風花ちゃんとクリスマス 中編

「歩美ちゃん、このお魚すっごく美味しい! 歩美ちゃんも食べて食べて!」


「ふふっ、そんな焦らないでよお姉ちゃん。食べるよ、お姉ちゃんのおすすめなら。どれどれ……うん、すっごく美味しいね、これ!!!」


「でしょでしょ!」


「うん、美味しい……ふふっ、楽しいね、お姉ちゃん。クリスマス、楽しいね!」


「うん! 今年も歩美ちゃんと一緒で、すごく楽しい!!!」


「ふふっ、そうだね……そうだね、お姉ちゃん!」

 ―お姉ちゃんはああいってるし、私もすごく楽しいけど。


 ―でも、来年はもっと好きな人、もっと愛してる人と過ごしたいな。


「にへへ、美味しいな……あれ、歩美ちゃん? どうかした?」


「……ん、あ、ごめん、お姉ちゃん。何でもないよ、その……ふふっ、何でもない」

 ―来年は、野中君と……悠真と二人で、この聖なる夜を過ごせたら嬉しいな!



 ☆


「ふえ~、いっぱい食べた。お腹いっぱい、幸せ風花ちゃん……悠真君のおかげで、心も身体も、幸せいっぱい風花ちゃん……えへへ」

 しばらくご飯を食べて、風花ちゃんと楽しんで……そんな時間を過ごしていると、お腹も結構いいころ合い、時間も結構いいころ合い。

 確かテレビで……お、特番あるじゃん。これ風花ちゃんと見よ。


「ふふっ、いっぱい食べたね、風花ちゃん。ところでクリスマスの歌番組やってるけど、これ見ない? 風花ちゃん、こう言うの好きでしょ」


「えへへ、幸せ~、お腹、悠真君いっぱい……え、歌? うん、大好きだよ! 私も、見たい……あ、でもその前に、ちょっと」

 すりすりと幸せそうに少し大きくなったお腹をさすっていた風花ちゃんが、急に思いついたようにてとてとリビングの外に向かって歩き始める。


「よいしょ、うんしょ……ふ~、かちゃん帰還!」

 しばらくぼーっとテレビを見ながら待っていると、どしどしと重たい階段の音とともに、大きな荷物を抱えた風花ちゃんが……え?


「なんで俺の掛布団持ってきてるの? てかよく持ってこれたね、風花ちゃん。重かったでしょ?」


「うん、すっごく重たかった。風花の事、褒めて欲しい。風花、悠真君に褒めてもらいたい」


「重い荷物持ててえらいね、風花ちゃん。この調子で……じゃなくてじゃなくて。なんでそんなの持ってきてるの?」

 ちょっと遅いな、とか思ってたら俺の布団持ってきてたのかよ、何がしたいかわかんないんだけど? なんでそれなのかわかんないんだけど?


 そう聞くと、布団にがっしりぎゅーっと包まれた風花ちゃんが、幸せそうな笑顔で、

「えへへ、それは、だって……悠真君の布団に包まれてると、風花、幸せで、ほわほわした気分になるから……風花と悠真君が、一緒に寝てるみたいで、悠真君に、ぎゅーって甘えてるときみたいに、悠真君に、包まれてるみたいで、幸せで嬉しい気分なるから……だから、持ってきました。悠真君の布団、持ってきました」


「本人居るよ、ここに。俺、ここにいるけど?」

 そんなこと言われたら普通に恥ずかしいんですけど、いくら風花ちゃんで俺に恋愛感情持ってないとはいえ恥ずかしいんだけど。

 今まで我慢して、考えないようにしてたけど、包まれてるとか、一緒に寝るとか幸せとか……そう言う事言われると、やっぱりドキドキして、変な気分になる。

 今ぎゅーなんてしたら、俺多分……風花ちゃんは絶対思ってないだろうから、自粛しないと。風花ちゃんを悲しませるのはダメだから。


「あうっ、それは……考えてなかった、悠真君、本人、したい、でも……そ、それは、その、お、お泊りできない、復讐! 悠真君と、お泊りしたいけど、出来ないから、その復讐……こ、これで、包まれて、いつものお泊り気分になる……あ、悠真君もいっしょにくるまる? 風花と一緒に、寝ますか? 風花はまた、悠真君と、ぎゅーってねむねむしたいです」


「……だ、だから寝るのダメだって、風花ちゃんお泊りしないんだから、今日は帰るんだから。だから寝ちゃダメだよ、風花ちゃん! あとぎゅーもダメ、一緒に寝るのもダメ、高校生!」

 そんなとろーんとした目で、熱い表情で見ないで、風花ちゃん!

 何というか、その……誘われてるように見えるから! ホントダメだよ、俺以外にしたらそんな事! マジでその……俺だって……俺だって……だ、ダメ、風花ちゃん!


「うむむ、風花はお泊りしたいのに、悠真君とぎゅー、したいのに……わかった、絶対寝ない。でも、布団は良いよね? これ包まって、悠真君と、一緒の気分になるから……えへへ、悠真君が二人みたい、好き……ふへへ」


「……そう言う事言わないの、風花ちゃん」


「えへへ、だって、悠真君と一緒、幸せ……ふへへ、今からも、楽しい時間だね、悠真君♪」


「……そうだね、風花ちゃん」

 そんなきわどい事を離しながら、布団怪獣のまますすすと俺の隣に寄ってくる風花ちゃんに色々な感情のこもったため息をつきながら。


「えへへ、悠真君……にへへ」


「……風花ちゃん」

 ギュッと身体を寄せた風花ちゃんの、布団越しにも伝わる体温を熱い体温とか、ぴとっと引っ付けたほっぺの熱気とか……いろんな熱さを感じながら、二人の夜は過ぎていった。




 ~~~


「ん~、むにゃむにゃ……えへへ、悠真君……むにゃむにゃ……」


「ん、風花ちゃん?」


「むにゃむにゃ……えへへ」

 しばらくだらだらまったり風花ちゃんと二人の時間を過ごしていると、隣に感じる風花ちゃんの温度がだんだんぽかぽか熱くなってきて、可愛い寝息が聞こえてくる。


「おいおい、お~い! 風花ちゃん! 風花ちゃん、寝ちゃダメ、起きて!」


「えへへ、悠真君、ダメ……えへへ、むにゃむにゃ……えへへ」


「風花ちゃ~ん! 風花ちゃ~ん!」


「むへへ、悠真く~ん……ぬへへへ……むにゃむにゃ」

 寝てしまっては家に帰れなくなるし、ていうかお風呂も入ってないしで色々問題山積みなので、肩を揺らしたりお腹をさすさすしたりしてみるけど、全く起きる気配がない。

 それどころか、さらに深い夢の中に地底ってるようにも見えて、その可愛くて幸せそうな寝顔は全然冷める気配がなくて。


「……すー、ぴー……」


「どうしよっかな、これ……」

 風花ちゃん、お昼寝とかは案外すぐ起きるけど、こういう感じで夜に寝ちゃうと満足するまで起きないからな、いつも。


 風花ちゃん寝ちゃったらお家帰れないじゃん、このままお泊りルートになっちゃう……風花ちゃんのお母さんに迎えに来てもらう? 

 いや、でもどうせお酒飲んでるだろうし、それに……どうしよっかな、マジで?


「ん~、むにゃむにゃ……うへへ、えへへ……」


「ホント幸せそうだな、風花ちゃん……つんつん……ふふっ、もちもち」

 風花ちゃんのほっぺ、もちもちしてて気持ちいいな。

 寝顔もすごく可愛くて、身体中温かくてふわふわもちもちで……ホント風花ちゃんに好きになってもらえる女の子が羨ましいな。

 みんな羨ましがるだろうな、その子の事。


「んっ、あっ……んんっ、うへへ……えへへ、悠真君……ちゅぱっ……」


「……ちょ、風花ちゃん!? ばっちいよ、咥えたら! だ、だめ、風花ちゃん!」


「ちゅぱっ、んちゅ……うへへっ……」


「……ううっ」

 ……正直、俺だって風花ちゃんの事、最近は意識しまくってる。

 もう小さい時とは、違うから。


 風花ちゃんが女の子の事好きなのは知ってるし、その恋を応援するのが幼馴染の俺の立場だし……そんな風に言い訳して、考えないようにして。


 風花ちゃんは幼馴染、昔から一緒、風花ちゃんにも好きな人がいる、風花ちゃんは……そんな事を自分に言い聞かせて、何も考えないようにしてるけど、風花ちゃんと二人で居るとその考えがすぐに崩壊して、風花ちゃんの事、好きな気持ちが溢れそうになる。


「んちゅ、ちゅぷ……んんっ、ちゅぱ……えへへ、ちゅぱ、悠真君の、ちゅぷ、甘くて……うへへ」


「ちょ、風花ちゃん……ううっ……」

 俺の部屋で俺の服着て気持ちよさそうにお昼寝してる風花ちゃんといると、子供の時と同じようにとろとろ甘えてくる風花ちゃんといると。


 俺と一緒で幸せとか気持ちいとか言ってお昼寝とかあ~んとかお風呂とか誘ってくる風花ちゃんといると、今みたいに寝ぼけて指をちゅぱちゅぱ美味しそうに加えている風花ちゃんといると……もう自分を抑えられなくなって、好きが溢れそうになってしまう。


 取り繕っていた仮面がボロボロ崩れて、その下の本音の部分が出てきて。

 冗談で取り繕えないくらい、テンションでごまかせないくらい……そんなくらいに風花ちゃんへの大好きがこぼれそうになって。

 ダメだってわかってるのに、イケないことだってしってるのに……それなのに、風花ちゃんの事大好きな自分が出てきてしまう。


「ちゅ、ちゅぅ……ちゅぽっ、ちゅぱ……じゅぽ、悠真君……んちゅ、ちゅぱ……」


「……風花ちゃん……」

 ……今の俺は藤井さんの事も大好きだけど……でも、そこには憧れって言う気持ちもいっぱい入ってる。

 憧れの藤井さんが大好き、そんなニュアンスがいっぱい入ってる。


 でも、風花ちゃんは違う。

 憧れとかじゃない、風花ちゃんの事……俺は風花ちゃんの事、純粋に大好きなんだ。


 多分好きな気持ちはだれにも負けない、宇宙で一番風花ちゃんの事大好きな自信がある……でも、風花ちゃんは……だから……!


「ちゅぷっ、ちゅぱ……うゆっ? あれ、ゆーま……にへへ、悠真君……えへへ」


「……風花ちゃん、ごめんね。俺、風花ちゃんの事……ごめん」

 咥えていた俺の指から風花ちゃんの顔をゆっくり優しく剥がす。

 そして薄紅色のぷるぷる柔らかい唇を物欲しそうにぱくぱくする風花ちゃんの頭をいつもみたいに優しく、精いっぱい甘やかすように撫でる。


「うへへ、悠真君……えへへ……」


「ごめん、風花ちゃん……俺一瞬、悪い幼馴染になっちゃった。風花ちゃんの事応援しなきゃなのに、風花ちゃんの大好き、応援したいのに……ごめんね、風花ちゃん。でももう、大丈夫。ずっと応援するよ、風花ちゃんの事」


「えへへ、ふへへ……えへへ、悠真君……えへへ」

 俺は風花ちゃんのただの幼馴染なんだ。


 このキレイな髪も、ほわほわ柔らかくて温かい身体も、もちもちなほっぺも、ぷるぷる柔らかい唇も、真っ白でふわふわなお腹も、この可愛い寝顔も、ゆるふわな笑顔も、甘えた表情も……全部、風花ちゃんの大好きな女の子のためのものなんだ。

 俺のものじゃない、全部全部風花ちゃんの大好きな人のためのものなんだから。


 だから、俺は、風花ちゃんを……風花ちゃんの事、好きになっちゃいけないんだ。

 風花ちゃんが自分の大好きを見つけるまで、幼馴染として風花ちゃんの事、応援し続けなくちゃいけないんだ。


「ぬへへ、にへへ……えへへ……」


「風花ちゃん……ごめんね、風花ちゃん……よいしょ」

 俺の胸の中にコトンと身体を預けて、頭を撫でられながら幸せそうに笑う風花ちゃんをお姫様だっこの要領で持ち上げる。


「ん~、あむ~……ん~、悠真君……えへへ」


「軽いな、ホント。それに柔らかくて、いい匂いで、温かくて、可愛くて……羨ましいな、風花ちゃんに、好きになってもらえる人は。俺だって、風花ちゃんの事……羨ましいな、ホント」

 こんな可愛い風花ちゃんにいつでも大好き出来て、いつでも風花ちゃんの事愛せて。


 こんな可愛い風花ちゃんを、風花ちゃんの事を……ダメだ、こんな事考えてもしょうがない。

 俺は風花ちゃんの幼馴染……ただの幼馴染なんだから。


 邪念を振り払うように自分に言い聞かせて。

 腕の中でミノムシみたいに俺の布団に包まる風花ちゃんを、そっとソファに眠らせる。

「えへへ、悠真君がいっぱい……うへへ、悠真君……」


「ホントどんな夢見てるの、風花ちゃん……そんな事言われたら、ホント……ダメダメ。ダメなんだから風花ちゃんは……おやすみ、風花ちゃん……おやすみ、大好きだよ」


「にへへ、ぬへへ……風花、幸せ……えへへ」

 幸せそうな表情で寝言で俺の名前を呟く風花ちゃんにまた色々溢れそうになったけど、それを我慢して。

 今の俺がしていい一番の事―風花ちゃんの頭を優しく撫でて、ボソッと聞こえないように気持ちを伝えて……さっきまでいた炬燵にもう一度戻る。


「……ハァ……風花ちゃん……ハァ」

 ダメだな、考えちゃいけないのに、大好きな気持ちやっぱり止まらないや。

 風花ちゃんの事大好きで、全部俺が……ダメダメ。


「ハァ……」

 サンタさんに風花ちゃんへの大好き、忘れさせてくださいって頼もうかな……なんて思ったりもして。

 そんなことしても無駄なのに……俺自身が、ちゃんとしなきゃなのに。ちゃんと幼馴染になりきらなきゃなのに。


「……ぷあぁぁ……」

 ……にしても眠くなってきたな。

 風花ちゃんをリビングに一人にするわけには行かないし、だから俺はここでお母さんたちが帰るのを……


「……ふわぁぁぁ……」

 帰るのを待って、それで、それで……



 ~~~


「ううっ、さむっ……トイレ……」


「ふ~、すっきり……あ、悠真君。悠真君だ……えへへ」


「悠真君、ぎゅー……ぬへへ、温かい……風花に、悠真君、いっぱい、幸せ……あむっ、ちゅぱっ……」


「あむっ、ちゅちゅ、ちゅぷっ……うへへ、大好き、悠真君……ちゅぷっ、ちゅぱっ……ちゅっ……」



 ★★★

 明日、風花ちゃんとクリスマス最終回。

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