第37話 俺たちの稽古

俺は剛柔流空手という沖縄を本家とする琉球空手を習っている。

うちの道場は、昔の流れを汲んだ所謂古武術的な要素を含んでいる。

この辺の稽古は、15歳以上にならないと行わないが、一般的に想像する空手とは、徒手空拳で戦うイメージが強いだろ?

一般的に空手のイメージって、クマやトラに素手で挑む、瓦を割りまくる…みたいなものもあるかもしれない。あの伝説の大〇倍達先生みたいな。あの先生も元は剛柔流を修めていたりする。

うん。当然だけど、普通にそんなことしていない。

うちの道場では、一般の部、ジュニアクラス(15歳まで)とシニアクラス(15歳以上)とその上に有段者の部がある。

これは、うちの道場だけかもしれないが、うちの道場での黒帯(有段)は15歳以上でないと、どんなに技術があってもなれないことになっている。

このルールの為に辞めて行ってやつも結構いたな。


一般の部(ジュニア・シニア)での練習は、基本的に立ち方、礼儀所作、突き・蹴り・形・約束組手の反復となる。

ほとんど自由組手はやらない。焦らなくてもこれらの基本を真面目にやっていれば驚くほど役に立つ。これは、俺自身が身をもって知っている。

自由組手なんか、有段の部になったら嫌というほどやらされるし。

主に師範と師範代の相手として…。軽いトラウマものだ。


なお、俺たちは有段の為、17時以降であればいつでも道場を使えることになっている。残っている道場生がいれば指導することもある。

それが終われば22時までは自由に稽古をすることができる。


今日は師範代がいたため、俺と聡汰が指導することもないと判断。

着替えた俺たちは、道場の隅でストレッチをしていた。

そして一通りストレッチを終え、撃砕1・2、ウンシュー、サイファ、セイエンチン、ニーセイシ、サンセイル、セイパイ、テンショウまでの形の稽古を準備体操代わりに行う。

形も聡汰とやることでなんとなくになるのが不思議だ。

このあと、約束組手をやろうと聡汰と話していると、師範からお呼びがかかった。

嫌な予感しかしない。


師範から、準備ができた方から組手をやるとの話があったので、俺は武器術の練習があるからと辞退し、サイ(Ψ)とトンファーの置いてある方に向かおうとした。


が、師範から…。

「おいおい、お前の大好きな組手だぞ?萌。聡汰と組んでも構わん、早くしろ!」

一喝され、巻き込まれた聡汰から恨みがましい目で見られる。

「今日は、剣道の稽古が休みだったから少し楽ができると思ったのに…。ド畜生が!!」

「先生すいません。こいつが文句を言うんで、二人でアップをしてもいいですか?」

「構わんぞ。早く体をあっためろ。」

「聡汰。諦めろ、軽く体を動かすぞ。」

「くそ、覚えてろよ。泣かせてやる。」

こいつ俺達が相手だと口が悪いよな。ま、気の置けない仲間だからかね?

「っしゃ!やってみな!」


俺たちが組手を始めると他の残っていた道場生がこちらを注目する。

うーむ、恥ずかしいな。

「気が散ってるぞ、萌。」

聡汰の前蹴りが俺の鳩尾に向けて放たれている。

とっさに体をずらして外そうとするが、なぜか聡汰の足が俺の脇腹に刺さっている。

ありゃ三日月蹴りだったか…、浅くはないな。

だが、読み違えた俺が悪い。

痛みを飲み込み、一気に集中していく。

二人ともにリズムをとることはせず、低く前屈に近い構えに直し、対峙する。

間合いの取り合いが始まる。


相手の呼吸を読み、一気に間合いを詰め聡汰の脇腹に肘を入れる。

だがこれは聡汰が半歩下がり躱された。なんかこれまでにはない動きだったな。

剣道の動きでも取り入れたのか?

ま、いっか。

俺は勢いそのままで追い突きで距離を詰める。

聡汰の胸部に当たり、一瞬動きが止まる。

俺は転身し、距離を測り中断の前蹴りを入れ完全に動きを封じたところで、

首元に寸止めで突きを入れ、残身の構えをとる。

ここで、先生より「止めっ!」の号令がかかりいったん組手をやめた。


この時、聡汰との組手がヤケにあっさり終わったこと、きれいに突きが入ったこと。そもそも三日月の後攻め込んでこなかったことを今更疑問に思う。


「萌、この後大変だろうけどがんばれよ!」

聡汰は凄い爽やかな笑顔で激励の言葉を…。

「計ったなこの野郎!あぁぁ、なんで勝ってしまったんだぁ。」

先生の性格からすれば、勝った方と組み手をするのが定石だったんだ。

それおみていた先生は呆れていた。

「早くしろ、萌。以前のお前なら嬉々として出てくる場面だろうが!」

今でも嫌いではないんですが、最近は稽古自体おろそかになっていたから、先生の攻撃を受けきれるか心配なんです。

先生の攻撃は基本的にさばけない。

技の極致に無拍子というのがあるらしいが、先生の攻撃モーションは見えていてもなぜか避けられないのだ。先生曰く、そう意識してんだから当たり前だろと何食わぬ顔して言われて俺と聡汰が呆れたことがあった。

この技術には、以前稽古に来た、有名プロ格闘家の方も驚いていた。

ちなみに父さんはこれを躱していたらしい。

(野生の勘で…。それって万能じゃないんだよなぁ…。)


そうして、ボロボロになるまで師範に絞られたのであった。

もちろん俺の後は、聡汰もボコられていた。



















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