第6話 ジャングルを冒険しよう!

 翌日――――


「なんで普段と同じドレスで来てるんだよ!」


 王城で待っていたミゲールはサファリスタイルで怒鳴った。


 本来、サファリと言うの小旅行という意味だ。 それが転じて、ジャングルで目的の動物を探索、発見、観察する……そのための恰好だ。


「昨日、ジャングルに行くって言っただろ!」


「――――いえ、言ってませんよ?」


「あれ? そうだったかな……まぁいいだろ。行こうぜ!」


「えっと、もう少し説明をお願いします。古代遺跡に行くとしか聞いてませんよ?」 


「仕方ねぇな。さて、どこから説明したらいいか――――」


 ミゲールは説明を始めた。


 この世界には、まだまだ未知の魔法が存在している。


 例えば、今回の目的のような古代遺跡――――要するにダンジョンだ。


 そういう場所には、儀式や媒体を利用した大規模魔法の痕跡が残っている。


 それらの研究、実験、再現が魔法使いとしてのミゲール・コットが行う仕事の1つ……彼女の場合、趣味の要素が高い。 


「今回は、特別立ち入り禁止になってる危険度最高クラスのダンジョンだ!」


「帰っていいですか?」


「コラッ! ちょっと待て、帰るな! 帰るな! 他ならぬ『世界最強の魔法使い』である私が行くんだぞ? 安心して構わないぞ」


「いえいえ、ミゲール先生と一緒だから不安なんですよ」


「そんな鉄壁な防御魔法を持っていて、不安視する要素はないだろ? それに――――」


「それに、なんです?」


「お前の風魔法は便利なんだよ。移動に空飛べる。ジャングルで快適に寝れる」


「私の魔法で野宿するつもりですか!?」


「おいおい、そんなに露骨に嫌そうな顔をするな。魔法の研究するなら実地調査は必要だぞ」


「わかりましたよ。旅行の準備はしてきましたので」


「いいね! お前がいてくれて助かるぜ! 荷物はいくらあっても問題ないからな」


「――――はい?」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「よし! 飛べ!」


「……はい」とアリスは死んだ目で答える。


 彼女の周囲には、ミゲールが用意した荷物が大量に散らばっている。


 加えて、ミゲール本人は豪華な椅子に座っている。


 アリスは風の紋章に力を込める。 


 結界魔法と同じで、彼女の周囲は風で覆われていく。 違うのは、彼女の体が浮いていくこと――――いや、それだけではない。


 ミゲールも椅子に座ったまま浮き上がる。 彼女の荷物も同様だ。


「そうだな。目的地の方向は――――あっちだったな」


「本当に大丈夫です?」


「心配するな、地図は持ってる」


「……世界地図じゃないですか!」


「あん? 当たり前だろ? 国内のダンジョンで手軽に済ますとでも思っていたのかよ」


「か、海外旅行! 許可は取っているのですか!?」


 ミゲールは宮廷魔法使い。


 アリスは公爵家の1人娘。


 勝手に海外に行くのはまずい……というよりも、


「……と言うよりも、私が魔法で国を越えたら不法入国になるのでは?」


「細かい事は良いんだよ! 金がない時は、走って、泳いで海外の古代遺跡までいってたんだぞ!」


「無茶しすぎでは!」


「構わねぇよ。目的地の王族は、だいたい私のダチみたいなもんだ。捕まっても、釈放される」


「捕まることが既に嫌なんです!」


 そんなやり取りを繰り広げていたが、口でアリスはミゲールは勝てない。


「――――わかりました。飛びます……」


 アリスは納得してない。 納得してないが、あきらめてミゲールに従う事にした。


 風魔法を使用して、浮き上がった体を高速で飛ばす。


「やっほー!」とミゲールは楽し気に声を上げた。


 それから彼女は鉱石ラジオから流れる音楽を楽しみながら――――やがて、寝ていた。


 彼女の様子は、優雅な旅行そのもの……


「人に働かせて、自分は惰眠を貪る……師匠でなければ殴ってるところですよ!」


 ブルブルと拳を握りながら言う、アリスの言葉は聞こえてないだろう、きっと…… 


 それから2、3時間の飛行時間。 超高速で飛んでいたアリスは国を越えて、あさっさりと海外に到着する。


「もう到着か。風属性の連中は、移動に使えて便利だな!」


 到着した場所はジャングルだ。


 視界には森林が広がる。人間の気配がなくなった。


 人工物……それも建設物は見えない。


「本当に、ここが目的地なんですか? 古代迷宮なんて見当たりませんよ?」


「いやいや」とミゲールは首を振り、こう続けた。 


「旅行ってのは、自分の足で歩かないとな。まだ若いのに楽なんてしちゃいけないぜ!」


「よく言えます。2時間以上も私に飛行魔法を使わせておいて……今、旅行って言いませんでしたか?」


 後半の疑問を無視しながらミゲールは、


「私から言わせてもらうと、お前こそ、『よく言えますね』って感覚だぜ。2時間どころか2日は空を飛べるくせに――――今だって、結界魔法を利用しながら、同時に飛行魔法で浮いてるじゃねぇか」


「魔法の燃費が良すぎて、反論できない自分の才能が憎い――――でもでも、結界と飛行を同時で使ってるのは自衛のためですよ。こんな軽装でジャングルを進んで、変な虫や獰猛な魔物に襲われたらどうするんですか?」


「まぁ、環境に適応できなきゃ死ぬだけだからな。私の弟子なら、そのくらい覚悟してついてきな!」


「はいはい」とアリスはミゲールの後ろをついてジャングルを進んで行く。すると―――― 


「おっと……良い物を発見したぜ。コイツは私の好物だ!」    


「好物? 何のことですか?」


「アリス、お前はそこで止まっていろ。私はちょっと、おやつタイムだ」


「おやつ? ここら辺でおやつと言うと自然の果実でも発見しましたか?」 


「果実とか上等な物じゃないさ。知らなかったのか? 私は意外と悪食なんだぜ」


 ミゲールは足を高く上げる。


「一体、なにを――――」とアリスは最後まで言えなかった。


 ミゲールは勢いよく、地面を踏み抜いた。 


 地震。


 彼女の脚力で大地が揺れる。 どれほど鍛えれば、足で地震が起こせるようになるのか? そんな疑問は彼女の前では、虚しい。


 暫くすると、ミゲールの頭上に何かが落ちて来る。黒い何か……ポタポタと振って来る。


「黒い雨?」


「違うぜ、アリス……こいつは黒い雨じゃない。ありだ!」


 大量の蟻を雨のように頭上に浴びて、彼女の全身は見えなくなっている。


「ぎゃあ!」と異常な光景にアリスは悲鳴をあげる。


「気をつけな。こいつは、大食いだ。巨大なトロールだってコイツ等に囲まれたら秒で骨になっちまう。 それに多くて小さいから、お前の結界魔法の隙間から中に入り込んでくるかもしれないぜ」


「トロールですら食べてしまう蟻って……大丈夫なんですか! いや、大丈夫そうですね! 私は、頭がおかしくなってしまいそうなんですが???」


「私をトロールと同じ程度の生物だと思っているのかい? お前の師匠を信じろ……私は、コイツ等より大食いだぜ?」


「まさか、そんな……ミゲール先生? もしかして、蟻を食べてません?」


「あぁ、基本的に酸っぱいのに、意外と甘い個体もいて……お前も食べてみるか? 癖になる味だぜ?」


「結構です!」


「ちぇ」と悪戯を叱られた子供のように舌打ちをするミゲール。


「本当に美味しいのにな」なんて呟きながら


「瓶詰めにしてお土産にしようと思ってるのに、これじゃ手伝ってくれなそうだ」


 ミゲールは、おやつタイムが終わると、本当に荷物から瓶を取り出して蟻を詰め始めた。 


 アリスはドン引き状態だ。


 そんなやり取りもありながら、ジャングルを進むと目的地が見えた。


 古代遺跡。


 石造りの建設物。 建設されて、数千年は経過しているように見える。


 要するにピラミッドとか言われる建物だった。


 

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