第22話 高鳴って、止まらない

「悠真、荷物持ってくれてありがと。結構買い物しちゃったから、悠真が荷物持ってくれて助かるよ、すっごく重たかったから。だからすっごい嬉しいな、悠真が私の事気遣って荷物持ってくれて。ふふふっ、なんか新婚さんみたいで楽しいかも」


「し、新婚さんは言いすぎだけど、と、当然だよ、これくらい! 歩美に重い荷物持たせるなんて秋穂さんにもお義母さんにも怒られちゃうし! だからこれくらいはします、このくらいの荷物持ちはしますから!」


「お義母さんって、まだ早いよ、新婚生活も楽しみだけど……でもありがと。優しいんだね、悠真は。それに嬉しい、悠真とこうやって放課後デートして、それで……ふふふっ、スーパーでもだけど悠真といると私、すごく視線感じる。悠真と一緒に居たら優しい目で見られてる気がして、それで……うふふふっ、私と悠真ってそんなにお似合いなのかな? 私と悠真、そんなに恋人同士に見えるのかな? やっぱり私と悠真、ラブラブで、そう言う運命なのかな?」


「う、運命……そそそ、そんなわけないじゃん、絶対そんなわけない! か、からかうのはもう、おしまいだよ、歩美! 俺の恋人は秋穂さんなんだから!!! だから、そう言うのは、その……マジで、やめてください、本当に」


「ふふっ、ホント素直になっていいのに、悠真は……ふふふっ」



 ☆


「あ、俺帰るね、歩美! その、えっと……着替えたいし、色々荷物も置いてきたいから、一回家帰るね! 留守番よろしく!」

 ドキドキして、ドギマギして……色々気持ち悪い考えとか、ダメな妄想とかが浮かんでしまった歩美との放課後の買い物とその帰り道。


 その気持ち悪い考えをいったんリセットするために、これ以上余計で邪な考えが浮かばないように、藤井家で買い物したものを冷蔵庫に詰め終わった俺は高鳴る心臓を隠すように、歩美にそう言う。


 その言葉を聞いた歩美は、びっくりしたような顔をした後、面白くなさそうにぷーぷー鳴き声を出しながら、

「え~、なんで、悠真? 一緒に居てよ、私と二人きりなんだよ? お似合いな私と二人、誰にも邪魔されないヒミツの時間なんだよ……えへへ、そんな時間、悠真と過ごしたかったな。悠真と二人で、お姉ちゃんが帰ってくるまでの時間しっぽり仲良く……そんな時間にしたかったんだけど? なんで帰るの、ぷーぷー!」


「いや、だって、その……制服に匂いとか付いたら嫌だし。荷物、重いし。そ、それに、その……」


「いつも制服でしょ、悠真は? 家に来るときはご飯食べる時でも制服でしょ、悠真は。荷物だっていつもだし、いまさら何言ってるの? 私と二人で、素直でラブラブな仲良ししよ、悠真? 二人のヒミツの時間、過ごそ?」


「いや、その……もへもへ……」

 ……歩美が原因で帰りたいとか言えないし、そんなこと言えないし!

 今日の歩美が可愛すぎて甘すぎて、嘘とかハニトラに聞こえなくなって、心が揺らいで浮気しそうで……そんな理由で帰りたいとか言えるわけないし!


「悠真? ん~、悠真? えへへ、悠真?」


「あうぅぅ……」

 こうやって覗き込んでくる顔もめっちゃ可愛いし、笑顔はいつでも素敵だし!

 こうやって挑発してくる歩美はすごく可愛いし、今日は言動の節々がもう色々とやばいし、大変だし!


 帰り道とか冷蔵庫に入れてるときには新婚さんみたいとかラブラブとかかなりきわどい事言ってくるし。

 それにさっきも運命とか二人だけどのヒミツの時間とか……と、とにかくもうちょっと耐えられない、これ以上いると本当に勘違いして、気持ち悪い妄想が止まらなくなってしまう!

 これ以上いるとマジで歩美の事また……だ、だから帰る! とにかく今日は帰る!


「え~、帰らないでよ悠真! 私はもっと悠真と二人で居たいの、悠真と二人っきりでもっと過ごしたい……お姉ちゃん居ない時しか、私と悠真が素直になって二人で仲良し出来ないんだよ?」


「か、帰るって! 素直になるとか知らないし!」


「もう、悠真……悠真!」


「!?」

 ぷくーっと少し文句言いたげにほっぺを膨らませた歩美が、俺にぴたっと身体をくっつけてくる。


「悠真、私……ねえ、悠真?」


「ちょ、歩美……汚いって、ダメだって……」

 秋穂さんでは感じられない大人で甘い感覚が、秋穂さんでは出せないむちむちな柔らかさが、秋穂さんでは無理な距離にあるキレイで色づいた顔が、熱い息遣いが……否応なしに俺の身体を侵食していって。

 押し当てられた歩美の身体から感じる感覚は、今の俺には劇薬過ぎて、心臓の鼓動が……ちょ、ホントにダメ! ダメだって、歩美! 本当にもう……ホント、ダメだから!!!


「ダメなじゃない、ドキドキしてるもん。……悠真と二人っきりになって、ぎゅーってして……私今、凄いドキドキしてる。聞こえるよね、私の心臓の音……悠真もドキドキしてるもん。熱い心臓の音、いっぱい聞こえて、私と共有してる……二人の音、熱すぎて、おかしくなっちゃいそうなくらい……それくらい、いっぱい聞こえる」


「あ、歩美、その……」

 ……高鳴る心臓はもう止められる気がしない。

 歩美から聞こえる音も、俺の音も……二人だけの世界で奏でられるその音はかき消すにも止めるにも大きすぎる。

 この音は、このドキドキは、この衝動は誰にも止められない。


「……今、お姉ちゃん居ないんだよ。お姉ちゃん居ないから何言っても大丈夫、私も絶対ヒミツにするから。熱いの当たってるよ、悠真の。悠真の熱いの、いっぱい感じる……だから素直になって、本当に……今は私と、二人きりなんだから。大好きなわた……」


「もももも、もう帰る! 俺もう帰る! いったん帰ってシャワーとかも浴びたいし! だ、だから帰るね!!! ホントに、もう、ごめん! ホントに帰るから!!!」


「え、悠真? 悠真!?」

 ……だから俺は強引に歩美の身体を引きはがし、そのまま扉に向かって走り出す。

 流されちゃダメだから、絶対ダメだから……本当にダメなんだから! だから強引だけど、でもこれが正解! 絶対正解!!!


「悠真、待って? 悠真!」


「ご、ごめん歩美! でもその、戻ってくるから! 絶対戻っては来る、すき焼き食べたいし! だからその……今は帰ります、バイバ……イ!?」

 追いかけてくる歩美にそう言ってカギを開こうとした時、俺の左手をギュッと歩美に掴まれる。


「悠真、その……待ってるから。お姉ちゃん、まだ帰ってこないし、だから……私、待ってる。待ってるから、だから……帰ってきてね、悠真。私に絶対、帰ってきてね」


「……!?」

 俺の左手を掴んだ歩美が上目遣いの甘えたがりな表情でそう呟く。

 何かに期待するような、恋人にそう言う事をねだるようなそんな……ダメダメ! ダメ!!! そんなの違う、期待とか、そんな……違う!!!


「じゃ、じゃあね、歩美! じゃあね!!!」


「うん、待ってる……悠真、待ってるからね……私はいつでも、いいから」


「は、はい!!!」

 これ以上いると色々おかしくなって、それで……そんなことになるのは嫌なので、そのまま家を飛び出し、自宅まで想いを振り切るように全力で走る。

 やばいって、本当にやばいって今日の歩美は! 可愛すぎるし、本当にマジで全部可愛くて、それで……こんな事されたら絶対勘違いしちゃうじゃん! 大好きだって思っちゃうじゃん……俺だって好きになっちゃうって。


 そんなこと言われたら本当に俺の事が好きだと思っちゃって、大好き同士の恋人同士だと思っちゃって、それで俺も歩美の事好き……ダメ、浮気ダメ! 秋穂さん、俺の彼女は秋穂さん!!!


「……はぁ……なんだよ、マジで……わかんないって……俺、歩美の事……わかんない、わかんない……わかんない……」

 疲れて座った路地の裏で自然と口から言葉が洩れる。

 どうしよ、ホントに……秋穂さんの事好きなのは事実だけど、でも……ダメだ、ダメだ……俺はホント、ダメな人間だ。


「……帰ろ、家……それからだ、全部」

 とにかく、家に帰ろう。

 そうしないと、何も始まらない。




「ふふふっ、悠真……悠真! ついに、悠真と……えへへ!」

 ―あれだよね、悠真の言ってたこと……悠真、身体綺麗にして、ちゃんと勝負服とか下着とか……そう言うの、準備してくれるんだよね? 私とのために……色々考えてくれてるんだよね?


 ―嬉しいな、ホント……やっと悠真と一つになれるんだ……私だって、準備しないと。私もシャワー浴びて、それで……えへへ、待っててね、悠真。お姉ちゃんじゃ絶対できないこといっぱいして、それで……私以外、考えられないようにしてあげるから。



 ☆


「た、ただいま……」


「お、お帰りお兄ちゃん……って何? なんか元気ないじゃん、どした?」

 おそるおそる家の扉を開けると、リュックサックを背負った妹が出迎えてくれる。

 どこかお出かけに行くような、軽い化粧を施して。


「いや、別に……由美こそお出かけ?」


「それならいいけど! うん、ちょっと彼氏とね! だから家にはお兄ちゃん一人、お母さんもお父さんも夜遅い……彼女呼ぶなら今ですぜ!」


「ホント仲いいよな、由美と嵐君……って彼女? なんで知ってるの、由美?」

 由美には秋穂さんの事ヒミツにしてたんだけど?

 何で知ってるんだ、由美のやつ?


 そう言うと、由美は自慢げに鼻を鳴らしながら、

「そりゃだって、この前会いましたから! 街中でたまたまあってね、色々話したの、お兄ちゃんの事とか! ヒミツにして欲しいみたいだから黙ってましたけど!」


「へ、へ~。そんなことあったんだ」


「うん! でもお兄ちゃんの彼女さん、すっごい美人さんだったね! スラ―っとしてて、顔もすごくキレイで美人で、お清楚な感じで! 脚も長いし、身長も高いし、本当にモデルさんみたい、あんな美人さん久しぶりに見たよ~! 芸能人より絶対可愛いでしょ、お兄ちゃんの彼女! あんな美人さんが彼女とかお兄ちゃんやるね、流石私のお兄ちゃん! お母さんにはナイショにしといてあげる!」


「うん、まあ確かにかわい……え? 今なんて?」


「え、そりゃ……あ、ごめんお兄ちゃん、嵐君から電話だ! 今すぐ行かなきゃ、バイバイ! 色々よろしく!!!」


「あ、うん……バイバイ?」

 慌てたようにスマホを取って、いつもより可愛い声で電話を始める由美を手を振って見送る……んだけど、なんか由美変なこと言ってなかった?


 キレイとかモデルみたいとかなんか歩……って違う! き、気のせいだよね、俺が意識しすぎただけ! 絶対に関係ない、俺の彼女は秋穂さんだけなんだから!


「そ、そうだ! 秋穂さん! 秋穂さん迎えにいこう、そうしよう! それが良い、秋穂さんだ!!!」

 秋穂さんの大学、この前聞いたし、最寄り駅もわかるし!

 だから迎えにいこう、秋穂さんの事! 大好きな秋穂さん、迎えに行くんだ!


「……ふぅ」

 ……そうすれば歩美と二人になって、それで……間違い犯しちゃうことも、ないだろうから。



 ~~~


「あ、秋穂さん! 俺です、悠真です! お疲れ様です、秋穂さん!」


「あ、悠真君! 迎えに来てくれてありがと、会いたかった! 好きが止まらくなくて、会いたいの気持ち、ずーっと止まらなかった!」

 駅のホーム、俺に気づいた秋穂さんが俺にギューッと飛びついてくる。

 うん、この感覚、これが俺の彼女……この感覚が、でも少し物足りな……ううん、これが正解! これが俺の秋穂さん!


「アハハ、それは嬉しいです。俺も秋穂さんの事、その……ずっと、考えてましたよ。ずっと好きだって、考えてましたよ!」


「えへへ、嬉しいな、悠真君にそんなこと言ってもらって……えへへ、これかららぶらぶして帰ろ? 悠真君と私、その……らぶらぶして、二人一緒に帰りたいです。今日授業で疲れちゃったから、悠真君にいっぱい、甘えたいです」


「そ、そうですね……いっぱい、甘えてください!」

 そうだ、俺の彼女は秋穂さんなんだから!

 だからこうやっていっぱい甘やかして……いっぱい秋穂さんと、ラブラブするんだ!


「んん~、悠真君大好きすぎ。ここみんな見てるよ、ちょっと恥ずかしい……えへへ、好き。大好き、悠真君……えへへ」


「はい、俺も好きです! 大好きです、秋穂さん!!!」




「……追ってきたけど、どう? 浮気? 二番手?」


「本命感もあるけど、サブ感も強い。保留!」


「了解!」



 ★★★

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