第8話 謎の敵が現れました

 ピラミッドの内部、アリスたちが感じていた人の気配は正しかった。


 前方から3人の人影。男たちは、ゴブリンと見間違うような恰好。


 革でできた腰ミノ。 植物を編んで作った縄を体に巻き付けている。


 皮膚が赤いため、魔物と見間違えそうになる。しかし、それは塗料を全身に塗りたくっているようだ。


 顔は仮面――――白骨化したミノタウロスの頭部から作ったようだ。


「なんだアイツ等? やっぱり、原住民か?」


 ミゲールはからかうように笑う。しかし、すぐに真剣な表情に変わる。


「――――いや、気をつけろアリス。アイツ等、少し装備がいい」


「装備ですか?」とアリスは3人組を観察する。


 彼等の武器は不思議な形状をしている。槍と剣の中間のような武器。


 剣にしては柄が長く、槍にしては刃が長く分厚い。


「変な武器ですね」


「あぁ……でも、注目すべき所は別にある。アイツ等の武器は鉄製だ。ここら辺で鉄を作る工場でもあると思うか?」


「そうすると外部から持ち込まれた武器ですか?」


「そうだ。たまたま、ここら辺を根城にしてる原住民じゃない。それにあの刃――――魔力が込められている」


「つまり、それは――――」


「あぁ、魔剣の部類だぜ? それも3本全部が」


「――――」とアリスは無言になる。


「どうした? 怖くなって怯んじまっているのか?」


「そりゃ、怖いですよ。たぶん、誰だって……」


「そうか? でも、私は怖くないぜ」


「それは先生だからですよ」


「私は、お前もそうなるように成長してほしいだがな」


「先生……」


「だから、ほら……頑張ってこい!」とミゲールはアリスの小さな背中を――――思い切り突き飛ばした。


「ちょっと! ミゲール先生っ!」とアリスは抗議の声を上げた。


 しかし、時間は戻らない。 男たちは、アリスの姿を確認すると武器を構える。


 3人組の男たち。 一見すると原始的な恰好でありながら、全員が魔剣使い。 


 その全員が、突如として現れた少女に驚くも一瞬……すぐに排除しようと魔剣を振るってきた。


『黒波の魔剣』 黒い魔力を斬撃に変えて、遠くの敵を切り裂く魔剣。


『爆裂の破剣』 斬った物を爆発させる。 あるいは爆弾に変えてしまう魔剣。


「厄災の毒剣」 剣に合わせて猛毒を噴き出す魔剣。 鉄の防具でも腐食させるほどに強力


 それらが、殺意を持ってアリスへ向けられる。


 そして、3人組は殺意のまま、アリスへ攻撃を開始した。

 

 だが――――


「安心しな、アリス。お前の防御魔法を破れるのは私と対等に戦えるような強者だけだ。 ただの魔剣程度じゃ通じないぜ!」


 ミゲールの言う通り、何度も斬りつけられ、爆破され、猛毒を浴びせられて――――それでもアリスは平気だった。


 彼女の防御魔法を破壊できないまま、何度も繰り返す攻撃に、3人組の方が激しい疲労で動きを止めた。

 

 その内の1人。背後にミゲールが瞬間移動のように現れる。


「さすがに成人してない弟子に殺生を見せたくはないね」


 彼女は無防備になっている彼の首筋に向けて手刀をトンっと――――


「あれ? 間違ったかな?」


 首を叩かれた男は、不意をつかれた驚きと首の痛みでうずくまっていた。


 他の2人が怒りを見せながら、ミゲールに飛び掛かった。


 しかし、彼女は避けると同時に、再び1人の背後に移動する。


「今度、こそ……いや、気を失えよ!」


 やはり失敗した。 


 その隙を狙っていたのかもしれない。攻撃を受けていない1人がミゲールに向かって魔剣を――――


「もういい! 面倒くさいわ!」


 ミゲールは、男の顔面に拳を叩き込む。 冗談のような破壊力。


  殴られた男の仮面は砕け散った。


「せ、先生、その人死んでませんか? 殺生は見せたくないって今……」


「あん? 知らねぇよ。手加減はしてやった。もし死んだとしたら、死ぬ奴の方が悪い」


「そんな、滅茶苦茶な!」


 ミゲールとアリスのやり取り。 残された2人は仲間を置いて逃走に――――


「おいおい、仲間を置いて逃げるなよ」と走り出すよりも早く、ミゲールが2人の肩を掴んだ。 次の瞬間、無造作に2人を床に叩きつけた。


 それだけ、それだけで2人は動かなくなった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「さて、コイツ等の服装は助かるぜ。なんせ縛るための縄がたくさんあるんだからな」


「別に自分から縛られるために用意したわけじゃないと思いますよ、ミゲール先生」


「そうかい。それは、これからじっくりと本人たちに話を聞くことしようぜ?」


 男たちは意識を失ったあと、縄で手足を縛られて並べられている。 まだ意識は戻っていないようだが……  ミゲールは「ちょっと待てよ」と何かに気づいた。


 荷物から飲み水を取り出すと、水を男の頭にかけ始めた。


「ちょ! 先生!? なにをしてるんですか? ジャングルで貴重な飲み水を」


「気にするな。物資なんて、1日もあれば、手に入るだろ? お前が飛んで買いに行けば」


「私の負担が……って、あれ?」


 アリスは気づいた。 ミゲールが水をかけている男は、彼女の拳によって仮面を砕かれている。


 そのため、顔に塗られている塗料が流れ落ちていく。


「あれ? この人……原住民ではないのですか?」


「あぁ、知った顔だぜ。同業者さ」


「同業者ですか?」


「魔法使い。今は魔法学校――――エッグハント学校の教師だったはず」


 ミゲールは、残りの2人から仮面を取った。 妙に若い。青年というよりも少年と言った方が正しそうな年齢。


「こっちは生徒。あるいは弟子や助手か?」


「どうして、こんな格好を? エッグハント学校って魔法使いにとって名門中の名門ですよ?」


「どうして……って、そりゃ私たちと一緒だろうよ」

 

「一緒? どういう意味ですか?」


「私たちと一緒で調査に来て、魔に取り込まれたってことだろうよ」


 ミゲールは剥ぎ取った仮面を興味深そうに観察した。


「さっき、見つけた足跡の主。この3人の誰とも一致しない。すると――――」


「ここで大規模儀式を行おうとしている人物が、調査に来た人間を捕まえて手下にしている……ってことですか?」


「一流の魔法使いを手玉に取るような奴だ」


「そんな危険な相手が……」


「あぁ、ワクワクしてきたな!」


 どこか、楽しんでいる様子のミゲール。 まだ、見ぬ強敵を想像しているみたいだった。

  

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