恋を諦めた俺。陽キャな二人のアイドルに話し掛けたら、なぜか懐かれたんだが?

さばりん

第一章

第0話 恋に終止符を打つ男

 一時いっときの勘違いでもいいから、恋人を作って、甘酸っぱい青春を過ごしたい。

 華の高校生活において、そう願うのは誰だって当然の事であろう。

 

 いつもとは違い、どこか緊張した面持ちで、恋人繋ぎをしながら帰る通学路。

 寄り道した公園で、誰もいないことを確認して、こっそりとぬくもりを確かめ合うように抱き締め合う至極のひと時。

 優しくかつ熱い抱擁を交わし、すっと顔を上げると、互いの視線が交差する。

 どちらからともなく目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけていき、ほのかに甘い口づけを交わす。


 誰もが一度は望むような、甘酸っぱい青春。

 そんな高校時代に、俺初木青志はつきあおしは、終止符を打とうとしていた。


 煌びやかなイルミネーション輝く、クリスマスムード漂う十二月の夜。

 俺はとある女の子を駅前に呼び出していた。

 今か今かと待っている間にも、緊張感はどんどんと増してきてしまう。

 心臓の鼓動が早鐘を打ち、収まることを知らない。


「初木ー!」


 俺の名前を呼ぶ声が聞こえて視線を上げると、ベージュのダッフルコートにタータンチェックのマフラーを首元に巻いた女の子が、こちらへ手を振りながら、駆け足で近づいてくる。

 彼女は、俺の前までやってくると、白い息をつきながら、肩を揺らした。


「ごめんね、遅くなっちゃった」

「いや、平気だよ。むしろこっちこそ、突然呼び出したのに、来てくれてありがとう」

「ううん、私も暇してたから」


 そう言いながら首を横に振る彼女の長い茶色の髪が揺れる。

 純粋無垢な彼女の笑顔がイルミネーションと相まって普段以上に輝いて見えた。

 これが、恋愛マジックというものなのだろう。


 向こうは、俺のことをただの友達としか思ってなくて、付き合える可能性など、限りなくゼロに近いというのに……。

 こうして淡い恋心を抱いてしまった儚い男子高校生の夢が、今ここで終わりを告げようとしている。


 気持ちを押し殺そうとすればするほど、さらに気持ちは膨れ上がっていき、耐えきれなくなった心は、キャパシティーをオーバーするように爆発する。

 そして俺は、今から彼女へ、覚悟を決めて告白するのだ。


 恋心を抱いてしまうこと、早数えて十回目。

 こんな失敗を、何回も繰り返してきた。


 相手に気持ちを伝えたいという欲求が勝ってしまう自分が情けない。

 我ながら、学習出来てないなと思う。

 

 でも、もうこんな夢物語も今回で最後。

 俺はそう心の中で決めていた。


「それで、相談したいことがあるって言ってたけど何かな? もし時間かかる内容だったら、カフェとかにでも入って話す?」


 あぁ、やっぱり彼女は優しいな。

 今から告白されるなんて、微塵も思っていないのだろう。


「いや、その必要はない。すぐに終わることだから」


 俺がそう言うと、彼女はキョトンと首を傾げてこちらを見つめてくる。

 その仕草さえ可愛らしく思えて、胸がキュンと締め付けられてしまう。


 大丈夫、結果は分かりきっている。

 自分の想いを伝えて、振られるのを待てばいいだけ。


 心臓の鼓動が大きく脈を打つ。

 緊張から、全身の毛穴中からぶわっと汗が噴き出してくる。

 俺は、一つ大きく息を吸い込んで、覚悟を決めた。


「あのさ、実は俺、浜岸はまぎしのことが――」


 高校一年生の冬、俺は学生時代の青春という名のまやかしに終止符を打つため、人生で十回目の告白を果たした。

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