第10話

 口に入れた俺は黙り込んでしまった。


 不安そうな顔をした彼女が俺に尋ねてきた。


「おいしく、ない?」

「…いや、そういうわけじゃないんだが…」


 彼女を傷付けないようにやんわりと評価を伝える言葉が俺の口からは出てこなかった。


 俺がそう悩んでいるのを聖女様は見てとると、聖女様自身の口に焼きそばを入れた。


 焼きそばを口に入れた聖女様からあっ…と言う言葉が漏れた。


「ちょっとこれ味濃いし、野菜…まだ固かったね…。ごめん」

「いや、別に美味しいし、大丈夫だぞ」


 俺は絶対に言うべきではない言葉しか浮かんでこずにこう慰めの言葉のようで傷を抉るような言葉を聖女様に言ってしまった。


「ごめんね。蒼人くん。迷惑かけて」


 聖女様はそう言うと俺が何か言う前に焼きそばの皿を持って、聖女様の部屋に行ってしまった。


 俺はそれを止めることも出来ずに、一人キッチンに取り残された…。


「ハハハ…」


 俺は椅子によっかかり、そう笑ってしまった。


「はぁ…、馬鹿だな俺」



 俺はその後考え込んだ末に聖女様の部屋の前に行って、聖女様の部屋のドアをノックした。


「畑山」

「…」

「入るぞ」

「やめて」


 そこで返事がなかったら部屋に踏み込むつもりだった俺は言う。


「生きてるのか。それなら部屋の外から言うから聞いててくれ」


 俺はそこでドアの横に座り、一息ついて更に話し出した。


「あのな、俺はまぁ、三年前に親が死んでからさ、誰かにこういうことを、何かやってもらうってことをしてもらったことがないんだよ。だからさ、正直こういう風にやってもらえるだけで嬉しかったんだよ」

「…」

「たださ、俺はどうしようもないクズだから、何を言えばいいのかも分からないし、なんで畑山が俺なんかのためにこんなことをしてくれてるのかも分からない。ただ、一つだけ言えることがあるんだ」

「…」

「俺なんかのために、ありがとう」

「俺なんか?そうじゃない!蒼人くんだから私はやってるんです!」

「はっ、はぁ…」


 俺はいきなり部屋のドアを開けて出てきた聖女様に圧倒されてしまい、そう返すのが精一杯だった。彼女は何か吹っ切れたのか俺に勢いよく話し出した。


「大体ね、蒼人くんは自分に自信がなさすぎるんです」

「いや、別にそれはしょうがな」

「しょうがなくないです。もっと自信を持ってください。蒼人くんは凄いんです!」

「…はっ、はぁ、まぁ善処はします…」


 俺は聖女様の勢いに流されてそう返した。そんな俺に対してまだ不満そうな顔をしている聖女様に俺は訊いた。


「あの、ここで話すべきことなのか分からないけど焼きそばの残り食べちゃ駄目?腹減ってるんだが」

「あっ、ごめんね。でも…」

「じゃあ、貰うな」


 俺はそこで立ち上がり、躊躇っている聖女様とドアの隙間を抜けて焼きそばの奪取を図った。


 ただ、それは聖女様によって阻止された。


「私が持ってくるから」


 聖女様はそう言い、俺に焼きそばの入った皿を渡してくれた。皿を受け取った俺は聖女様に尋ねた。


「畑山、どうする?畑山も食べる?」

「そんなのを全部食べさせるのは申し訳ないので私も食べます」

「おい」


 俺はそこで聖女様のおでこに軽いデコピンを浴びせた。聖女様は俺のこの行動に驚いた顔を見せた。


「!」

「そんなものじゃないっつうの。畑山がさっき言ったんだろ。もっと自分に自信を持てって」

「…」

「おい、行くぞ」


 俺がそう言い、キッチンに向かうと聖女様は俺に無言ながらも付いてきてくれた。


 キッチンに着き、俺らが二人とも席に着くと無言で二度目の昼食が始まった。


 何故か、その焼きそばは先程より更に味は濃くなっているが美味しくなっている気がした…。

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