第17話 囚われました

 やっと愛しい人と心が一つになれた。


 そう思ったのも束の間、私は囚われてしまったのだった……。










 ***






「……私をどうする気ですか?」


 目が覚めた後、手首を拘束されながらもちゃんと部屋を与えられそれなりの対応をされていることに戸惑いながらも、目の前にいる私を攫った張本人に問わずにはいられなかった。


 そう、彼女は確か、不死王様の番だと名乗ったアンジェリーチェ様だ。不死王様というのがどなたかはよくわからないが、多分、ウィル様のお知り合いなのだろうとは思った。だってあの日、ウィル様は“王の会合”に出かけられたのだ。王と名が付く方ならば、きっとウィル様のお仲間のはずだ。そんな不死王様の番が私に何をする気なのか……どうしたって不安でしかない。


「あらぁ、そんなに怯えなくてもよろしいんですのよぉ。……ちょっとした実験にお付合いして頂くだけですわぁ」


「実験って……?」


 するとアンジェリーチェ様はその爬虫類のような瞳を細めてにこりと笑った。


「それは、わたくしの悲願を叶えるための……とぉっても楽しい実験ですわぁ」と。


















「ようこそ、#悪魔王__オレ__#の城へ」


 まるで黒を塗り潰したかのような人物。それがその人の印象だった。


 夜の帳が降りたかのような髪と瞳。だが瞳は白と黒が反転していて不気味な雰囲気を出している。そして真っ黒な衣装を身に纏い、背中には大きなコウモリのような羽。確かに“悪魔王”と呼ばれるに相応しい容貌の彼が、薄い唇を釣り上げた。


「これが、妖精王の番……。確かに美しい魂の持ち主だ」


 そう言って私の顎に指をかけ、顔を持ち上げた。なにかを探られているような気分になり恐怖で視線をそらすがその先には私を憎々しげに睨むアンジェリーチェ様がいた。


「悪魔王様が、わたくし以外の女に触れてるのを見ると……殺したくなりますわぁ」


「まぁ待て。これは大切な実験材料……オレたちの未来のための犠牲なんだ。今くらいは大切にしてやらなきゃいけないだろう」


「……あらぁ、悪魔王様は優しいのですねぇ」


 悪魔王は私から手を離しアンジェリーチェ様を抱きしめると、吸い付くようにその唇を重ね始めたのだ。


 アンジェリーチェ様は不死王という方の番なのではなかったのか?そんな疑問があったが、私には他に気になる事がある。


 それは、鳥籠に入れられた小さな光。これはきっと誰かの魂の輝きだ。なぜこんなところに生まれる前の魂があるのか。妙な胸騒ぎがする。


 それに気付いた悪魔王が、アンジェリーチェ様との口付けを止める。アンジェリーチェ様の「あぁん、まだ途中ですわぁ」と甘えた声が聞こえたがそれに構わず再び私の前にやってきた悪魔王がニヤリと唇を歪めた。


「あぁ……それはもうひとりの王の番の魂だ。まだ生まれる前だったが神の元より盗んできた。……これと一緒にな」


 そう言ってどこからともなく出してきたのは小さな鎌。なんの変哲も無い鎌のようにも見えるが、とてつもなく恐ろしい物に感じた。


「あっははは。わかるか?さすがは妖精王の番だ。そう、これは神の所有物。唯一、魂に干渉出来る物なんだ。


 オレはこれを使ってお前たち番と言われる魂に干渉し……実験をしようと考えている」


「……ですから、実験ってなにを……!」








「“番を入れ替える”実験だ。まずはお前たちの魂を解剖、分解して……他の王の番と入れ替えられないか実験するんだ。そうすれば、アンジェリーチェをオレの番に出来る……!


 さぁ、まずは剥き出しの魂からーーーー」





 悪魔王の手が鳥籠に伸び、鎌を振り上げた。その瞬間ーーーー。



 私はとっさにその鳥籠を抱きしめるように庇い、鎌の刃先を背中に受けたのだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る