Proiettile

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あれ、ここは───?




目が覚めたら、暗く汚い路地裏にいた。



何となく辺りを見回す。

汚い。汚い。汚い。あ、ネズミ───



「...ここ、どこ...なの...?」



全くもって意味がわからない。

どうして自分はこんなところにいるのだろうか。



必死で記憶を辿ってみることにする。



最後の記憶は確か、

小学校に上がった記念に買ってもらったお気に入りのサッカーボールが道路に転がってっちゃって...

それを追いかけて、それで──


「あぶないっ!」


そうだ、トラックがきてることに気付いてギリギリで立ち止まろうとした時に、後ろからそんな声が聞こえてきて、押されたんだ。



それでトラックに──



「うっ...おぇぇ....」


フラッシュバックと共に強い吐き気を催してその場に吐瀉物を撒き散らす。


トラックの前輪に巻き込まれ、

ぐちゃぐちゃになっていった感覚を確かに覚えている。



「はぁっ、はぁっ。...えっ...?」



ふとある事に気付いて、自分の体を見回す。


右手を見てみる。...何ともない。無傷だ。


左手も見てみる。...無傷。


...最後に全体を見回す。...やっぱり無傷。



...おかしい。確かに死んだはずだ。

例え何かの奇跡で生き残ったとしても、

完全に無傷なんて絶対にあり得ない。

じゃああれは夢だったのか?と思っても、

だとしたらこんな場所にいる意味がわからないし、

この記憶と感触はとてもじゃないけど夢とは思えない。

本当に、まるで意味がわからない。

遅ればせながら涙が出てくる。




「う、うぇ...うぇぇん。どこ..ここどこぉ..お母さぁん....」



泣きながらふらふらと歩き出した。

明かりに誘われて路地裏を出る。





途端に強い衝撃に襲われた。






「っっっ...。...え?」



痛い。死ぬほど痛い。なにが───



「迷子かぁ?坊ちゃん」



子供がいた。いや、子供達がいた。

背丈的に、僕と同じ年くらいだろうか?

だけど男の子なのか、女の子なのか、それすら判断がつかない。


それほどまでにこの子供達は──



汚い。



謎の激痛に苛まれながらもそんな第一印象が出てきてしまうくらいに、とにかく汚い、見窄らしい子供達だった。



次いで第二印象──



血塗れの鉄パイプを持っていた。



血?衝撃?...痛み?



ツー...と何かが垂れてきて目に入ってきた。




僕の血だった。




「イィッ..グッ..ギッ...ギャァァァァァッッッッァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッ─」



殴られた事を自覚した瞬間、

更なる激痛に襲われる。

痛い。次いで、熱い。

叫んだ。

最早言葉にもならない。

意味がわからない。

頭が回らない。

なんで?どうして?なにが?





「おいおい、坊ちゃん根性がねえなぁ...

ほら、もう一発喰らいたくなかったらその綺麗な服全部脱げよ。てか持ってるもん全部寄越せ。早くしろ」



痛い。痛い。

何か言ってる?僕に言ってるのか?何も分からない。

転げ回る。痛い。涙が更に溢れ出る。鼻水でベタベタになるがそれどころじゃない。

砂利。痛い。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い




意味がわからない。何故か全身が痛い。

僕はこの子に頭を殴られたの?なんで?



「うわぁ...。ねえ、ケイジ、当たりどころが悪かったんじゃない?ちょっといい加減うざいしうるさいし、話なんかできないって。これ以上転げ回れて汚されても困るし、さっさと殺しちゃおうよ」



声から察するに多分女の子。

だけど女の子の声から発せられるには

まるで不似合いな物騒な言葉が耳に届いた。



なんで...なんで...なんで...?

殺す?誰を?誰が?君達が?僕を?どうして?


轢かれて死んだと思ったら何故か生きてて、

なのに今度は殴られて死ぬの?なんで?

僕がいい子じゃなかったから?

お母さんの言うことを聞かなかったから?

たったそれくらいで?

嫌だよ。僕謝るから。いい子にするから。

許してよ。助けて...誰か、誰か─



「あぁー...。そうだな、ミーシャ。

確かに、うるせえし汚ねぇ....

これ以上服を汚されたら売れなくなっちまうもんなぁ...。この身なりじゃ俺らのお仲間じゃないだろうし別にいいか」



───よし、殺すか!



そんなようなことを言っていた気がする。




今となっては分からない。

だって、そこで僕の意識は途絶えたから。




────────────────────




主人公はこの回では6歳です。

6歳なのに一人称視点での語りがやけに大人っぽいですが、そこは読み易さ重視なので目を瞑ってくださると助かります。最初は子供らしい一人称語りで少し書いていたんですけど、私の文章力だと見るに耐えなかったのでこの方針にしました。

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