メンタルコーチな彼女 ー 彼女と、僕と、サッカー部

Lily-ゆりっぺ

第1節 プロローグ

厚いコートや手袋をまとった人々が真新しいスタジアムの客席を埋めていく。吹奏楽部が賑やかにマーチやサンバを奏で、チアが舞う。光を浴びた芝生がキラキラと輝き、青く匂い立つ。太陽が眩しいくらいだというのに、風はまだ冷たい。寒さとは裏腹に、否が応にも心は熱く、最高潮になる。


ひんやりとしたロッカールーム。

隼高はやこう!」「オー!!」「昨日の自分を」「超えろ!」「優勝するのは?」「俺たちだ!!」

ガッチリ組まれた円陣から雄叫びが上がった。


「よし!」「行くぞ!!」「頼んだぜ!」「うぉー、ブルッときたぁ!」「おいおい、アップ足りてねぇんじゃねぇの?」

ドッと笑い声が上がった。

大事な試合前だというのに、緊張感とかそういうの、こいつらにはねぇのかよ、しょうは苦笑しながらみんなに背を向ける。

ユニフォーム姿の選手達が口々に騒ぎながらカツカツとスパイクの足音を立てて出て行き、ロッカールームに一人残された翔は、ロッカーに置かれた一冊のノートに目を止める。


ここまで来れた。でも、これがゴールじゃない。


翔はペコリと90度に頭を下げ、「行ってくる」とつぶやくと、

ゆっくりとロッカールームの扉を閉めた。


静けさに包まれるロッカールーム。

シューズ入れの上に置かれた青いノート。

これは、このノートに書かれた選手たちの一年間の記録である。

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