第13話

 最寄り駅から電車に乗り、繁華街へと向かう。都会の中心はやっぱり人が多い。

 仕事着を買うためによく訪れてる商業ビルへ向かった。なんだか今の格好が恥ずかしくてなかなかブース内に入れない。また、暫く仕事着を中心に見ていたせいか私は何が好きで何が嫌いなのかすぐには分からず、ウィンドウショッピングをするだけだった。

 私は何色が好きだっけ。どんなデザインの服を着てたっけ。だんだんいろんなものの好きか嫌いかも分からない。

 今着ている服もそう、家にある服も特に好んで着たい服装ではない。

 少しずつ、自分の感覚を取り戻すため仕事用の服装から離れるような色やデザインを見始めた。

 前に着ていたような服を手にとっては何か違うと思い、戻す。仕事で着れそうだけど少し派手みたいなのも違う。あれ、服選びってこんな難しかったっけ。入社してからだんだん自分と向き合わなくなったから自分の好きな服すら選べない。でも、仕事着なんて周りとある程度合わせれば問題なく生きていける。

 仕事着以外もそうだ。〇〇ができなくとも大半は生きていける。それにかまけて私は自分自身と向き合うことをやめていた。それが今になって自分で自分のことを決めることができない人間になったのだ。

 自己表現することを辞めて他人と浮かないように、めんどくさい揉め事を避け生きていた。

 いや、揉め事を避けるのは必要な能力だ。PTOは大事だし。それでもあまりに自分のことを決めれなさすぎる。

 だから、自分の人生も決めれない。そんな大人になってしまった。今までの私はなんだったのか。

 私は。私は……。…………。

 各ブランドのブースに入ることもなくぶらぶらと歩く。私の好きはまだまだ戻る気配はないが、なんとなく靴も見たくなったので靴ブランドのブースに引き込まれるように入っていった。

「ここにも何もないだろう……」と思いながら物色することにした。

 普段の私は、パンプスやローファーといった物を多く履く。これも好んで履いているというよりは自然とそうなった。この店にもパンプスやローファーもあるが、いつも以上に興味がなかった。気分を変えていつもとは違う色を見てみても靴のかたちからあまり興味が沸かず何とも言えない気分になった。

 ぼーっとしながらゆっくり歩く。遠くを見ながら歩いていると赤色が目に入った。ゆっくり、近づいた。赤い色の正体はスニーカーだった。そして、手を伸ばした。

 私自身、それを手に取ったことに驚いた。

 私は濃い色をあまり選ばない。選んだとしても黒色くらいだ。赤色は好きでもなんでもなく、選ぶ色ではない。人生で初めてかもしれない。スニーカー自体は、学生の頃以来だ。どこかしら懐かしい気分もしたが、懐かしさだけでは私は商品を手に取らない。なんとなく手に取ったからには試し履きをした。

 思った以上にしっくり来た。履き心地と履いた私に。不思議だった。選ばない色と種類の靴を履いてしっくりくるとは思ってもいなかった。

 買っても合う服はあるかしら。と心配になった。でもほしい。そう思えた。久しぶりの感情に嬉しさと楽しさを感じた。これが、わくわくする感情なのかもしれない。久しぶり過ぎて新鮮だった。サイズもぴったりで履き心地に違和感がなかった。

 思ってもない買い物だったが私の心はスッキリとした。

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