第2話 心配だから

「うへへ、悠真君……えへへ、もっと、もっと撫でて欲しいです、悠真君⋯⋯撫でてくれたら元気いっぱいでそうです」


「わかった、いいよ。秋穂ちゃん頑張れ~」


「う~ん、んふふふっ……ふふふっ」



 ☆


「にへへ、悠真君……そ、そうだ! こ、この後、時間、ある? そ、その……お母さんとかお父さんにも、色々紹介したいんだけど……だ、大丈夫、かな? その、今は家いないけど、紹介したいから……ゆ、悠真君の事とか、色々。お礼、とかも」

 しばらく頭を撫で続けること数分、元気を取り戻した秋穂ちゃんがもじもじしながら恥ずかしそうにそう言う。


「紹介? 秋穂ちゃんの家に行くの?」


「う、うん! だ、だってこんな経験、初めてだし、それに……あ、でもまだ早い? お父さんとお母さんはまだ早いかな? そ、それに、まだちゃんと……だし」


「いや、それはむしろ早い方が良いよ、大事なことだし。わかった、行くよ秋穂ちゃんの家。一人で家に帰すの、ちょっと心配だしね」

 事故にあいかけた―そんな経験初めてだろうし、そう言う大事な事は早く親さんに報告しないとだし。


 それに僕だって秋穂ちゃんが事故にあわないか心配だし。

 荷物重いのかフラフラしてて心配だし、大きなリュックを誰かにぶつけないかかなり心配だし。

 だから一緒に帰ろう、また秋穂ちゃんが事故にあったら今度は助けられるかわかんないから。だから秋穂ちゃんの事ガードさせて、お礼はいらないから。


「え、その……ナイトって事? 私を守ってくれる騎士さんになってくれるの?」


「ふふっ、それが好みならそれで。とにかく一緒に帰ろ……んっ」


「騎士さんってより、もう悠真君は私の……って、え? な、何? ど、どうしたの悠真君? そ、その……本当に、私の……な、何ですか!?」


「何って、手繋ぐよ。秋穂ちゃんを無事に送り届けるのが今の僕―秋穂ちゃん的に言えば騎士さんの役目だからね!」


「あうぅ……わ、わかった。わかり、ました……よ、よろしく、悠真君……わ、私の事、よろしくします。しっかりお届けしてください、騎士の悠真君」


「うん、任された。秋穂お姫様をしっかりお城送り届けますからね!」


「……はい」

 そんな年頃の小学生が喜ぶ……かどうかは人によるからちょっと分かんないけど、そんな会話をしながら。

 秋穂ちゃんの控えめに差し出された小さくて暖かい手を取る……あ、そうだ。


「秋穂ちゃん。家どっち?」


「ん、こっち……こっちです、悠真君」


「あ、それじゃあ逆の手だね。こっちだと秋穂ちゃん車道側で危なくなっちゃう。あ、荷物持とうか? それ重いよね、僕が持ってあげるよ?」


「あ、ありがと! で、でも大丈夫そこまで負担かけられないし……お姉さんとして、ここは頑張るよ、悠真君!」


「……お姉さん?」



 ☆


「……緊張、初めて、男の子と……うゆゆ……」


「……」

 秋穂ちゃんの手を取って歩いてしばらく、二人の間に会話無し。


 ……ボランティアとかの癖でほぼ何も考えずに手握ったけど大丈夫かな? 通報とかされて警察さんに怒られないかな? 学生服だから大丈夫だよね? 


「……私、と悠真君……でも悠真君、私の事、お父さんにもお母さんにも……でも……あむむ~?」

 ……そして女子小学生相手に話すことなんて思いつかない! いつもは子供さんの側から話してくれてそこにノリを合わせるから考えた事なかった!


 小学校とかそう言うの聞けばいいのかもしれないけど、そう言う場じゃないとこで個人情報とかそう言うの聞くのダメだと思うし……な、何の話すればいいんだ? テレビも最近全然見てないし、本当にわかんない!


「ゆ、悠真君、顔が……か、カッコいいけど、私の事……あ、アイス!」

 そんな風に会話に悩んでいると、近くに見えるアイスショップの看板を見て秋穂ちゃんの顔がパーッと輝く。


「あ、アイス食べたいの秋穂ちゃん? 買ってあげようか?」


「うん、食べたい……あ、でもここはお姉さんに任せて! お姉さんが買ってあげるから、悠真君は待ってて! お姉さんに任せなさい!」


「お姉さん? 相変わらずわかんないけど、大丈夫だよ、僕が買ってあげる。アイスくらい僕に奢らせて」

 小学生に自分のお金出させるわけには行かないし、ていうかお金持ってないだろうし。甘えてください、秋穂ちゃん!


「ぷゆっ……じゃ、じゃあ、ごちそうなります、悠真君に」


「遠慮しなくていいのに。何でもご馳走してあげるから、今度は遠慮しないで!」


「う、うん……そ、それじゃ、えっと……んっと……こ、このブルーベリーとイチゴのベリーベリーすぺしゃるが食べたい!」


「ん、どれどれ……お、すごく美味しそう!」

 お客さんの少ないお店に入って、ひょいっとメニュー表を見た秋穂ちゃんが一番上にあった『おすすめ!』とでかでかと書かれたアイスを指さす。


 これは絶対美味しい奴じゃん、こんなの食べる前から正解じゃん!

 じゃあ俺はは、その隣のマスカットバスケットにしようかな、ブドウ好きだし!


「それじゃあベリーベリースぺスペシャルとマスカットバスケットください……あ、秋穂ちゃんここで食べる? それとも家で食べる?」


「そうだね……家で食べたいな。私、その……悠真君と一緒に、二人でアイス、食べたい」


「ふふっ、OK。それじゃあお願いします、お持ち帰りで、その二つ!」


「はーい、畏まりました! 少々お待ちください」

 元気の良い店員さんに注文を済ませ、しばらく待っていると、ツンツンと秋穂ちゃんが握っていた指を俺の手のひらにすりすり擦り付けてくる。

 さっきまでとは違う、少し恥ずかしそうな、急いでるような感じで。


「ん? どうかした、秋穂ちゃん?」


「ん、その……ちょっとトイレ」


「あ、ごめん、行ってらっしゃい。ここで待ってるから、急がなくて大丈夫だよ。あ、荷物は持っとくよ」


「う、うん! ありがとちょっと待っててね、悠真君!」

 ペコリと小さく頭を下げながらそう言うと、そのままてけてけ可愛い小走りでトイレに駆けていく。


 こけちゃダメだよ、そんな風に思いながら見守っているとトントンと背中のガラスのショーケースが叩かれる音が聞こえる。

 振り返ると店員さんが微笑ましそうな笑顔で見つめていて。

「んふふっ、可愛い妹さんですね。仲良さそうで羨ましいです、良いお兄さんですね。私の兄はクソなんで羨ましいです」


「クソなんて言うもんじゃないですよ、お姉さん。でも可愛いですよね、秋穂ちゃん……実は妹じゃないんですけど。その……まあ近所の子、みたいな感じです」

 実は今日あったばかりで事故が……なんて話は流石に出来ないから。

 まあこれくらいは良いでしょう、このくらいの関係にしときましょう。


「ふふっ、それならいい人ですね、お兄さんは。アイス買ってあげて、この後二人で食べるんですよね? ここのアイス、美味しいですよ!」


「お、それは楽しみです。楽しみにして秋穂ちゃんと食べますね」


「はい、食べてください! 可愛い秋穂ちゃんと一緒に食べてください! ふふっ、私もあんな感じの可愛い妹欲しかったな~!」


「え~、あげませんよ……って僕の妹でもないですけど。僕の本当の妹は……そうですね、食い意地が張ってて生意気で……でも可愛い奴です」


「ふふっ、やっぱりいいお兄さんですよ、貴方は……って秋穂ちゃん帰ってきましたね。これ、アイスです。ちょっとサービスしましたので溶けないようにゆっくり食べてください!」

 色々談笑していたけど、トイレの方からピンク色のハンカチをぎこちなく使う秋穂ちゃんが出てきたので、アイスを渡してもらう。


 トイレから戻ってきて、俺の隣に立った秋穂ちゃんはキョロキョロと俺たちを見回して、

「な、何話してたの悠真君? 店員さんと何話してたの?」


「あ、それは「秋穂ちゃん、悠真君可愛い秋穂ちゃん誰にもあげたくないだって! 可愛い秋穂ちゃんと一緒に居たいだって!」


「ぷえっ!?」

 ニヤッとした表情でそう言って、パチンとウインク。

 まあいいですけど、誇張しすぎです店員さん。


「アハハ、そう言う事だよ、秋穂ちゃん。それじゃあ帰ろ、アイス溶けちゃうし。ありがとうございました、店員さん」


「あうっ、悠真君……あうぅ……あ、ありがと、です……うゆっ」


「ふふっ、ありがとうございましたー……ふふっ、頑張れ、秋穂ちゃん」

 何だかずっとニヤニヤしてる店員さんにお礼を言って、アイスが溶けそうなくらいに温かい秋穂ちゃんの手を取りながら店を後にする。



「……あ、あのゆ、悠真君。そ、その……私って、可愛い? 私、その……そんなに、可愛い?」

 アイスのお店を出てしばらく、ずっと黙っていた秋穂ちゃんがおそるおそるという感じで口を開く。


「うん、可愛いと思うよ。クラスの男の子とかにモテモテでしょ?」

 実際にすごく可愛いし、6~7年もして年齢が一緒くらいになったら藤井さんくらいの美少女になりそうだし。

 絶対クラスの男の子にモテモテだと思うな、秋穂ちゃん。


「ううん、全然モテない……私なんて全然、モテないよ……他の子ばっかりだよ。悠真君くらいだよ、私なんかにそんな事言ってくれる人」


「えー、そうなんだ。もったいないね、秋穂ちゃん可愛いのに。僕が同級生だったら放っておかないと思うよ」

 秋穂ちゃんが喜びそうなおべんちゃらというか、そう言う気持ちがほとんどだけど。

 でも秋穂ちゃん顔が藤井さんに似てるし、マジで秋穂ちゃんが同級生だったら好きになってる気もする。実際藤井さんの事大好きなわけだし。


 そんな僕の答えを聞いた秋穂ちゃんはギュッと僕の手を強く握りながら、

「年齢なんて、もう関係ないよ……ね、ねえ、悠真君! そ、その……ゆ、悠真君は小さい子は好き、ですか!? 小さい子でも、好きになってくれますか!?」


「ん? どうしたの秋穂ちゃん? まあ、好きだよ、小さい子。好きじゃなかったら秋穂ちゃんの事、助けられてなかったと思うし」

 実際僕が子供好きじゃなくて秋穂ちゃんの事見てなかったら反応出来てなかったと思うし。だからまあ、子供は好きです。将来は先生になりたいです。


「あうぅぅ……そんな、情熱的に……わ、私も、悠真君が……よ、よろしくお願いします……お願い、します」


「うん? ちょっとさっきからよくわかんないけど……ま、任せれた? よろしく、秋穂ちゃん!」


「……えへへ、よろしく、悠真君。うへへ、初めて……えへへ悠真君♪ 悠真君!」


「ふふっ、どうしたの秋穂ちゃん? 歩きにくいよ、それにそんな引っ付かれたら僕が困る、今後に響く」


「うへへ、大丈夫だよ悠真君! 大丈夫、大丈夫……えへへ、このままお家帰るよ、悠真君!」


「もー……まぁいいか」

 秋穂ちゃんが嬉しいならそれでいいや、子供さんの幸せが一番嬉しいから。


「にへへ、悠真君……悠真君」

 そう思いながらふにゃふにゃな笑顔で腕を取り、身体を預けてくる秋穂ちゃんと一緒に見知らぬお家へ歩いて行った。



 ★★★

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