第30話




『荒れ果てし辺境の遺跡』で自分の実力を確かめると、地上へと帰還する。


 まだ時間があるので、しばらく周りにある武具店を見てまわったりして、暇を潰した。


 空が赤みがかってくると、冒険者ギルドの前に立っていた俺は胸を撫で下ろす。


 よかった。ちゃんと来てくれたみたいだ。


 無視されたらどうしようって、思っていたよ。


 向かい側にある通りのほうから歩いてきた制服姿の少女は、俺のもとまでやって来ると。


「で? わたしに用ってなんです?」


 朝美は、ものすっごく気だるそうな顔で聞いてきた。


「えぇ~? アサミン、なんだか面倒くさそうじゃない?」


「わざわざあなたに会いに来るのは面倒くさいと、わたしは心から思っていますが?」


「うぅ、そんなハッキリ言わないでよぉ」


 まぁ、遠目に朝美を発見したときから、ここに来たくないオーラは感じていたけどね。だってアサミン、沼地にハマった牛さんくらい歩くのが遅かったもん。


 星崎と朝美とは、昨日の帰りがけに連絡先を交換しておいた。俺が連絡先を交換しようって言い出したら、二人とも渋っていたけどね。だけど疲れていたのもあって、必死に食い下がったら根負けして教えてくれたよ。


 ちなみに今日、星崎はダンジョンにもぐらないようだ。ゆっくりと休息を取っている。それで俺がアサミンを呼び出しちゃっているから、たぶん今頃はボッチライフを満喫していることだろう。


 ごめんね。唯一の友達を取っちゃって。でも、どうしても朝美と話しておきたいことがあったんだ。


「それで、マナカさまじゃなくてわたしを呼び出したのは、どうしてですか?」


「それだが。あくまでパーティの仲間としてなんだが、どうすればもっと星崎と親睦を深められるかを聞きたくてな」


「マナカさまと、親睦を?」


「あぁ。パーティとしてやっていくのなら、仲良くなっておいたほうがいいだろ。それで星崎のことをよく理解している朝美に教授してもらおうと思ってさ」


 聞くだけなら、メッセージで済ませることもできた。だけど、こうしてお願いするわけだから、やっぱり直接会って話したほうがいい。そっちのほうが、こっちの真剣さや誠意が伝わるはずだ。


 それにしても、いい年した男が、年下の女子高生と仲良くしたいだなんて、パーティを組んでいなかったら犯罪臭がすごい。


 たぶん朝美にも難色を示されるだろうが、どうにかして星崎が喜びそうなことを聞き出さないと。こっちには、もう時間が残されていないんだからな。


「いいですよ」


「えっ! いいのか!」


「なんです、その意外そうな反応は?」


「いや、てっきり警戒されて渋られるんじゃないかと思っていたからな」


 昨日は朝美の警戒心がとても強かった。こんなすんなりと了承してもらえるなんて予想外だ。


 朝美は呆れたように鼻から小さな息をもらすと、俺を見あげてくる。


「最初は光城さんのことを危ない人だと思っていましたけど、一緒にダンジョンにもぐってわかったんですよ。やっぱりこの人は危ない人だって」


 ……ねぇ、それって俺が危ない人のままじゃない?


「ですけど、よからぬ目的でマナカさまに近づいてきたわけじゃないこともわかりました。それくらいには、光城さんのことを信頼してもいいかなって思ったんですよ」


 朝美なりに、俺を認めてくれたってことらしい。


 だから今日の呼びかけにも、応えてくれたんだろう。


 きっと朝美の俺に対する好感度はあがったはずだ。だけど俺のレベルに変化はない。【好感度レベルアップ】の『特定のキャラ』の枠に、朝美はふくまれていないんだ。


 やっぱり星崎の好感度をあげないと、急速なレベルアップはできないか。


「それに、マナカさまにはわたし以外にも、気兼ねなく話せる相手がいてほしいですからね」


 朝美は微笑を浮かべて、つぶやいてくる。星崎にとって、俺がそういった相手になってくれたらいいと思っているんだ。


 こんなにも真剣に友達のことを考えているだなんて、一見すると無愛想だけどアサミンってやさしい子だよね。


「で、光城さんはマナカさまと親睦を深めたいんですよね?」


「あぁ、そうだ。何かいい方法はないか?」


「それでしたら……」


 朝美は考え込むように唇の下に指を当てると、星崎について教えてくれる。そして一つの提案を持ちかけてきた。


「えっと、それって大丈夫なのか? ていうかそもそも星崎は乗り気になってくれないだろ?」


「わたしも協力しますから、マナカさまを連れてくるところまでは、どうにかできると思いますよ。あとは光城さん次第です」


 どうやら朝美が手助けをしてくれるみたいだ。星崎の好感度をあげるのに、ここまで心強い味方はいない。


 でも結局は、俺ががんばらないといけないわけか。星崎みたいなタイプには、こっちから歩み寄らないと進展しないからな。


 星崎の唯一の友人である朝美の言うことだ。やってみるだけの価値はある。


「わかった。その提案に乗らせてもらう。じゃあ星崎への連絡は」


「はい、任せてください」


 朝美は取り次ぎすることを承諾してくれる。


 本当に、俺のことを信頼してくれているんだな。まだ運命の日を乗り越えたわけじゃないけど、充足感のようなものが胸を満たした。


「用件は終わりですか? でしたら、わたしはこのあと友達と用事がありますから」


「アサミンって、星崎と違ってボッチじゃないのね」


「えぇ、そうですね。といっても、そんなに友達が多いほうじゃないですよ。他の冒険者とも交流を持っていますけど、それだって石碑が開放されて新しいダンジョンが出現したときに、連絡をもらえるメリットがあるからですし」


 他の冒険者と交流を持てば、ダンジョン関係の情報を早めに入手できるのか。星崎はそういうことも、朝美に任せているらしい。あいつ、他人との交流とか下手そうだしね。


 朝美のなかで損得勘定なしで付き合いがあるのは、少人数だけみたいだ。


「では、わたしはこれで」


 無愛想ではあるが、朝美は礼儀正しく頭を下げて、立ち去っていく。


 その背中が、ちょっとずつ遠ざかっていった。


 だけど数歩ほど進んだところで、立ち止まる。


「わたしとしても、あなたがマナカさまと出会ってくれて、よかったかもです」


 こっちを振り返ってくると、朝美はほんのちょっぴり唇の端をゆるめる。


 そして正面を向くと、今度こそ立ち止まらずに去っていった。


 うれしいことを言ってくれるじゃないの。


 朝美の協力も得られたことだし、さっそく明日になったら仕掛けてみよう。


 そこでどれだけ星崎の好感度を稼げるのかが、俺の命運を左右する。


 一気に好感度をあげて、これまで以上にレベルアップしてやるぜ。




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