第15話 焦りと企み

 その日、ラメルーシェが消えた。






「ごべはぁっ……?!」



 破裂音と共に不快な叫びが響く。嫌な予感がしてラメルーシェを休ませている部屋へと急げば開かれた扉の前には剣で串刺しにされた頭がビクビクと痙攣していた。怒りのあまりそれを足で踏み潰してしまった。不死王が死を止めているので粉々になっても生きてはいるが……もはや人間であった原型は残っていない。


 部屋の中にラメルーシェの姿はない。わずかな気配も消え去り、冷たい空気が流れていた。


 恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れると長たる妖精王の力が作用したのかそれまで消えたかのように静かだった小さな妖精たちがわっと姿を現わした。



“ウィルサマ!ラメルーシェガサラワレタ!”


 泣きながら訴える小さな妖精たち。どうやらラメルーシェを拐った犯人は妖精たちを力の波動で押し潰し気絶させていたようだ。


「一体誰が……!」


「ーーーーこの微かに残った気配は、我の番であるアンジェリーチェの気配だ……」


 背後から不死王の震えた声が聞こえてくる。「まさか」とは思うが、これだけの事を行うのならそれなりに力ががないと出来ない。確かに不死王の番ならばやってのけれるだろう。


「不死王の番……蛇神の血を引く獣人だったか。高い戦闘能力を持っていると聞いたことがあるが」


「あぁ、それにコレを串刺しにしている剣はよく見ればアンジェリーチェが好んで使っている物だ。あの子は武器が好きでな……。


 コレがいなくなったと思ったらこんなところにまで逃げ出していたのも驚いたが、アンジェリーチェの剣が刺さっていて花嫁殿が消えたとなれば……」


「可能性はふたつ。


 アンジェリーチェ殿がラメルーシェをコレから助けてくれた後に、誰かにふたりとも拐われた。またはーーーー」


「アンジェリーチェがコレを刺した後に花嫁殿を拐ったかだ」


 不死王の手が床に刺さった剣を抜き取り、同時に剣が刺さっていた“物”が砂の山へと変貌する。それは魂か消滅しもう二度と輪廻転生の輪に入ることがない事を意味していた。もう誰にも見向きもされない砂の山は、さらさらと風に吹かれて消えていった。









 ***









「あぁ、わたくしの愛しい最愛のお方……。お会いしたかったですわぁ」


 アンジェリーチェが自身のフルフェイスヘルメットを脱ぎ捨て頬を染めた。その足元には気を失ったままのラメルーシェが横たわっている。


「貴方様のためにわたくしは不死王様を裏切り……きっと妖精王様も敵に回しましたわぁ。もう後戻りは出来ませんことよぉ。ーーーーわたくしの為に、命をかけてくださいませねぇ?」


 頬を染めながらも、切羽詰まった焦りの表情を浮かべるアンジェリーチェ。


 そのアンジェリーチェが身を預けた人物は唇の端を吊り上げ、アンジェリーチェを抱きしめたのだった。







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