第17話 ホテル

4人は都心を抜け新潟方面に走る。

公衆電話やコンビニの前を通る度に江口の姿を探す。

時間は午後11時を回っている。

こんなはずではなかった。皆に疲労の色が見えてきていた。

特にマサミは限界に近く疲れと眠気に襲われ意識が朦朧としていた。

コンビニに入って休憩をとる。

「江口何してっかな」

「寂しいだろうな」

「怒ってるかな」

「怒るだろ」

「その辺通らないかな」

「でもあいつ道は詳しいぜ」

「そうか?」

「だってあいつ全国の湖の名前言えんだぜ」

「わかる!すげぇよな」

「なんで湖なん?」

「知らん」

「沼か?」

「沼は全国多すぎるだろ」

だんだんとバカな会話になっていく。

「湖が分かるからって道は詳しくねぇだろ」

「この辺湖ねぇし・・・」

「あいつ本当はすげぇ頭いいんだよ」

「高校は進学校だ」

「いつも上位がつまんなくてわざと白紙で出して最下位とったらしいよ」

「で次に1位とったみたい」

「大学行けばよかったのにな」

「興味なかったらしいよ」

「アートを学びたかったみたいよ」

皆江口への申し訳なさからまるで故人を語るようだった。

季節は5月。夜はまだまだ寒い。

震えながらマサミは眠ってしまった。

「おい!行くぞ」

カズヨシに起こされコンビニを出発した。

しばらく走るとやはり限界が来た。

マサミはハンドルを握っている感覚もなくなってきた。

そんな走りに異変を感じたのか、カズヨシと関ぴょんが交互にマサミのバイクの隣にきては声を掛けていく。

一旦路肩に止まった。

「やべぇ、無理だ、眠い」

マサミは皆に言った。

「野宿か?」

「いや、無理だよ寒すぎる」

「どこでもいい、とにかく一番近い宿に入ろう」

また走りだす。

そのまま群馬県に入った。


しばらく走るとうっすらと青いネオンが目に入った。

白い文字が見える。

[白鳥]

ラブホテルだった。

カズヨシを先頭に入っていく。

駐車場に爆音を響かせ4台を止めた。

初めて入るラブホテルにマサミは緊張した。

古い建物だった。

4人が入り終わるとカズヨシが言った。

「しゃべるな、静かに」

「?」

「ブーツは2足だけにしてあとは中に入れろ」

「?」

「バカやろ、2人に見せかけないと料金4人分取られるぞ」

そうなんだ・・・マサミは思った。

童貞のマサミはラブホは当然初めて。関ぴょんも童貞だったので知る由もなかった。

コンコン、ドアがノックされる。ホテルの人の様だ。

カズヨシがドアまで行き対応する。ぼそぼそと声が聞こえた。

とりあえず前金を払いドアを閉める。

「よかったぁ、なんも言われなかったぜ」

当然だ、4人はビビっていたが、嫌なのはホテルの人間の方だった。

深夜に爆音で男4人がラブホに入る。関わりたくないはずだ。

タカが言う。

「カズヨシ、お前ブーツ隠したところでバイクが4台だろ?」

「あ」

「大体、時間で料金取るんじゃねぇの?」

「そうだな」

「まぁとりあえず風呂だな」

「マサミ先は入れよ、疲れてんだろ」

なんだかんだ優しい奴等だ。

ブルーのラメの浴槽にお湯を溜める。

服を脱ぐ。足が臭かった。

熱いシャワーを浴び、浴槽に入る。

初めてのラブホに落ち着かなかったがようやく落ち着くことが出来た。

風呂を上がりベットルームの戻ると関ぴょんが興奮していた。

「エロビデオ見ようぜ!エロビデオ、エロビデオ」

「元気だな、オメーは」

カズヨシが呆れたように言った。

「こんなチャンスもうねぇぜ」

「何のチャンスだよ」

「見なくていいよ、うるせぇし」

「興味ねぇよ」

マサミは強がった。

それに友達とAVを見る事程気まずい事はなかった。

抜けもしないのに見るAV程むなしいものはない。

「俺もう寝る」

「どこで寝る?」

「4人でベットはないな」

マサミは床で寝る事を選択した。がその代わり掛け布団をもらう。

タカも床。毛布をもらう。

カズヨシと関ぴょんがベットで布団なしだった。


あぁん!

気持ちいい!

もっと・・・

もっと・・・

『女の人って本当にこんなに気持ちいいのかな…』

喘ぎ声の中、童貞のマサミはそんな事を思いながら眠りについた・・・。

この女優の名前だけはしっかりと記憶して・・・。



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