第23話 俺の想い。
琉球剛柔流の空手道場を後にした俺はモカとの待ち合わせ場所へ向かっていた。
今日の授業終わり、教室の前で鴨川の親父さんへの伝言を久美にお願いしていた時、話がモカにも聞こえていたようで、心配そうな顔をしたモカが今夜どうしても会いたいと言い出したのだ。
モカのお願いとなると断ることも出来ず、了解してしまったが用事があり何件か回るため約束の時間に遅れるかもしれないと伝えてあった。
だから、なるべく人がいるところで待っているようお願いしたつもりなのだが…。
時間ギリギリであったが待ち合わせ場所であったショッピングモールに到着した。
人気のある場所で待っていると言っていたモカであったが、なぜか駐輪場で待っており、今日も二人組の男にナンパ?されていた。
またかよ…。と思いつつも可愛いモカを誘いたい男どもの気持ちもわかる。
が、それとこれは別の話だ。腹の底に怒りが湧いてきた。
「おい、俺の連れになんか用か?」
思ったより低い声で、威嚇してしまった。
しかし、頭の悪そうな男2名は、
「あん?なんだお前?あっち行けよ。この子は俺らが先に声かけてたんだよ。」
「あっち行ってろよ。ケガしちゃうぞ?」
などと、威嚇し返してきた。
モカは男2人が俺に気を取られている間に、俺の後ろに隠れている。
「萌君。ゴメンなさい…。また変な人に絡まれましたぁ。」
「なんでこんなところで待っていたのか気になるが、ナンパに関してはモカが悪いわけじゃないし、謝らなくていいよ。それじゃ、モールの中に行こうか?」
「うん。ご飯食べながら少しお話がしたいです。」
「「おいっ!?」」
「勝手に二人の世界に入ってんじゃねーよ?」「殴られてぇのか?」
頭の悪そうな二人は、頭の悪そうなことを言い出したため、予め警告はしておく。
「殴られたら殴り返すけど後悔するなよ?」
と、俺の話を無視して攻撃してきた男どもであったが、単純すぎる突進であった為、45度転身して足を引っかけて、一人はあっさり終了。
2人目は金属製の警棒のようなものをトートバッグから取り出し奇声をあげながら攻撃してくる。
怖くなったのかモカが顔を青くしている。
モカを怖がらせるなんて許せねぇな…。
警棒の振り下ろしに合わせ迎撃する。
回し蹴りを警棒を握っている手の甲に当て警棒を落とし、下段蹴りをインロー気味にあて、動きが止まったところで肘を男の鳩尾に入れる。
たまらず、崩れ落ちる男その2。武器まで所持していたということは普通の奴ではないのだろう。一応、警察を呼んでおいた。
呼んでおいてなんだが警察ともかかわりたくなかった俺は、早々にその場所を離れた…。
ちなみにバイクも別の駐輪場に移した。
モールに入ったところで、モカに声をかける。
「モカ、大丈夫か?また怖い思いさせてごめんな。」
「萌君…。ありがとうございます、萌君はやっぱり私のヒーローですね。でも、ケンカはダメだと思いますよ。萌君がケガをしたら…私は悲しいですから。
助けてくれたのはうれしいですし、とってもカッコ良かったのですが…。」
俺の目を見つめながらそう言ってくくる。
モカの顔は真っ赤だ、怒っているのだろうか?
「ゴメン。モカ、一応警告はしてみたんだけどな…。
でも、正当防衛ってやつじゃない?あいつらの自業自得というか?」
一応言い訳をしてみる。
「もう。私を助けるために、あなたがケガをしたら私はきっと自分が嫌になってしまいます。もちろん、あんなところで待っていた上に、絡まれたときにキチンと対処できなかった私にも非はあったのですが。」
モカに、そう言われてしまうと俺は反論ができない。
怒られているのに嬉しいって変な感じだな…?
「うん。今度はもっと考えて行動するよ。心配してくれてありがとう。」
「はい。わかってくれてうれしいです。私のために戦ってくれたのに私が怒るのもおかしな話なんですけどね。萌君がつらい目に遭うところはもう見たくないんです。」
話しながらモール内のファミレスに移動した。
そこで食事をしてから、少し散歩をすることにした。
広場のベンチに座ったところで、モカから話し出す。
「お父さんのこと、本当に大変でしたね…。望んだ形ではなかったと思いますが、帰ってこれることになってよかったです。
萌君。貴方は一人で戦っていたんですよね。
大好きなお父さんの名誉の為に。すごいことだと思います。
身勝手な暴力や誹謗中傷にも負けずに。そんな大変な時に一緒にいられなかったことが私は悔しかったんです。貴方の苦しいときに傍で少しでも癒してあげられたらとずっと考えていました。
でも、今は一緒にいられます。貴方が望んでくれるなら私はずっと一緒にいます。
今日も大変でしたね。これは私から貴方へのご褒美です。どうぞ、ここに頭を乗せて休んでください。」
そういって、顔を赤くしながら太ももをポンポンたたいている。
俺が恥ずかしがって躊躇していると、モカが両手で俺の頭を包み、
「大丈夫、誰も見ていませんよ。」
と、優しくささやいてくれる。
そこまで言われ、俺は体から力が抜けてしまう。
そして、彼女の柔らかい太ももに頭を乗せ、ふと上を見上げると彼女の胸が…。驚いた俺は、思わず横を向いてしまう。
「くすぐったいです。」と彼女は笑うが、俺は照れくさくてそれどころじゃない…。
でも、とても安心できた。彼女が頭をなでてくれる。「頑張りましたね」といいながら…。俺は目を瞑っていたのだけど、自分の目から涙が流れていることに気が付いた。
やっと、自分のことを理解してくれる人が現れた気がしてホッとした。
あの時の勘違いとは違い、本当に俺のことを理解してくれていることがとても嬉しかったんだ。
モカには気づかれないように静かに涙を流した。
そして俺は、この時、萌香のことを心から好きなのだと確信してしまった。
彼女なら信用できると心から思った。
でも、今はこの気持ちを伝える自信がなかった。
父さんのことに決着がつけば、もう少し心に余裕ができると思う。
そうしたら、モカに気持ちを伝えられるよう努力しよう。
そう考えていた。
「ありがとう、モカ。俺なんかと一緒にいてくれて。」
今の素直な気持ちは伝えられた。
「どういたしまして。でも、なんかというのは禁止ワードですよ。貴方と一緒にいることが私の一番の幸せなんです。」
嬉しい言葉が返ってくる。
いつか両想いになれるといいな…。
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