第12話 学校と幼馴染、小学生

「な、なんで藤井さんと一緒? 藤井さんと二人で登校何で?」


「……あれ? 悠真君?」


「そ、それはたまたまあったから! ね、藤井さん?」


「うん、たまたま……すっごいたまたま、会えたんだよね。偶然、二人きりになれたんだよね?」


「……え? え?」



 ~~~

「野中君、野中君?」


「野中君、野中君! ふふっ、やっと見てくれた。話したい事、まだいっぱいあるよ。いっぱい野中……悠真と話したいんだ、私」


「悠真? ちょっとこっち、来てくれる? 悠真と二人じゃなきゃヤダ、悠真と二人でいっぱいお話したい」


「えへへ、やっぱり悠真楽しい」


「悠真! 私! 私でしょ、悠真!


「も~、悠真のいじわる! 私の事は一番でしょ、だからそんないじわるしないで、悠真」


「悠真悠真悠真! 悠真!!!」



 ☆


「……なあ悠真、お前藤井さんとやっぱそう言う関係? もしかしなくてもそう言う関係? やっぱり付き合ってる感じなん、お前達?」


「……そんなんじゃないよ、そんなんじゃ」

 昼休み、教室の隅っこでご飯を食べているとジト目の太雅からそんな質問。


 あの後、学校に着いてからも藤井さんは俺に積極的に話しかけ続けた。本当にずっとよくわかんないテンションで、楽しそうに……でも違います、多分藤井さんには嫌われてます。大分目の敵にされてます。

 それに俺の彼女はお姉ちゃんの秋穂さんの方です……それは言えないけど、今は。


「でも繰り返すが朝一緒に登校してきたし? 休み時間も凄い話してたし? なんか二人きりになる時間もあったし? おかしいなー、って。昨日の今日でそんな事なる、って思ってね」


「まあ、それはその……俺もそう思う」

 昨日の今日でどうこうって話は俺と藤井家の全部に言えるわけで。

 藤井さんのお姉ちゃんの秋穂さんと付き合ったり、藤井さんがハニトラ仕掛けて来たり……そんな事、昨日の今なら考えもしてなかった。


 藤井さんとそう言う関係なれたら……なんて妄想はしてたかもだけど、でもここまで関係が変になるとは思ってなかった。

 藤井さんがお姉ちゃんの秋穂さんのために身体を張って嫌いであろう俺に近づいてくるとは思わなかった。


「だろ? 何があったかは聞かないけど、でも羨ましいぜ、俺は。藤井さんとあんだけ話してたらすっごい楽しいだろ? もうなんかやばいだろ、うまく言えないけど! もうかなり興奮してむんむんだろ?」


「……ノーコメントで」

 ……正直ハニトラってわかってなかったらコロッと落ちちゃいそうなくらい藤井さんの破壊力すごい。


 やっぱり藤井さん可愛いし、キレイだし。それに全力で来るし、なんかすごいまっすぐ純粋に見えるし……割と精神力鍛えられるって言うか、かなりきついって言うか。

 本当にやばいです、好きになりますあんなの。

 秋穂さんいなかったら絶対また大好きになってそれで告白して、でもあっちはお遊びで、ハニトラで……そんな未来が待ってたに違いない。


「ノーコメント、ってなんだよ! 何その煮え切らない返事、好きなんだろ藤井さんの事?昨日はあんなこと言ったけど、俺は悠真の事応援するぜ、やっぱり! 悠真の事だからな、俺も応援するぜ、たとえ相手が藤井さんでも!!!」


「アハハ、ありがと太雅。でもそれ、今は良いかな。今はもう、大丈夫かな?」


「もう大丈夫? どういう事だよ……ってそれってもう、そう言う関係って事!? もうそう言う関係になれたから俺の応援は必要ないって事なのか、悠真!?」


「いや、そう言う事じゃなくて……そう言う事じゃないんだよ、太雅。全然、そう言う事じゃない……気持ちはありがたいけど、違うんだ」

 ごめんよ、なんか昨日と言ってること違くて。

 でもあるんだ、色々事情が……だから太雅には申し訳ないけど少しだけ嘘つかせてほしい。


「……なんか今日の悠真、ちょっと変だな、よくわかんない感じ。まあ、あんまり干渉するのは良くないけど」


「ありがと、太雅」

 好奇心旺盛な、楽しそうな瞳でグイっと俺に迫ってきたけど、でもすんなりとその身を引いてくれた太雅にそう頭を下げる。


 この嘘はこれからのためになるから。

 俺はもうどうなってもいいから、とにかく秋穂さんのために頑張ります! ちゃんと大好きな秋穂さんの彼氏だって認めてもらいますから!


「風花~! あ~ん!」


「あ~ん……えへへ、美味しい、翠ちゃん。すっごい美味しい……ふへへ、私、すっごい幸せ。翠ちゃんのこれ、すっごい好き」


「風花~、私も大好き~!!! 私も風花の事大好き大大大好き!!!」


「うん、私もだよ、翠ちゃん……ふへへ」

 今も教室の真ん中でほんわか空気でイチャイチャしてる幼馴染の風花ちゃんと難波さんのカップルのように! 俺と秋穂さんも周りにこんな風に認めてもらうんだ! こんな風に堂々とラブラブするんだ!!!



 ~~~


「悠真、悠真! ねえ、悠真?」


「うんうん、藤井さん……アハハ」



「……あれ? なんか、ヤダ、かも……悠真君、それ、なんか……」


「ん~? どうしたの風花ちゃん? なんか気になる?」


「……ふえっ!? え、あ、その……ううん、何でもない。ちょっと、あの悠真君……ううん、何でもない!」


「も~、隠し事厳禁だよ、私には! 風花と私はようやく好き好きになったんだから、そう言うの禁止! 何、野中と何かあるの? 名前、言ったよね? 幼馴染だよね、二人? 男の子の野中と何かあったの? 野中と何かあった? 今日結構、野中の事見てるけど? 何か変な事された、野中に?」


「こ、怖いよ翠ちゃん……そ、それに悠真君じゃないよ! ゆ、悠真君は関係ない、悠真君とは、ほ、本当に何もないから! だだだ大丈夫だよ、安心して。私が好きなのは、翠ちゃんだけだから! 翠ちゃんが一番好きだから!!!」



 ☆


「それじゃあ各自解散! 部活のやつは頑張れ、さよなら!」

 先生の号令とともにガタガタと一斉に椅子の引く音が教室を支配する。


「なあ悠真、今日俺と……」


「悠真、私と一緒に帰らない? 私今日休みなんだけど?」

 俺に話しかけようとしてきた太雅を遮るように間に割り込むのは藤井さん。

 ホント徹底してますね、まじめだね藤井さんは。


「誘いは嬉しいけど、今日俺は……」


「何で? 悠真何もないでしょ、知ってるよ私? だから一緒に帰ろ、ね? ね? 私と一緒、いや? 悠真は私と一緒、嫌なの?」


「え、あ、その……」

 ちょっと圧が凄いです、怖いです藤井さん。

 後ろの太雅も何とも言えない複雑な表情で……太雅、いずれ説明する。ちゃんと説明するからちょっと待ってて!


「ね、良いでしょ? 良いよね、悠真?」


「いや、その……」


「お~い、野中! 野中悠真? ちょっと来てくれ~!」

 しばらく藤井さんの怖い圧に耐えていると救いを差し伸べるように保健室の手塚繭先生の俺を呼ぶ声が聞こえる。


「ご、ごめん藤井さん。ちょっと先生とこ行ってくる、先帰ってて」


「チッ、タイミング……うん、わかった。先生ならしょうがない。一旦私、先、一人で帰ってるね……でも待ってる、悠真用事ないの知ってるから。ね?」


「う、うん……あはは」


「うん、それじゃ! それじゃあね、悠真……ちょっと不満だけど先帰るね。でも私待ってる、悠真絶対来てよね!」


「ば、バイバイ! バイバイ、藤井さん!」


「うん、またね! 待ってる! 私待ってるからね!!!」

 少し不満そうで、でも少し不穏な事を口走る藤井さんを先に帰らせて、そのままいつも勝手に人体実験する手塚先生の下へ。


 すみません、と先生に駆け寄ると先生はだるそうに髪をかき上げながら、

「あー、何だ野中お取込み中だったか? 私、なんか邪魔しちゃったか? 藤井とデートの約束でもしてたのか、養護教諭なのに恋路、邪魔しちゃった?」


「い、いえそんな事ないです、大丈夫です! 全然、大丈夫です! 大丈夫ですから、用件! 用件教えてください!」

 デートの約束なんてしてません、大丈夫です!

 普通になんか……ハニトラ、みたいなやつです、はい。


「ふーん、最近の男女の関係わかんねぇーなー……あ、用件は何か用務員室から。野中の事、呼んでる小学生がいるから来て欲しいって、田中さんが。詳細は聞いてねえ、めんどくさいから」


「先生も若いじゃないですか。で、小学生ですか? どんな子ですか?」


「バーカ、26なんておばさんだぜ。ダリアのやつも結婚したし……ってこの話はお前興味ないか。詳細は聞いてねえからわかんね。でも小学生らしいぞ、お前よくボランティアとか行ってるしそれ関連じゃね、知らんけど?」


「適当ですね、相変わらず。まあいいですけど、とにかく行ってみます」

 まあ、この先生に詳細なんて求めても無駄か、いつもわけわかんない薬わけわかんない手順で飲ませてくるし。


 人体に有害じゃないって言っても怖い奴、普通に飲ませてくる系ダウナー系おじさん系26歳の人だし。

 とにかく行ってみるのが正解か、その用務員室に……小学生って誰だろう? 

 明日学童の遠足のお手伝い行くからそれ関連で俺にお話聞きに来た人でもいるのかな? 一応俺色々聞いてるし、そう言う感じかな? あそこのセキュリティと情報管理ガバガバだし。


 そう考える俺を見ながら、繭先生26歳は白衣をパタパタ眠そうに動かして、

「だから知らないって、とにかく行ってこい。あ、その前にこれだけやってくれ、この前の事後報告。これだけ書いてくれ、行く前に。5分で終わるから、ちゃっちゃとやれ」


「……ホント、適当ですね、先生。この薬作った人、一切教えてくれませんし」


「だーから。ダリアって言ってるだろ、斉藤……いや、結婚して加藤か。加藤ダリアが作ったやつだって」


「だからその人の事教えてください」


「その筋では有名な私の大学の友達……これ以上は言えません、ダリアの事はナイショです。あいつの事はナイショです」


「……ケチ」

 やっぱり全然情報を教えてくれない先生に小さくそう悪態をついて、俺はいつものように事後報告を行うことにした。

 用務員室も行かなきゃだし。



 ☆


「何が5分で終わるだよ、めっちゃ時間かかるじゃん。15分かかったよ、もう!」

 繭先生の事後指導、めっちゃ時間かかるじゃんやっぱり!

 あんな質問、5分で終わるわけないじゃん、めっちゃ時間かかったわ! いつもだな、あの人!


 そんな恨み節を唱えながら、小学生を待たせるわけにも行かないので少し急いで用務員室の方へ。


 しかし、俺に用事な小学生って誰だろう、妙に候補が多いからわかんない。

 もしかしたら学童の先生にお遣い頼まれた系かもだし、或いは……

「だから、悠真君! 悠真君に合わせて、歩美ちゃんと同じ学校! だから、悠真君に会うの、悠真君に会いに来たの! 悠真君を迎えに来たの!!!」


「だからダメだって、小学生は入っちゃダメなの! ここは高校のお兄さんとお姉さんが来るところだからね。悠真君が誰かわかんないけど、秋穂ちゃんは入っちゃダメなんだ、お兄ちゃんとお姉ちゃん待つならここで待つんだよ」


「きぃー! だから私の方がお姉さん! 私19だもん、悠真君よりお姉さんだもん! 悠真君お姉さんおーらでめろめろだもん!!!」

 ……あれ、この声って……あれ?

 あれれ、あれれ?


「はいはい、秋穂ちゃんはいい子だね、お兄ちゃん大好きなんだね~」


「むきー!!! 大好きなのは正解だけど、私は本当に……」


「秋穂さん、お待たせしました。何やってるんですか、こんなところで?」


「本当に悠真君を……って悠真君! 悠真君会いたかった!!! この先生酷いんだよ、私の事小学生って、私の事……」


「ちょっと待って下さい秋穂さん、少しステイです。もうちょっとだけ情報、教えてください。そんなんじゃわかりませんよ、何があったか」


「……うん! わかった、悠真君!!! だからもっとなでなで……えへへ」

 扉を開けた瞬間、大きな目にちょっと涙をためて抱き着いてきた女の子―俺の彼女の秋穂さんの小さな頭をナデナデ撫でる……って小学生って秋穂さんの事かよ!




 ★★★

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