011・待機と無銭乗車


 僕が不安の中、速水はパーキングエリアの駐車場を巡回する。


「おい、速水。どうするんだよ。せめて高速を降りて街に出た方がいいんじゃないのか? ここじゃ車以外では身動き取れないぞ」


「それだと効率が悪いです。大丈夫。無一文でも名古屋に行く方法はありますよ。例えばあれです」


 速水は観光バスが並ぶ駐車場に指を差す。


「お前、観光客に紛れて乗り込むつもりじゃ」


「その通り」


「馬鹿。出発する前に点呼を取るだろ。それにさっきまでいなかったはずがいきなり二人増えたら周りの人が不審に思うはずだ」


「はい。普通に乗り込めば不審に思われます。だが、普通に入らずとも紛れることは可能です」


「そんなことどうやって」


「荷物用の搬入庫。バスの外側に付いているんですよ。そこに入り込めれば紛れて名古屋まで行くことができます」


「甘いな。そんなことしたら搬入庫を開けられたらアウトだ」


「確かにそれは言えています。だから狙うなら夜行バスです」


「夜行バス?」


「観光バスは常に人の目があるので危険です。ただ、夜行バスの場合、寝る為に乗るようなもの。走行中は照明を消されるのでうまくいけば隣の乗客のことなんて見向きもしないでしょう」


「うーん。そううまく行くか?」


「見定めるセンスが問われますね」


 夜行バスに狙いを定めた僕と速水は夜になるまでパーキングエリアで適当に過ごすことに。ただ、お金がない為、無料の給水機から水を飲むか隅の席で仮眠を取る他、過ごしようがない。後は試食を食べて空腹を満たす。

 速水のお得意の万引きはさせなかった。

 パーキングエリアから身動きが取れないので下手な行動はできない。

 日が沈み、ようやく僕たちは動き出した。

 目を懲らしながら一台一台獲物を見定めるように観察を続けた。

 地味な作業だが、重要なことだ。

 駐車場を見張ると一台の夜行バスが駐車した。

 行き先は名古屋往きと書かれている。


「速水。あれにするか?」


「いや、ちょっと厳しいかも」


「厳しい?」


「バスが真新しい。最新の機能が備えられている可能性が高い。防犯設備や管理が徹底されているとまずい。狙うなら安っぽいバスが狙い目ね」


 名古屋往きのバスはその後、何台か止まったが、速水は動かなかった。

 最初のチャンスを見送ってから数時間。

 ようやく速水は動く。


「来た。行くわよ」


 狙いを定めたバスは年季が入ったバスだ。ただ、古いせいもあり外付けの荷物入れがない。一体、どこに紛れると言うのだろうか。

 トイレ休憩の為、乗客がいない隙にバスに乗り込む。


「保高さんはそこの戸棚に隠れて。私は反対側の戸棚に隠れるから」


 速水が指定したのは上部に備え付けられている荷物入れ用の戸棚だ。

 こんなところに人が入れるのだろうか。

 気付けば速水は既に入り込んでおり、カーテンを閉めていた。

 こうしてはいられないと思い、僕も無理やり戸棚に潜り込んだ。

 狭い。カプセルホテルよりも狭い。

 このまま朝まで過ごさなくてはならないと思うと憂鬱だ。

 僕たちが紛れ込んだことなど運転手は知る由もなく、適当に点呼を取ってバスは走り出す。後、数時間の辛抱だ。僕は誰にも見つからないことを祈る。

 そう言えば、紛れ込むことに成功したが、どうやってここから出ればいいのだろうか。

 そんなことを考えているうちにバスは目的地である名古屋に辿り着いていた。

 乗客がゾロゾロと車内から出ていくタイミングを見計らって速水は戸棚から飛び出た。


「保高さん。脱出ですよ」


 なんと出ていくのは普通だった。運転手にバレないかとヒヤヒヤしたが、気に留められることなく普通に出ることが出来た。

 バスから距離を置いてから僕は速水に言う。


「なんとかバレずに済んだな。一時はどうなるかと思ったよ」


「まぁ、バレたらバレたで手は打っていました。運転手は適当な感じだったからバレる心配は薄かったですが」


「どう言うことだ?」


「パーキングエリアから離れる時、特に点呼はありませんでした。軽く乗客がいることを確認しただけだったので多分、大丈夫だろうと」


 確かにあの調子なら僕も大丈夫と思ってしまった。

 何はともあれ、無事に名古屋まで辿り着けた。

 だが、狭いところにすし詰めにされ、僕の疲労はピークに達していた。

 仮眠はしたが、身体は全く休まった感じがしない。

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