第4話「銀ちゃん拐われる!」飛騨高山編 ④

○三町通り・昼


観光客に呼びかける土産物屋の声が、あちらこちらから聞こえている。

天道、店先に置かれた赤い人形を手に、不思議そうな顔をしている。


「なんじゃ、これ。顔があらへん」


天道に気づき、土産物屋の若い娘さんが話しかける。


娘「さるぼぼ、って言うんですよ」

天道「さる‥ぼぼ?」

娘「ぼぼ、は飛騨弁で赤ちゃん。猿の赤ちゃん、てこと」

天道「へぇ〜、おもろいねぇ。お姉さん、コレ100個ちょうだい」

娘「え!!」


驚く娘さんに「んなわけあるかい!」と一人突っ込みし「一個でええよ」と笑う天道。


娘「お兄さん、おもしろーい!しかも超イケメンじゃない?」


はしゃぐ娘さんに「せやろ」と言い、ダサい決めポーズをする天道。。


○三町通り近くの公園


遊具で遊ぶ子供たち‥

その片隅で、銀次と竜太がキャッチボ—ルをしている。


銀次「いいか竜太。腕だけじゃなく、体全体を使って投げるんだ」


竜太の投げるボールを受け「そうだ、いいぞ」と言って返球する銀次。

その様子を遠くから見ていたいずみ、微笑んで立ち去る。


銀次「でな、投げる時に体をまっすぐ俺に向けろ。曲がってたらダメだ」


竜太の投げるボールを受ける銀次。

銀次「よっしゃあ」

竜太の笑顔。


○三町通り


歩いて来るいずみ。土産物屋からニコニコしながら出て来る天道を見かける。


いずみ「天道さん、お買い物ですか?」

天道「おー、いずみさん。まあ暇なもんで」


いずみ、天道に近寄ると、そっと腕を掴んで耳元で囁く。


いずみ「天道さんて、お口の硬い人ですよね?」

天道「(動揺して)な、何です?」

いずみ「ちょっとつきあって下さらない?」

天道「えっえっ‥えー!?」

いずみ「ね、天道さん。絶対内緒よ。ふたりだけの秘密にしてね」

天道「ひ、秘密て‥いずみさん‥」


いずみ「いいでしょ」と言って歩き出す。

天道、辺りを見回しながら、こそこそといずみの後についていく。

      

○喫茶店


窓際のテーブルに、天道といずみが座わっている。


いずみ「このお店、私の隠れ家なんです。内緒にしてね」

天道「で、ですよね‥いくら何でも話がうますぎる、思うてましたわ」

いずみ「えっ?」

天道「い、いえいえ。ええ店ですな」

いずみ「週に一度、ここで珈琲飲むの。私の密かな楽しみ」

天道「そうでっか」

いずみ「でね、また頑張ろうって思うの」

            

珈琲を一口飲み、店内を見回すいずみ。


天道「いずみさん‥その、再婚‥とか考えてへんのですか?」

いずみ「えっ?何です?急に」

天道「いや‥今、幸せなんかな思うて」

いずみ「幸せ‥そうねぇ。どこかにいい人いないかな」

天道「どんな男がええんですか?」

いずみ「強い人がいいかな。私と竜太を守ってくれるような」

天道「強い‥男、ですか?」

いずみ「ええ、天道さんのような」

天道「えっ?お、俺‥い、いや‥」

いずみ「天道さんは強い男だと思います。私、わかるのよ」


天道を見つめるいずみ。その視線を慌ててそらす天道。

            

天道「りゅ、竜太は‥今日?」

いずみ「今、近くの公園でキャッチボ—ルしてますよ」

天道「おお、キャッチボールですか。ええですね、男の子は」


天道、珈琲を一気に飲み干す。


○公園

            

遊んでいた子供たちはいなくなって、静まり返っている。

歩いて来た天道。銀次と竜太が、ベンチでジュースを飲んでいる姿を見つける。


竜太「銀ちゃんオレ、大きくなったらプロ野球の選手になりたいんだ」

銀次「おう頑張れ。なれるぞ、竜太」

竜太「でも無理だろうなぁ」

銀次「アホ、夢は諦めたらダメだ」

竜太「オレよりうまい奴いるし」

銀次「最後はな、諦めんかった奴が勝つんだ」

竜太「えっ、そうなの?ホントに?」


竜太がそう言った瞬間、ベンチに置いてあったランドセルが落ち、中身がこぼれる。竜太、慌てて一枚のプリントを背後に隠す。


銀次「何だ、それ?」

竜太「何でもないよ」

銀次「見せてみい」

            

しぶしぶ銀次にプリントを渡す竜太。『父親参観のお知らせ』と書かれてる。


竜太「オレには関係ないから」

            

銀次、しばらくプリントを見つめているが、ポンと竜太の肩をたたく。


銀次「よっしゃ、俺が行ってやるぞ」

竜太「いいよ。無理しなくて」

銀次「無理じゃない。行ってやるよ」

竜太「ホントに?」

銀次「おお、任せとき」


竜太、大喜びで銀次に抱きつく。


その光景を物陰から見ていた天道。そっと離れ歩き出すが、竜太の悲鳴を聞いて振り向く。先日橋のたもとで煙草を吸っていた三人の男(平城、佐山、京本)が銀次をはがいじめにして、車に連れ込もうとしている。


天道、公園の柵を飛び越え駆け寄るが、銀次は連れ去られてしまう。涙目の竜太が天道の腕をとる。


竜太「ぎ、銀ちゃんが‥」

天道「竜太、心配すな。先に帰っとけ」


そう言うと、通りかかったタクシーを停め、飛び乗る天道。


天道「おっちゃん、前の車追ってや」

運転手「なんだ、またアンタか」


バックミラーに、先日竜太を尾行した時の顔がある。


運転手「また何か悪さ‥」

天道「ええから、はよ出してや」


走り出すタクシー。


○安治川組事務所ビル

            

古い雑居ビル。銀次が男たちに連れ込まれ姿を消すと、天道が乗ったタクシ—が到着する。


天道「何じゃい、ここは?」

運転手「こりゃまずい。安治川組っていうヤクザの事務所だ」


ビルの入り口に『安治川組』の看板。


天道「安治川組‥?知らんなあ」

金を払う天道に運転手が「アンタ、もしかして刑事さん?」と尋ねる。


天道「まっ、似たようなもんよ」


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