第3話 判明

「――凄い……!初めて……なんですよね?何回も使ってきた熟練の技にしか見えません……体が覚えている……とか?ですかね?」


 いや、私もビックリだ!今まで使ったことあったっけ?ないよね?あったらあったで困るけど……


「再立さん!もう一度見せて下さいよ!初めてでこれは磨けばとてつもない輝きを見せると思います!」


 えーっ?そんなに褒めることなの?ただのビギナーズラックでしょ。いや、ラックとかでは無いのかもだけどさ。


「えっと、もう一回やればいいんだよね……うーん……か、『火球』!」


 シーン……


 何も起こらない。あれ、指はちゃんと的に向かってる、力もしっかり込めた、精神も集中させた……何がいけないんだろ?


「もっかい!『火球』!!」


 ――出ない、なにも。せめて出来損ないみたいなのが出て欲しいところだけど、そういうのもない。


「慣れていないってことが原因でしょうね。もう一度お手本を見せます。いいですか?精神を一点に集中させて……こう!!」


 モエは熟練の技で先程と同じ的に火球を命中させてみせた。よし、私もそれに続こう!


「ふぅ……『火球』!!」


 また指先が一気に熱される。目の前で出来上がった火のボールはモエの球に似た軌道を描いて的にゴーンっと当たった。


「やっぱり上手いですね!一度お手本を見ただけで完璧に複製できるなんて……まさに才能ですね」


 い、いくらなんでも褒めすぎじゃない?嬉しいけど!


「では次に……連続で出すのとかやってみません?」


「う、うん!やってみよう!」


「それではですね……まず、先程と同じように指差しをして、そのまま『火球』!!そしてもうひとつ……『火球』!!」


「え、えっと、まず一つ目……『火球』!!そしてもうひとつ……『火球』!!ってあれ?」


 一つ目は凄まじい勢いで炎が発射されたものの、二つ目はそもそも現れない。あの熱い炎がどこにも無いのだ。


「おかしいですね……一度目はとてもお上手なのに……」


「な、なんでだろう……」


「……ひとつの魔法に留まっていても時間がもったいないので、別の魔法も試してみましょう。次はもっと派手ですよ。『発破』!」


 モエが強めに放った言葉がそのままエネルギーに変換されたかのように、遠くの的がバーンッと爆発した。保護魔法のおかげか的は壊れていないが、まともに食らったらひとたまりもないだろう……


「凄いね……こんなのもあるんだ」


「『発破』は、目標の近くに魔力を込めた球を飛ばし、それに火をつけ爆発させるという魔法です。見た目こそ派手ですが、質量のないものが爆発するだけなので威力はそこまで無いんですよ」


 怖い……『威力はそこまで』って言ったって生身の人間が喰らえば普通に死ぬんじゃないかな……?


「ささ、再立さん。やってみましょう」


「おっけー……『発破』!!」


 ――遠くでドカーンッと爆発する音がした。どうやら上手くいったらしい!


「おおー……これも一発で成功させるとは……」


 いや……中二病じゃないけどさ、普通に自分が怖いよね。今まで使えなかった力を使えて、なおかつ『すごい!』って褒められるんだよ?怖くない?


「ここまで来ると、もしかしたら炎魔法以外にも適性があるかもしれませんね。色々試してみましょうか」


 モエは私の手を引いて、試撃場にいた人たちの魔法を私に見学させた。


 水魔法や、風魔法……岩を降らせる魔法なんかもあったかな?三、四個の魔法を見させてもらった。


「あれ以外にもたくさん魔法はありますが、もしかしたらあの中に適性があるかもしれませんからね。再立さん、先程の魔法の真似をしてみてください」


「りょーかい!」


 水を作って動かすイメージをしてみたり、風を吹かせようと思ったり、岩を作ろうとしてみたりした。そして、どれも想像通りのことが起こった。


 モエは唖然としている。私も唖然としている。いやいや、こんなことはおかしいよ。もう一度やってみよう。私は的に精神をもう一度集中させた。


 水、出ろ!出ない。

 風、吹け!吹かない。

 岩、落ちろ!落ちない。というかそもそも岩が出ない。


 いや、どういうこと?もうわからないよ。結局私の適性はなんなの?火なの?水なの?風なの?魔法は三属性までなんじゃないの??わかんないよ!


「――再立さん……あなたは天才かもしれません。とは言っても、精度が悪い天才です。そして、天才にしては装備が軽すぎます。なにか防具とか、武器とかを買いに行きましょう……試撃場の中に行きつけの店があるんですよ。そこに参りましょう」


「――うん……」


 モエは先程までとは違い、訝しんだような表情で私を手招いた。

 私は正直シュンとしていた。あの魔法たちはやっぱり偶然だったのかな?モヤモヤっとした感じが残る。


 そうやって二人で歩いていると、バァンっと高らかな音が耳に飛び込んできた。



 ――銃だ。


 銃の持ち主は褐色で短髪の女の子。モエより若そうだが、今までの古風な光景とは不釣り合いな耳あてをしている。ヘッドホンによく似たやつだ。


「ほんとにこの世界にも銃使いっているんだね……」


「鉄砲がどういう仕組みなのかは分かりませんが、かっこいいですよね」


 あんなに若いのにかっこいい武器を使いこなせるんだ……すごい世界だな。


◇ ◇ ◇


「ここです」


 武器屋は試撃場の端っこにあった。まさに施設に出店しているチェーン店のような見た目をしている。日本のそれとの違いは木製であるというところ。それと、なぜかカフェのようなテラス席が付いている。武器屋にそれ必要なのかな?


「おじゃましまーす……」


 扉を開けるとこれまたかっこいい武器が目に飛び込んできた。先程のような銃はなかったが、短剣や盾など、誰でも扱えそうな武器が揃っている。


「いらっしゃいませー」


 店主らしい赤髪で鎧を着た男が気だるそうに言った。む、この男なんかヤな感じ……


「トゴーさん、こんにちは」


「よーモエ。隣のは?」


「再立さんです。魔法の天才かもしれない人です」


「天才?なんかすごいのか?」


「そうなんですよ。見た魔法を自在に複製して、火、水、風、岩の四属性を操ったんですよ!」


「……ふーん。それ、多分天才って訳ではないんじゃないか?」


 な、なんだコイツ!鼻につくな!モエが天才って言ってるんだから天才なの!知らないけど!


「それって多分『複製魔法』って呼ばれる区分の魔法なんじゃないか?ほら、昔『無限反復』っていう名前の魔法を使うおじさんがいたんだよ。ソイツは火、水、風、防御、回復の五つの魔法使ってたし」


 む、無限反復?なんか名前ダサくない?イヤだよそんな名前の魔法使いだなんて!


「五つの魔法を登録して自由に複製する魔法だったらしいんだけど、聞いた感じソイツのは登録してる訳じゃないんだろうな。そこの……再立とかいうやつ。なんか登録したなって意識ある?」


「ないよ!!」


「うお、なんか語気強いな……ま、まあわかった。そうなんだな。なら多分別の魔法だな。『無限反復』は何度も魔法を使えるが……キミのは何回使えた?」


「一回だよ!」


「食い気味だな……でも何となく能力が見えてきたな。過去に見た魔法を一回限り繰り返せる魔法ってとこか?」


「そうですね……あと、説明するのが少し難しいですが、魔法は一種類につき一回まで、という訳ではないみたいでして……えっと、とある魔法を一度見て、それを複製、発動して、また同じ魔法を見たらまた発動できる……みたいな?」


 そっか。さっきみたいにモエが『火球』を使って、それを私が『複製』して『発動』する。そうすると私は一時的に『火球』を使えなくなるけど、モエがまた『火球』を使えば私も使えるようになる、って感じかな。


 モエが連続で魔法を使っても、私が使わない限り一度しか使えない。強いのか弱いのか……わからないな。


「ま、再立ってやつの力はそんなところだな。それで?どうする?なんか買うんだろ?」


「とりあえず小腹を満たしてからにします」


「そ?わかった。おーい、ナガレー」


「はーい」


 トゴーが呼ぶと、店の奥から可愛い青と黒色の髪をした女の子が出てきた。


「二名様ですねー。こちらへどーぞー」


 ナガレと呼ばれた女の子が店外のテラス席に案内する。なるほど。カフェみたいなのが併設されているのね。茶屋ってやつ?


「何食べますー?」


「そうですね……私はおにぎりにします」


 常連の知識を活かして、モエが注文する。メニューは無さそうだし、他に何があるのか分からないな……


「じゃあ、私もそれで」


「具はどうなさいますかー?」


「再立さん、なにかあります?」


「え、えっと……昆布とか?」


「じゃあ昆布とシャケで」


「りょーかいですー」


 ナガレは敬礼のようなポーズをビシッと決め、厨房の方へと入って行った。


「再立さん。無駄に持ち上げすぎてごめんなさい……」


「え、なんか言い方ヒドくない?」


「えっと、なんでしたっけ?『無限反復』でしたっけ?一緒にその魔法について調べていきましょうね」


「いーや!『無限反復』じゃないよ!少なくとも無限には反復できないし!この魔法は……えっと繰り返すから……『リピート』で行こう!」


「え、え?りぴ……なんですか?」


「『リピート』!繰り返すって意味の英語!魔法といえば英語、みたいなところあるし!」


「――異国語ですか?いや、魔法といえば硬派な漢字だと思うのですが……?」


「あ、ここではそうなのか。ま、まあいいよ!私の魔法は『リピート』ね!」


 かくして、私の魔法の名前は雑に決まった。もしかしたら正式な名称があるのかもしれないけど、そんなことはどうでもいい。期間限定でも暫くはこの名前で行こう!


「お待たせしましたー。昆布とシャケのおにぎりでーす」


 ナガレちゃんが小さなお皿を二つ持ってきた。かなり手早い提供だ。


 トンと置かれたお皿の上には、一粒一粒が燦然と煌めくおにぎりが一皿二つの計四つあった。その輝きには凄まじい高級感がある。恐らく高級って訳では無いんだと思うけど。


「ごゆるりとお召し上がりくださいー」


 ナガレちゃんはまた厨房へと帰っていった。

 にしても美味しそうなおにぎりだなぁ……手作りおにぎりとかいつぶりだろうか。海苔がパリパリなコンビニのおにぎりも嫌いじゃないけど、人肌を感じられるものが結局は一番良いんだよね。


 それじゃあ、いただきまーす!

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