第7話 憧れの父と俺と・・・
とても濃い学校での一日を終え、約束通り校長先生の国産有名SUVランドなクルーザーで祖父祖母の待つ母の実家に戻ってきた。
「ただいま、今帰りました。」
玄関に入り、大きな声であいさつをすると奥から祖母が出てきて迎えてくれた。
「おかえりなさい、ハジメ。長野先生もお久しぶりです。」
「ご無沙汰しております。すっかり遅くなってしまって申し訳ありません。お元気そうで何よりです。」
「そうですか?ハジメの顔見る限り、大変だったみたいね。
でも今日はいい顔をしているわ。まるで呪いが解けたみたいにすっきりして・・・・・。良かったわね。」
「ばあちゃんも、ゴメン。これからはまた、頼ることも考えるからさ。」
「ハジメ、あなたはどんどんわがままを言いなさい。私たちを困らせるくらいでいいのよ。遠慮しすぎなのよ。」
「良かったな。頼ることは大切なことだけど、困らせちゃだめだぞ。ではまた明日!おやすみ、ハジメ君」
「先生、ありがとうございました。また、明日から頑張れそうです。」
「長野先生、親子二人が本当にお世話になります。今のご時世、長野先生みたいな先生に出会えた二人は幸せ者ですよ。」
「そう言ってもらえて何よりです。でも、私のような立場の者よりも、もっと近くで彼のことを助けてくれる友人や先生はたくさんいます。きっと大丈夫、彼には良い未来が待っていますよ。では、失礼します。」
そのあと、婆ちゃんは先生に何も言わず頭を下げていた。
先生が帰り、着替えた俺は、爺ちゃんと婆ちゃんと楓と夕飯を食べた。会話は特になかったがいつもより肩の力が抜けていたように思う。婆ちゃんのご飯は相変わらず美味しい。なんだかいつもより味がはっきりしている気がした。
夕食も済ませ、自宅に帰ろうと思ったが、もうクタクタだったので、今夜はここで休ませてもらうことにした。この家に俺の部屋はない、だから客間を使わせてもらう。制服用のシャツや下着類もいくらかは置いてあるため通学にも支障はない。
パジャマはここに残っていた父さんのジャージを借りた。
色々ありすぎて、その日の夜はすぐに布団に入り寝ることにした。朝は早く起きて、弁当を作り、母と顔を合わせる前にこの家を出たいと思いながら、あっという間に寝入った。
色々ありすぎたせいか、夢に父が出てきた。
オレンジと紺色の制服を着ている。特殊チームのワッペンがかっこいい。
さすが夢の中だ。俺が憧れたあの頃のままだった。
夢の中、ある日の会話などが蘇ってきた。
俺の憧れの制服に大きめの日の丸のワッペンがついている。国際救助隊の証だ。僕ら家族の写真を必ず胸のポケットに入れてあると父さんは言っていた。皆には内緒だそうだ。
そうすると普段の百倍の力が出るとか。だから、人も助けられるし自分の身を守ることも出来ると。
あと、俺たちはチームだから頑張れるなんて話もしていた。
出発の前夜は、他にもいろんな話をしていた。父さんが留守の間は俺に家族を託すぞとか、母さんは意外と寂しがり屋で今夜は大変だとか(子供に何言ってんだ!?)、楓は母さんに似て美人になりそうだけど今から気が強くて将来が怖いとか・・・、くだらない話をしているうちに母さんから早く寝るよう怒られてしまった。
いつもより寝るのが遅かったからか、寝坊してしまい朝起きたら父さんはもう出発した後だった。
起こしたけど、起きなかったと母さんに言われた。
いってらっしゃいが言えなかったことが悔やまれた。
楓はちゃんと言えたのだろうか?
国際救助隊の海外災害派遣は、二週間の予定であったが父さんは帰国してこなかった。母さんは先に電話で聞いていたらしく、少し前から落ち着かない様子であった。
帰国予定の日から数日経ったある日。
突然消防庁の偉い人から、家族と親族が呼び出された。
俺らに対し父さんの現況を説明するとのことだった。
派遣最終日の前日、撤収準備中に二次災害が発生し、それに巻き込まられたとの説明があった。
若い隊員は慣れない生活での疲れが溜まり、帰国間近で幾らか気が緩んでいたらしい。
崖下で撤収準備をしていた隊員を注意して、父さんたちが撤収準備を手伝っていたところ突然が土砂が崩れたと、大量の土砂が迫ってくる中、足がすくんで動けずにいた若い隊員を体当たりで逃がしたらしい。だが、自分は逃げ出せず、土砂に飲まれ流されてしまったとのと。帰国日以降、国から残留が許された1チーム5名が4日間残り決死の創作と救助活動を行ったが、痕跡すら土砂に流されてしまい状況は最悪であるという説明があった。現地の救助隊が引続き捜索をおこなっているが良い情報はないとのこと。
現地が雨期に入るとさらに状況は厳しくなるとの説明があった。
助かった隊員は、軽傷であったが我が家に説明に来ることはなかったと思う。
当時、小学生であった俺は説明に納得がいかなかった。
何故父さんを残してみんなが帰ってきたのか?
父さんが守ったものはなんだったのか?
マスコミなどに聞かれるたびに父さんは生きていていつか帰ってくると答えていた。
本音だったし、本気で答えていた。
しかし、それがいけなかったのだろう子供ながらそんなことを言っていたものだから、俺を慰め、ほめてくれる大人もいたが、俺のことを悲劇の人を装ったかまってちゃんみたいにいう連中や賠償金目当てみたいにいう連中、助かった隊員が単に優秀で父さんがドジだったなんてことを言う輩まで現れた。
また、消防署の人が来てあまりマスコミに出ないで欲しいと警告しにくることもあった。
友達だと思ってた奴らにも揶揄われ痛い奴扱いされた。
もう誰も信じたいとは思わなかかったが、両親の祖父母と鴨川一家は昔からの付き合いもあり、俺のことを本気で心配して助けてくれた。この人たちが居なかったら、俺はたぶん立ち直れなかっただろうな。
そして大きくなったら、父さんを探しに行こうと決意した。
小学生のうちは体力作りをしていた、ランニングしたり、空手にも打ち込んだ。真司さんに頼んで少しだけど英語も教えてもらっていた。
中学生になり、独学でロープワークや、筋トレ、山岳救助の講習やファーストエイドについても知識をつけていった。
また、空手でもストイックにひたすら稽古をしていた。師範には周りの声など気にしないで、学生のらしく遊べとよく𠮟られていた。師範夫婦にもずいぶん助けられた、俺が絡まれていた時に返り討ちにしてくれたこともあった。
同級生や先輩から父の悪口を言われ、喧嘩になり、相手に怪我をさせてしまった時も力の使い方は間違えるなとよく怒られていた。
しかし、相変わらず揶揄われたり陰口を言われたりしていたので、この頃にはほとんど表情をなくしていたんじゃないかと思う。表情に出すとそれをまた揶揄われるからだ。中2の頃は不登校になりかけていたが、母親は何も言わなかったが・・・。
そんなことばかりやっていたため運動はできたが成績はがた落ち、当然友達もほとんどおらず孤立している時期もあった。
孤立は寂しいし辛かったが迷惑を掛けたくないからという理由で俺から仲の良かった幼馴染とも距離を置いていた。向こうは文句を言っていたが。
でも、中学でできた友達が僅かにいたためそれほど会話には困らなかった。
学校の外で、久美とは遊んでいた。
鴨川の家にいるときにバイクの修理を習う。真司さんからも色んなことを教えてもらった。
何故かこの家にいるときは表情があったらしい。まあ、普通に楽しかったからだろう。
中3になりこのままでは、行ける高校がないと春の三者面談の時に当時の担任から言われた。母にも痛い目で見られ、
「あんたみたいなバカが息子だなんて恥ずかしいわ。もっと楓のように頑張りなさい」
といわれ、イラっとして、思いっきり睨みつけ反抗してしまい、目をそらされたのを覚えている。俺に興味なんて無いのに今更なんだよって感じだった。
別に中卒でも父さんを探しに行ければいいやくらいにこの時は思っていたから。
(この時の自分は本当に考え無い、否、考えることを放棄しただけの無鉄砲バカだったと後に実感し、冷や汗をかいたが・・・。)
しかし、祖父母と鴨川家から、せめて高校には行けと説得され、ハジメなら大丈夫だと、励ましてくれた真司さんと久美にスパルタ式に勉強を教えてもらい猛チャージしていった。
元々海外へ捜索活動に行く為に英語や地理、数学は勉強していた為なんとか受験に間に合い、晴れて久美達と同じ学校に通えることになった。
この時は、うれしさよりも祖父母や久美、真司さんの期待答えられたことにホッとしていた。
高校に入ってから、菅谷に出会い、生徒会に出会い、先生に出会い、相変わらず嫌なこともあったが、表情は戻ってきた。
日常というものもバイトや友達のおかげで取り戻せた。
ここまで本当に色んなことがあったな。
父さんにも教えてやりたいよ。
早く会いたいよ。父さん・・・・・。
夢の中で回想していたが、
この夜、夢に出てきた父さんは、出発前夜に俺に見せてくれたオレンジと紺の制服を着ており、何故か、両手を合わせて俺に謝っていた。
そして、声は聞こえないのに、なぜかわかるんだ。父さんが伝えようとしている言葉が。心に直接響いてくる感じといえば伝わるか?
「萌、父さんな、ヘマをしちまった。
自分を助けることが出来なかったみたいだ。
本当にごめんな、萌にはとんでもない苦労をかけたな。
でもな、チームのみんなを恨まないでほしい。
みんな必死にやってくれたんだ。
それから母さんを許してやってくれよ。
嘘じゃなく、本当にお前のことを心配している。
どう接していいかわからないみたいなんだ。
まぁお前は、俺よりも芯が強い男だ。
うまくやれるよ。俺のことは気にせず、
肩の力を抜いて楽しく生きろ!
いつか、お前とはツーリングキャンプに行ってみたかったぜ。
楓のこともよろしく頼むぞ。家族を守ってやってくれ!
愛してるぜ。息子よ。じゃーな。」
そう言いながら遠ざかっていく父さん。
父さんが見えなくなったと思ったら、俺の目は自然と覚めた。時刻は朝5時。薄暗いが日が出始めていた。
「待ってくれよ、父さん、俺の話もきいてくれよ・・・・。」
そして、父さんが帰ってくると何故か確信し、朝から泣いていた。
※ このお話はフィクションです。消防関連の事故を題材に取り上げておりますが日本からの災害派遣に於いて消防官(消防士)の死亡例はありません。実在のお店、メーカー、バイク・車も登場しますが一切、実在の物とは一切関係ございません。ご了承ください。
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