男女七歳ニシテ、席ヲ同ジウセズ

 歌にダンスと楽しいフランのショーが終わり、口笛や拍手、歓声が酒場を包んだ。観客に笑顔で手を振りながら、フランがステージから裏へはけていった。


 店内が明るくなると、再びガヤガヤと客たちの会話に追加注文や勘定を求める声などが響き渡る。ルシオは他の店員たちと一緒に忙しく店内を動き回る。


 タンユは勝手にカウンターに入ると自分用の飲み物をセルフで作り始めた。

「お前もまだ飲む?」

 ステージの方を向いていたリカルドはぐるりと椅子を回すと、カウンターの方へ向き直った。

「フランと一緒に帰る約束してるんで、そろそろソフトドリンク飲みたいです」

「ん。オレンジジュースでいいか?」

「あざす」

 タンユからリカルドは、オレンジジュースの入ったグラスを手渡された。

「つーか、お前このままフランの家に住み着くつもりなのか?」

 へへ、と憎めない笑顔を浮かべるリカルド。諸々の関係を強制清算させた三日前からリカルドはフランの家に転がり込んでいた。

「いやだって俺、家ないですし。フランち広いし。職場は隣だし」

 堂々と「家がない」とのたまう彼が今までどこに寝泊まりしていたのかは突っ込んではいけない。

「俺んちを『職場』いうな。まぁ確かに事務所構えてないから、俺んちが事務所みたいなもんだが」


 タンユとフラン、ルシオが住んでいるアパートは、元々は冒険者ギルド協会が建物を一棟ごと家族向けに借り上げていた公営住宅であり、それぞれ親と一緒に住んでいた物件なので2LDKの間取りがある。三人とも親が亡くなったあとも協会のゴンさんの計らいで、そのまま住まわせてもらっていたのだ。

 五年ほど前に協会の一括借り上げ期間は終了したが、今度は建物の所有者が老築化を理由に格安で譲ってくれることになり、その時フランはまだ未成年だったのでタンユが二軒分の三十五年ローンを背負って買い取った。


 楽屋から店内へ舞台用の化粧を落として着替えたフランが出てくると、店内からの客の歓声などお構いなしに一目散にリカルドの方へ駆け寄ってきた。

「リカ君だぁ! 今日はお仕事どうだった?」

 リカルドは椅子を回すと、フランの方を向いて股を開いて慣れた手つきでフランの腰を引き寄せる。

「めっちゃ走ったぁ。みんなタンユさん見るとダッシュで逃げちゃうからさぁ」

 ヨシヨシと、リカルドの頭を撫でるフランを見ながら、タンユはウンザリした顔でカウンターの中でウイスキーのロックを舐める。ただ、身体能力が段違いで高いリカルドは難なく債務者たちに追いついてくれたので、いつも中年の身体に鞭を打って追いかけっこをさせられていたタンユが非常に助かったのは事実だったので文句は言えない。


 ルシオがカウンターに戻ってきた。勝手にカウンターに入り込んで酒を飲んでるタンユを一瞥し溜め息をひとつ吐いたが咎めはしなかった。

「フランお疲れ様。何か飲む?」

「この前、試作で飲んだやつ美味しかったから、アレがいい」

 フランはリカルドの腕の中で体の向きを変えると、そのままリカルドに背中を預けて彼の股の間に腰かけた。リカルドも特に気にする様子もなく、彼女を背中から抱き抱えるようにしてフランの肩に顎を乗っけた。

 他にも席は空いてるだろうが、と思っていることを口に出さなくても顔に書いてあるタンユが面白すぎて、ルシオは肩を震わせて笑いをこらえる。


「そろそろフランもお兄ちゃん離れしそうね」

 まだまだ妹離れできなさそうなお兄ちゃん1に向かって、お兄ちゃん2が声をかける。

「うっせ。……そういやさ、お前んち、前に防音施工しただろ? その業者教えてくれ」

「ああ、あれシンちゃんのところよ。特殊防音の加工魔術を新開発したからって、トライアルで安くやってくれたのよ。でも急にどうしたの」

「あいつら、マジで煩いんだよ。三日目にしてもう寝不足で本当にヤバい……毎日今後もアレが続くのかと思うとノイローゼになる……」

 ルシオの耳元で内緒話するように、タンユがそう告げると、ルシオはもう我慢できなかったようで声を出して笑いだした。


 カランカラン


 扉の鐘がなると、揃いの紺色の半袖シャツに厳つい体型の男たちが入店してくる。胸元の六芒星のワッペンには「SHERIFF保安官」とあり、仕事終わりのビショップ保安官と部下達のグループだった。

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