケースっていうちょっとした箱を作れる魔術があってそれくらい?あとは視力や聴力といった五感を強化する魔術もあったけど、これ限界まで加減しても強化幅が強すぎて使い物にならない。聴覚強化したら聴こえすぎて頭痛くなるし、嗅覚強化したら部屋が臭すぎて気絶した。ヤバイ。



 ・・・ま、まぁ。本に書いてあった中級魔術も一通り使えるようになったし、上級魔術に手を付けよう。上級は魔力文字を四つ使用する魔術がこれに該当するようだ。清潔魔術もここに含まれる。あとは上級魔術を読破して超級を一つ使えればようやくダンジョン攻略に乗り出せるみたいだけど、ダンジョンから出れるのいつになるかなぁ・・・


 





 そして上級魔術の練習を開始して6年が経過した。私がこのダンジョンに来て10年。やっと・・・やっと清潔魔術が使えるようになりました!!!ここまで本当に長かった。いやぁ、快適だね。いままで暮らしていた場所がアホ程汚くなっていたのがわかったね。髪の毛サラサラ肌もツヤツヤ。服もめちゃ綺麗いやもう最高!!


 いやぁ・・・マジで難しかったね。文字一つにつき一つの四肢を使うようなものだったけど、超級からはこれがさらに増えるわけでしょ?マジで鬼。しかも本の最後に『おめでとうございます。これであなたは魔術師を名乗れます』って書いているんだよ?魔術師名乗るハードル高すぎない?しかもご丁寧に次は超級ですね!って感じでオススメ本も書いているし。


 まぁ、超級は一つ使えればいいみたいだから、厳選してダンジョン探索に使えそうなものを覚えよう。ここまで時間かかったのは魔術の数が多かったからっていうのもあるから、もしかしたらそんなにかからないんじゃないかな?





 超級魔術に手を付けて10年。ようやく・・・ようやく出来ましたあああ!!!!!そんなにかからないとか言ったの誰!?!?!私か!!!

いやたかが一つ覚えるのに8年も掛かるとか思わないじゃん。上級魔術だって一番時間かかった物でも1年だよ?かかっても3年かなって思うじゃん!。それが8年だよ!!なんかもう明らかに脳が処理できるキャパを越えてるのに、そこに強引にねじ込む感じ。脳みそもう一つ欲しいって本気で思ったの初めてだよ。本当に自分を褒め称えたい。

 

 え?何?10年のうちの残りの2年は何だって?そりゃ他にも色々覚えるのにかかった時間だよ!楽しかったんだよ!!”もっと早くダンジョン攻略乗り出せたでしょ”とか野暮な事いわない!!


 一つ覚えるまではもう本当に・・・ほんっっっとうに!地獄だった。何をどうやっても出来る気がしなくて、棚にある本を漁りまくったよ。


 その途中で『魔術の発動は、杖や魔導書などの魔導具を使用するのが前提・・である』って記載を見つけた時は心折れかけた。魔導具というのは、魔術式の構築をサポートしてくるものの事らしい。その上に魔法具というのもあるとかなんとか。

 

 これ見つけた時、”補助具無しで使うの想定されてないんかい!!”って叫んじゃったよ。”私の魔導具はどこ!!”ってね。



 結果として色々と知れたし、使える魔術も増えたからよかったけどね。属性文字を特定のルールに沿って複数使用すると複合属性や上級属性になるとか、1つの文字で実質2文字分の役割をこなす文字があるとか、いろいろあるってこともわかったし。

 ただ、これだけ色々知って、出来るようになってもオリジナル魔術作るには今の私が10人いてようやくってレベルらしい。”それ本当?”って思って試してみたら、そもそも術式を組むことすらできなかった。

 その原因が技量なのか何か他の条件があるのかはわからないけどね。本にも書いてなかったし。



 あと偶然にも魔法が発現した。これのおかげで超級魔術を使えるようになった。脳みそもう一つ欲しいと思ったら本当に増えたのは驚いたね。形は綺麗な銀色の球だからグロくないけど。おかげで八文字の空間切断ディメンションエッジが使えるようになったし、調子に乗って他の超級魔術も色々と覚えた。没頭しすぎてそれだけで二年が過ぎたけど、楽しかったからよし。


 さすがに超級魔術全部とは言わないけど、それなりの数使えるようになったとは思う。具体的には超級だけで30種類くらいあるんじゃないかな?数えてないから知らし、全部使う機会があるかもわからないけどね。



 ただ、これだけ頑張ってもまだ終わりじゃないんだ。それどころか20年かけてやっとダンジョン探索の前提条件を満たしただけっていうね・・・。

 幸いにも歳を取った感じはないから、”いつの間にかお婆さんになってました”っていうのは回避できそう。

 

 ふぅーー、でも流石に疲れた。しばらく休息期間に入ろう・・・。それが終わったらダンジョン攻略に乗り出すかぁ。・・・本当に疲れた。

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