第14話 マスターとオーナーと俺?

この店、アグスタはオーナー義徳マスター義仁の兄弟経営の店だ。二人は双子で、ゴリマッチョなところとかよく似ている。

接客やコーヒーやらドリンク関連についてはマスターが担当して、仕入れを含む食事関係をオーナーが担当している。

普通こういう場合、オーナーとマネージャーとかの呼称が一般的なような気もするが、この店ではこれが普通だ。ちなみに2人とも既婚である。

なお、店の名前はバイク好きが嵩じた結果だそうだ。


今その、オーナーとマスターが目の前にいる。

腕を組んでいる筋肉隆々の男性二人が、俺と対峙している。

これが噂の圧迫面接か?


「さて、ハジメ君。君は今日、とても綺麗で素敵な女性を助けたそうだね?」

ものすごく含みのある言い方で、オーナーが確認?してくる。

これは、彼女を連れてきたのがまずかったのか?

でも、マスターは何も言ってなかったよな?

あれ?なんでマスター俺に手を合わせてんの?成仏しろと?

マスターはそのポーズのまま部屋を出て行った。


「はい、助けましたが、やはりここに連れてきたのはダメでしたか?あと、騒いでしまったのがまずかったですかね…?」

恐る恐る確認をすると。


「いや、勘違いしないでくれ。助けたのも連れてきたのも、多少の賑やかしも別に構わない。むしろGoodjobだ。此方こそ話の途中で呼んでしまってすまないね。確認したいのは君と彼女の関係と距離感だ。」


「ん?距離感?関係って、どういうことですか?」


「私の知る限り、彼女は加賀さんの処のお嬢さんではないかな?」

確かに彼女の姓は加賀だ。


「ご存知なんですか?萌香のこと。」


「おぉ、彼女のことを名前で呼んでいるほどの仲なのかね?すると誠一君のことも知っている?」

オーナーも誠一兄さんを知っているのか、世の中意外に狭いな。


「はい、暫くというか幼いころに会ったきりですが誠一兄さんとも面識はありますよ。」


「そうか、世の中は意外に狭いな。もしかしたら、これも、一郎君の巡りあわせなのかもしれないな。」


「あれ?父さんのことも知ってたんですか?」


「君の両親とは同級生さ。僕らもみなみ高の卒業生だからね。

ちなみに君のお母さんはまだ気が付いていないようだよ。hahaha…。

まあ、あの頃とは容姿も変わっているから仕方ないかもしれないが。」


「そうなんですか。全く知りませんでした。でもよくわかりましたね?父さんの息子だって。家族のことは履歴書にも書いてなかったと思うんですが。」


「正直、気が付いたのはつい最近だよ。君が髪型を変えて素顔を出したろ?それを、観てピンときたんだよ。君のお父さんとお母さんは、学校でも有名なカップルだったからね。一郎君とは友人だったし、顔もよく覚えていたから。卒業してもバイク仲間は定期的に、この店に集まっていたしね。」

あ、校長先生が言っていたバカップルの話だ、これ。


「そうだったんですね。でもそれと萌香は、何かつながりがあるのですか?」

極めて冷静に返した。


「彼女のお父さんは個人輸入業を営んでいるのは知っているかな?」

本当にどんな関係なんだ?こんなによく知っているなんて。さすがに同級生はないはず。おじさんの方が父さんより年上って感じだったし。


「はい、今も仕事の関係で海外で生活していると聞いています。彼女も誠一兄さんもお父さんの仕事の都合で、海外に引っ越したのを先ほど思い出しましたから。」


「彼女のお父さんとは長い付き合いでね、この店を始めるきっかけでもあったんだ。ちなみに僕は違うお店でイタリアンの修行をしていたんだけどね。

当時、加賀さんは弟の義仁よしひとと同じ商社に勤める先輩だったんだけどね、ちょうど脱サラして、個人輸入業を開業したところだったんだ。

当時は僕の修行先のレストランに集まってはバイク談義のできる素敵な場所を作りたいと語っていたんだよ。

このお店は、そんなときに祖父から譲り受けたお店なんだ。義仁が祖父から喫茶店経営イロハを教わって、運営の準備ができたころ、調理を担当する俺の修行も修了してさ。そしてイタリア系の雑貨から食品に至るまで、加賀さんがお勧めのものを格安で用意してくれてね、イタリアンな喫茶店をオープンさせたんだよ。当時の加賀さんはものすごいイタリア贔屓だったからとても助けられたのさ。

義仁は、バイクも卸してもらっていたな。

長くなったけど、このお店と加賀さんのつながりは分かってもらえたかな?

そんなわけで、大事な恩人のお嬢さんだ、君には大切にしてもらわないと困ると思ってね。萌香さんの君に対する態度はとても分かり易いからね。」


モカの態度が分かり易いってどういうことだ?


「そうだったんですか。でも、彼女とは先ほど再会したばかりで、友人とはしては大切にしたいと思っていますが…。

友人で良いんですかね?俺?

確かに美人だから今日みたいな危ないことがあればいくらでも助けますけど。」


「マジか、君は鈍感なのか!?あれだけ態度と言葉に出されているのに…。彼女が不憫に思えてきた…。」

何故かオーナーが項垂れている。


「失礼ですが、一つ聞いてもいいですか?」


「何かね?彼女の気持ち以外の事なら教えられると思うよ。」


「いや、そういうんじゃなくてですね、呼称なんですが、何でマスターとオーナーなんですか?」

と質問すると、戻ってきたマスターが答えてくれた。


「それを今聞きますか。ま、いいけど。もともとは私がオーナーと呼ばれたりマスターと呼ばれたりしてたんだけど、ややこしくてさ。私はフロントに立って飲み物の用意することが多いからマスターと呼んでもらうようにしてたんだ。それから奥で偉そうに構えているから、兄貴こと義徳よしのりはオーナーと呼ばれるようになったんだ。それまでは、義徳はみんなから兄貴と呼ばれていたから、本人もオーナー呼びの方がが気に入ったみたい。ま、協同経営だからどっちでもいいんだけどね。」


「僕も皆から兄貴呼びされるのは慣れなくてな。今の呼称の方がありがたいわけだよ。」


「さあ、萌香ちゃんのアルバイト面接終わったから戻ってお話してきていいよ。彼女はホールで接客担当だ。」


「え?うそ?なんで??」


「いやぁ、久しぶりに萌香ちゃんと話してきたんだけど。とってもいい子だからスカウトしてみた!君ら美男子と美少女だからうちの看板になれるよ。」

マスターがウザイ顔でどや顔をしている。


「それはいいね。彼女にもいい経験になると思うし、早速学校の許可も取ってもらおう。始めるなら早いに越したことないしね。今夜予約入ってるからその時にでも話したら良い!」


何でこんなことになってんだ?

モカもそれでいいならいいのか?

お小遣いを稼ぎたいのかもしれないし。


あっ、シフトはしばらく俺と同じらしい。

帰りは俺が送ることになった。













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