窮蛇、大蛇を噛む

 相変わらず椅子に縛り付けられていたタンユであるが、「ここで漏らすぞ!」と騒いだところ、手錠付きだが無事にトイレには行かせてもらえるようになった。


「おい! 便所!」

 見張りに声をかけると、見張りは「またかよ」とウンザリしながら、タンユの身体に巻き付けていたガムテープに切り込みを入れた。

 その時、ちょうど交代の見張りが入ってきたので、見張りの意識が一瞬入口の方へ向いた。


 ゴンッ


 見張りの鼻っ柱に頭突きを食らわせる。見張りが怯んだところで、手錠でつながれた自分の腕の中に、相手の頭をくぐらせるとそのまま腕を十の字にして首を絞め上げる。ジタバタと振りほどこうとしているが、タンユの腕力に敵わないようだ。

「おい。このままコイツの首へし折られたくなかったら、ガムテープ全部取りやがれ!」

 交代要員の方にそう命令する。

「10、9、8…」

 まごついているので、カウントダウンを始めて腕に力を籠めると、慌てて交代要員はタンユのガムテープを外した。

 そして、足のガムテープを外した瞬間に交代要員は、タンユに頭を蹴り上げられて気絶し、見張りもそのまま首を絞め落とされた。

 見張りのポケットから手錠の鍵をとって外す。どうここから逃げ出すか思案していると、騒ぎを聞きつけた他の団員達が駆けつけてくる足音が複数聞こえてきた。


 武器を持ってると厄介だなと思いながら、タンユは身構えて待っていたが、いくら待っても彼らは入ってこなかった。

 そして、廊下から流れるうめき声をBGM代わりに、扉から顔を出したのは思いがけない人物だった。


「あれ? タンユさん、わりともう一人で脱出できそうだった感じっすか?」


「リカルド!」


 普段なら見るたびにイラっとする男前のアホな笑顔を見て、タンユもさすがにこの時ばかりは安堵の尻もちをついた。

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