第3話 回想からの開戦・・・

教室に入り、席に戻った俺は机に突っ伏しながら1年前のことを思い出していた。


入学当初、他人とかかわりたくなかった俺はクラスメイトとも壁を作りボッチ生活をしていた。


菅谷出会ったのは入学式の日。

親の参観がなかった生徒に対して、事務職の先生から入学関連書類の説明を受けるよう指示があり、ホームルーム終了後、職員室に呼び出されていた。

この時一緒に説明を受け、それが切欠で話をするようになった。


菅谷は、クラスメイトで友達ではあったが、いつも一緒というわけではない。彼はみなみ高の一大勢力であるバスケ部に所属しているため友達も多かった。イケメンだから男女ともに人気者だしな。

その対極にいる俺は、休み時間は常時イヤホンを装着しスマホをいじっている、そんな俺とばかりいるわけがない。


休み時間など、一人の時間も結構あった。一人の時はイヤホンをつけて寝ているか、イヤホンをつけてスマホで小説を読んでいるかという感じであった。イヤホンバリア便利。


そんな、ボッチライフを静かに満喫している俺のことを気にしてか、気を遣ってかは分からないが、話しかけてきたのが、伊藤 瞳いとう ひとみさんである。


彼女は、すらっとしたモデル体形に、少し幼さのあるきれいな顔つきであり、長めの黒い髪が良く似合う美少女。黒縁の大きめの眼鏡が真面目そうな雰囲気を強調していた。クラス委員も引き受けていたため、面倒見も良いのかもしれない。


そんな彼女が声をかけてきても、最初のうちはイヤホンバリア全開で、聞こえないふりをしたりしながら適当に流していたが、結構な頻度でしつこいくらい話しかけてくるので、少々めんどくさいと思いながらもなんとなく話すようになっていた。


 帰りも同じ方面であったため、電車も同じ路線を利用していた。まだ2人ともクラブにも所属していなかったことから、一緒に帰ることも自然と増えていった。

彼女は聞き上手だった。なので自然と色々な話をしてしまっていた。体育祭の準備などを手伝ったり、試験の勉強を一緒にしたりしているうちに心を開いてしまい、6月ごろには一応、彼氏彼女の関係になっていた。

だからといって、何があったかといえば何もなかったし、どちらから告白したのかも、付き合いだした日も、もううろ覚えだ。

その程度の希薄な関係だったのに、あの時はこの子なら信じてもいいのかなと思っていた。


それでも一応、彼氏と彼女だったはずなんだし、夏休み明けにあんなもん見せつけられたら、だれだって人間不信になる。

捨てられたきっかけは、俺がアルバイトを始めたことだったんだろうか?


俺にも生活があるから、高校生でも長期で雇ってくれるアルバイト先を探して希望に沿うところをやっと見つけたのだ。

5月の体育祭の後、担任が顧問の書道部に一応入部した。幽霊部員だったが・・・。担任にも生活のことを説明しため息を貼近柄納得してもらった。


俺のアルバイト先は、喫茶店で夜も食事を提供している、営業時間は22時までだ。

オーナーはとてもで面接の際、家族の事情と長期バイトが必要な理由を淡々と説明した。

あと、履歴書にバイク免許取得予定と書いていたら、なぜか時給を少し上げてくれた上に即採用としてくれた。

オーナーもかなりバイクマニアらしく以前は店にもイタリア製の珍しいバイクを飾っていたが、奥さんに怒られて片づけたとのこと。


俺がアルバイトを始めるときには、彼女も俺の家族事情のことも話してあったし、見つかった時には「良かったね」とも言ってくれていた。会う時間が減ることも仕方ないと納得してくれていた。

だから、こんなに簡単に捨てられるとは思わなかった。


俺がバイトを始めて会う時間が減ったのは、むこうにとっては都合がよかったのだろうか。


あの時、あいつをボッコボコにしたことで師範からは暫くの間、稽古禁止令(筋トレはOK)を出されるし。

アルバイトをしてなかったらやることなくて、もっと落ち込んで無気力になっていたかもしれないなぁ。


この時、陰キャ気質のある俺は、やはり信じれば裏切られるし、他人とかかわるのは本当に面倒だと、独り言ちて若干落ち込みながら、結論付けるのであった。



この後のことを面倒に思い、回想しながらボーッとしている間に、授業が終わっていた。

今日はほんと授業に集中できなかったなぁ。


ア”っヤベ!板書してないや。あとで親友に教えてもらおう。

その親友が話しかけてきた。

「ハジメ、ぼけっとしてんなよ。授業終わったぞ。って、大丈夫か?顔色悪いぞ。これからあいつと話に行くのに平気か?」


あん?いつの間にか正面に来ていた菅谷の股間が目に映る。

足が長いなコイツ、色々と不愉快だ。


「いや、菅谷よ、放課後のこと勝手に決めといて何を言ってくれている??俺の顔色が悪い?人相が悪いじゃなくか?まぁ心配すんなよ。話し出せばアドレナリンが出てきて元気になるさ。」


「それならいいけどよ。あの時も岳が弁解しようとしても話しを聞かなかっただろ?あいつがなんか言おうとしてお前の両肩をつかんだところをボディにショートアッパー決めてたもんな。その後の回し蹴りとか。ヤンキー漫画みたいだったぞ。瞳は泣きまくって何を言ってんのかもわからないし。あの時に見ちまった事実は変わらんだろうが、時間も経って頭もだいぶ冷えた頃だろ?アイツの話も聞いてやろうぜ。馬鹿げた理由だったら、今度は俺がぶん殴ってやるよ。ていうか、アドレナリンで体調管理すんのはやめとけ。」


「おっ。ホントに心配してくれてんだ。でもな、短い期間の交際とはいえな浮気された事実は変わらんし、岳を許せない気持ちも多分変わらんぞ。ちなみに嫉妬心はないぞ。あるのは単純に裏切られたことに対する怒りだけだから。」


「だろうな」


「あれ以来、俺は一部の生徒からは痛いヤンキーを見るような痛い目で見られてるし。変な陰口までされててよ。ていうか、お前!あの時見てたのか?なんで今まで教えてくれなかったの?」


「教えなかったのはさ、鴨川会長との約束があってね。それで、伊藤瞳さんの彼氏をハジメが嫉妬心?・八つ当たり?で、一方的にボコったのがハジメって噂が浸透してるやつな。」


「ほかにも似たようなのがあるみたいだけどな。」


「でもよ、あの後、ちょうど9月の生徒総会で芹沢前会長が、俺たちを生徒会庶務に指名したのは驚いたな。」


「ほんとだよ。あの演説で信任がなぜ通ったのかいまだに謎だ。」


「それな、俺もだよ。ま、俺の場合はお前に巻き込まれたんだけどね」


「静かに暮らしたい俺にとってはとっても迷惑な話なんだよ。ほんと、他人に介入されるのは面倒なんだよな。ロクなことがない。」


そう言いながら大きくため息を吐くが、菅谷に背中を押され教室を出て、生徒会室に向かうのであった。


*


生徒会室に向かう途中、昼休みの俺たちをみていたであろう生徒が、こっちをみて何か言っている。はっきりは聞こえないが、いい話では無いだろうなぁ。


2年生になり、生徒会副会長となったおかげか、以前に比べればイメージも良くなってきたと思っていたんだけどな。

クラスの奴らからも話しかけられることも多くなったし。

まぁ、菅谷のバーターとしてかもしれんが。

磯部は・・・関係ないな。アイツはただの賑やかしのはずだ。クラス違うし。


授業が終わりすぐに来たのであろう、生徒会室の前で岳が待っていた。

待つのが好きだな、こいつ。

俺は何も言わずに生徒会室のドアノブに手をかけ鍵を開ける。

この生徒会室の鍵は、会長以下6人の生徒会役員がそれぞれの責任で預かっている。

だから本来ならこんなことに使っていいはずがないのだが、菅谷は、

「生徒から貴重な意見を聞くために生徒会室を使うのだから正常な使い方だ」

と胸張って言い切った。その上、生徒会顧問石井先生の許可まで取ってきやがった。

口論くらいならごまかせるが、殴り合いの喧嘩になったらなんて言い訳すればいいんだろうか。


厳かな雰囲気のある生徒会室のソファセットに対面で腰を掛ける。

岳に話をはじめるよう目で促す。

こいつとは、できるだけ口を利きたくないという気持ちが態度に出てしまう。

重い空気の中、岳が口を開こうとした時、生徒会室のドアが静かに開けられた。


ノックもなかったことから生徒会関係者とも考えたが、入り口には会議中の張り紙もしてあった。この場合、生徒会室に入って来てもいいのは会議関係者または役員それを除けば、教師だけというルールがあった。それでも入室確認のためノックをするのがマナーというものであろう。


ルールやマナーを破ってまで入ってくるのに理由があったのかはわからないが、入ってきたのは伊藤瞳であった。

厄介めんどくさいな奴が入ってきたものである。

優等生っぽい見た目のくせにインモラルなことをしたり、自己防衛のために変な噂を流したりすることがあるのは過去の経験から知っている。

また、偏見かもしれないが、独善的に人にかかわってくることがあるので、面倒くさいことになると確信して俺は再びため息を吐く。

ん?そもそも何でここで話をすることを知っているんだ、岳には連れてこないよう条件付けしたはずだ。だれかあの場で聞いていたやつらが教えたのか?

そして、何故か隣の菅谷は、平然としているのだが?


俺がひとりで混乱していると、菅谷が話し出す。


「この際、当事者二人から話を聞く方がいいと思ってな。俺が教えたんだ。」


「それならそうと俺にも教えて?ていうか、教えるのが筋だろ。」


「教えたら、お前のことだから理由をつけて来なかっただろ?それに二人が一緒の方が色々と心配も減ると思うしな?」


そう言いながら菅谷は、二人のことを軽く睨んでいた。


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