第8話 森を抜けて

 僕はアーサーを懐に入れるとシヴァの背中に乗った。しかしシヴァが大きすぎて足でシヴァの胴体を挟む事が出来ない。


「シヴァ。もう少し小さくなれない? これじゃ落っこちちゃいそうだよ」


「仕方がない。このくらいならどうだ?」


 しゅるるっとシヴァが小さくなる。これなら丁度いい感じだ。


 毛を引っ張るのも申し訳ないので首にしがみついた。


 モフモフが気持ちいい!


 この体制で走られたら気持ち良くて寝ちゃうかも。


 僕がしがみついたのを確認するとシヴァは走り出した。


 ちょっと、待って!


 まだここは木の中だよね。


 すると、スッと何かをすり抜けたような感覚がした途端、森の中に出ていた。


 シヴァが一緒だと木をすり抜けられるみたいだな。


 そのままシヴァは森の中を走り出す。


 乗馬なんてしたことは無いけど、こんなに気分爽快になるんだろうか。


 シヴァは器用に木の間をすり抜けながら、猛スピードで森の中を駆けていく。


 僕達がキャンプをしていた場所を抜け、孤児院があった街とは反対の方向に駆けていく。


 孤児院があった街は隣国に近い街で公爵家がある王都とはかなり離れているそうだ。


 やがて森を抜けると街道に出た。暫く歩くと街があるらしい。


 シヴァはまた少し小さくなって、僕が連れていても不自然でない大きさになる。


「ジェレミー。次の街で私を従魔登録してくれ。それから今日は宿屋に泊まろう。キャンプよりはベッドに寝たいだろう」


「宿屋って、僕はお金なんて持ってないよ」


 孤児院の火事の後、僕を泊めてくれた老夫婦に服は貰ったけどお金は持っていない。


「仕方ない。ちょっと魔獣を狩って来るか」


 シヴァがまた森の中へと戻る。


 やる気満々なのはいいけど、下手したら凄い魔獣を仕留めてきそうだな。


「シヴァ。魔獣を狩るのはいいけどあまり強い魔獣は駄目だよ」


 僕が釘を刺すとシヴァはちょっとがっかりした顔をしたが、僕の言いたい事は伝わったようだ。


 それでもホーンラビットを5匹も仕留めて来るのはどうかと思うけどね。


 解体をしようにも僕にはやり方がわからない。オロオロしているとシヴァが自分の亜空間エリアにホーンラビットを放り込んだ。


「このまま冒険者ギルドに持って行けばいい。丸ごと買い取ってくれるさ」

 

 シヴァに言われて再び街へと歩き出した。


 シヴァも体が小さくなって歩き辛いようだ。


 体が小さいと歩幅も小さくなるからね。さっきまでのスピードを考えるとまだるっこしいよね。


 街の門番に冒険者証を見せる。


「ジェレミー君か。そっちの従魔は登録証は無いのか?」


「そこの森で拾ったんです。登録をしたいので冒険者ギルドに行きたいんですけど、何処にありますか?」 


 門番に冒険者ギルドの場所を教えて貰って街の中を歩く。


 孤児院があった街と同じくらいの街並みが続いている。


 冒険者ギルドはすぐに見つかった。


 受付に行くと書類に記入を求められた。


 契約者の名前と従魔の名前と種類を記入するようになっている。


 名前はいいけど従魔の種類って何だ?


「…シヴァって何? 犬? 狼?」


 僕の懐の中でアーサーが体を震わせている。おそらく笑っているんだろう。何が可笑しいのやら。


 幸い受付のお姉さんは他の人の対応で側には居ないけど、側にいたら怪訝な顔をされるところだ。


「シルバーウルフでいいよ。本当の事を書くと大騒ぎになるからな」


 大騒ぎになるような従魔ってなんだろう?


 今考えても仕方がないので、僕はシヴァに言われたとおり「シルバーウルフ」と記入した。


 お姉さんは書類を受け取ると、シヴァに付ける登録証を選ぶように言った。


「こちらは全て魔道具ですから、従魔の大きさによってサイズが変わりますよ」


 お姉さんが出してくれた登録証には首輪やリングやペンダントなどがあった。


 首輪は何だか締め付けるみたいで嫌だな。


 僕は金色に輝くペンダントを手に取った。


「これがいいな」 


 お姉さんは僕からペンダントを受け取ると、そのペンダントトップにシヴァの名前を刻んでくれた。


 それをシヴァの首にかける。


「カッコいいよ。シヴァ」


 シヴァが得意そうにしっぽを振る。


 それから買取コーナーに向かい、いかにも僕が出している風を装って、シヴァの亜空間エリアからホーンラビットを取り出して買い取って貰った。


 これで暫くは宿に泊まる事が出来るだろう。


 また受付に戻っておすすめの食事処と宿を教えて貰った。


 従魔連れのテイマー専用の宿があるそうだ。


 冒険者ギルドから近い所に宿屋はあった。


 ここは食事処も兼ねているようだ。


 とりあえず一泊の宿を取り、食堂へと向かった。


 僕とシヴァの食事を注文して食べ始める。


 おすすめだけあってなかなか美味しい。


 ってか、あの孤児院がどれだけ酷かったかって事だろうね。


 食事を終えて用意された部屋へと入るとベッドにダイブした。


 ベッドに寝るなんて、この世界に転生して初めてだな。孤児院では床に薄い布団を敷き詰めて雑魚寝をしていたからね。いや、孤児院に捨てられる前はベッドに寝ていたかもしれないけど、覚えてないしね。


 シヴァとアーサーが何か言っているけど、僕の瞼は既に限界だった。


 ……おやすみ。

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