第2話 疑惑

入校から1週間、S字、クランク、一本橋。

順調にカリキュラムを消化していった。

特に一本橋という幅30cmの橋を渡る授業については仲間達に言われ続けていた。

「一回でも落ちたら追試だぜ。」

関ぴょんが言う。

「おめーは絶対落ちる。くっくっくっ。」

カズヨシは嬉しそうに笑った。

「でも一本橋は簡単だよ。目の前は見ないで橋の出口を見て進めばいい。」

「あと一本橋に入ったらエンジンふかさずクラッチ切れ。」

このアドバイスが効いた。

自分でも驚くほどにうまくいった。

そしていよいよ卒業検定だ。

スタートしS字、クランク、一本橋をクリア。一気に緊張が解けた。

しかしここで落とし穴があった。

坂道発進だ。

坂の途中でバイクを止める。後方確認を行いスタートする。

『慌てるな、エンストさえ起こさなきゃいい。』

エンストを恐れるあまりアクセルを回し過ぎてしまった。

ヴヴゥーン!!あまりの大きいエンジン音に動転し慌てて戻す。

でクラッチを離す。

無回転でクラッチを切った為当然エンスト。

この時点で終了だった。しかし動揺しているマサミは止まらない。

ギアをニュートラルに入れエンジン始動。

もう1度スタート。しかし後ろに下がってしまった・・・。

『終わった』

いやいやすでに終わっていたのだ。

案の定あの乾いた声が無線機から聞こえた。

「はい、高橋さ~ん、終了で~す。もどってぇ~」

1時間の追試だ。

卒検は翌日以降に持ち越しとなった。


翌日、専門学校に行くと関ぴょんは言った。

「卒検終わったか?良かったな、免許。」

「いや、卒検今日だよ。」

とっさに言ってしまった。

「嘘だろ?昨日って言ってたじゃん。」

「違うって今日だって。」

「ははぁ~ん、おめー落ちただろ?」

「S字か?一本橋か?」

素直に落ちたと言えばいいのに何か見透かされたようでむきになってしまった。

「違うって。1日間違ってた。」

そこへカズヨシもやってきた。

「卒検どうだった?余裕だろ?」

益々本当の事が言えなくなってしまった。

「いや、1日間違ってた。今日卒検。」

マサミはタバコを吸いにその場を離れた。

関ぴょんはカズヨシに言った。

「あいつ落ちたんじゃね?1日間違えるか?昨日の今日だぜ?」

「間違った事にしといてやろう。」

「いや、あいつぜってぇ落ちたよ。」


その日、マサミは無事に卒業を果たした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る