第３話 金髪美少女
……ん？
目を開けると青い空が見えた。
なんか夢を見ていた気がする。
だが、その内容が思い出せない。
…………まあ、いいか。夢なんてそんなものだし。
ところで、ここは……どこだ？
俺はゆっくりと上体を起こす。
目の前に小さな滝壺があった。
水飛沫が盛大に上がっており、その向こうには
遠くから鳥の鳴き声のようなものが聞こえてくる。
…………ああ、そうか。
俺は大きな滝の上から落ちたんだった。
あの滝から落ちたとき、俺は死を覚悟した。
だって、ものすごい高さなんだもん。
どう考えても死ぬって。
ところが俺は死ななかった。
それどころか怪我ひとつしなかった。
なぜこんなことが起こったのか？
思い当たることはひとつしかない。
それは川柳だ。
川柳とは、五・七・五で表現される短い詩だ。
俳句と同じ文字数だが、季語を入れる必要がないので自由度は高い。
少しなら文字数の増減も可能で、感じたことを自由に表現できる。
俺は滝に落ち始めてすぐ、趣味の川柳を読んだ。
速すぎて、まじでスローが恋しくて。
滝に落下する速度があまりに速くて映画のスローモーションが恋しくなっちゃった、という、追い詰められた人間の悲哀を表現した句である。
人生最後の川柳なんだ。もっとマシな句を読みたかったが、落下の最中に落ち着いて考えることなんてできない。
思い浮かんだ句をそのまま読むのが精一杯だった。
ところが、この川柳を読んだ直後、異変が起こった。
どういうわけか体の落下速度が非常にゆっくりになったのだ。
そのうえ先に落下した筏が水の上で俺を待っていた。
俺はその筏にゆっくりと下り立ったのだった。
あのときは幻覚でも見てるのかと思ったが、今もこうして生きているんだ。
あの現象は事実だったのだろう。
その後の記憶は曖昧だ。
筏ごと流されていたことはうっすらと覚えているが、それ以外はまったくと言っていいほど覚えていない。
当たり前だが滝壺にない筏がどうなったかもわからない。
「…………とりあえず立つか」
最初はそれほど気にならなかったが湿った土が冷たくて不快だった。
俺は手をついて立ち上がると、尻にはりついたズボンをはがす。
そこで、誰かの視線を感じた。
俺はそちらに顔を向ける。
いつの間にか滝壺に立つ大岩の近くに、俺と同い年くらいの少女が立っていた。
肩にかかるくらいの金色の髪に、シミひとつない白い肌。紺碧の瞳。
モデルのような均整のとれた体。
水に濡れた裸体が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
さっきまでいなかったので、おそらく大岩の後ろ側にいたのだろう。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
俺と同い年くらいの少女が
それが問題だった。
金髪の少女は呆然と固まっていたが、自分の置かれた状況を思い出したのか、手で胸とあそこを隠した。
その顔には羞恥と怒りがにじんでいる。
「そこで待ってろ！ 剣の錆にしてやる！」
少女はバシャバシャ水を掻き分けて対岸へ向かうと、岸に上がって服をまとい始めた。
乳房ばかりかお尻も一級品……って、そんな場合じゃなかった！
早く逃げないと大変なことになる！
だが、そこではたと魔物みたいな生物が頭をよぎった。
激流下りをしているとき川の両側の森にはファンタジーの魔物みたいな生物が徘徊していた。
あの森とこの森がどのくらい離れているかわからないが、あの森に魔物がいたんだ。
この森に魔物がいてもおかしくはない。
魔物が
そのシチュエーションを想像しただけで身震いしてしまう。
やべえ！ 逃げても逃げなくてもバッドエンドじゃん！
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