第51話

10分程度後になり、雪菜の呼吸音が深くなり始めた。

どうやら寝そうになっているようで、夜斗は雪菜を湯船から出るように伝え、少し逆上せたらしい雪菜を立たせて洗い場の椅子に座らせる

保湿用の化粧液のようなものを雪菜の体にくまなく塗り、脱衣所にてタオルで水気をとる

擦らず軽く叩くようにして、ただ水分をとるだけだ



「部屋までいくが…階段登れるのか」


「はい、なんとか」


「じゃあいくか」



夜斗はゆっくりと、また体を支えながら階段を登っていく

そして雪菜の部屋に入りベッドに座らせた

服を着るのも難しいなほど眠そうなため、着せてやることにしてタンスの前でふと訊ねる



「寝るとき下着つけるのか?」


「一応…。タンスの一番下にナイトブラが入ってます…」


「これか。両手を上げろー」



着せ方は分からないが、この見た目でフックがついてることもないだろう

ということで上から被せることで事なきを得た

下も履かせて、キャミソールをまた上から被せるように着させた

ドレッサーのコンセントに刺さっていたドライヤーをベッドのコンセントに繋いで起動する



「髪乾かすから少し熱いぞ」


「はい…」



どうやらもう眠気の限界のようだ

応答がかなりあやふやで、普段の快活さは微塵も感じられない



「痒くねぇか?」


「大丈夫れす」


「そうか」



呂律が回らなくなってきている

髪が全て乾くまでにおよそ10分。雪菜はフラフラとしながら夜斗に目を向けていた



「しっかり寝とけ」


「はい。…あの」


「おん?」


「近くにいて、くれませんか…?いつもは、霊くんがいるので…」


「…ああ、構わん」



夜斗は雪菜が横になったベッドに腰を下ろした

スマホをやると起こしかねないため、メガネ型デバイスで電子書籍を読む

右手で操作端末を動かし、目で追う

多少光が漏れるが、スマホを使うよりはマシなはずだ



「先輩…ありがとうございました」


「ああ。本当に昔から我儘だな」


「すみません…」


「だがそこがいいところでもある。紗奈は我儘をあまり言わないからな、新鮮な感覚だ。今も昔も、我儘な妹は憧れであったことだし」


「ふふ…ありがとうございます」



雪菜は夜斗の左手を握り、目を閉じた

あえて振り払うことはしない。面倒だからというのもあるが、普段適当にあしらってることへのせめてもの詫びだ



「ゆっくり寝ろ。我が妹よ」


「おやすみ、なさい…お兄ちゃん」


「おやすみ」



眠りにつくまでそう時間はかからなかった

しかし夜斗はしばらく雪菜の手を握り、電子書籍を読むのをやめなかった



(…ふむ。雪菜が妹というのも悪くないな)



電子書籍を閉じ、力が抜けた雪菜の手をゆっくり引き離して立ち上がる

操作端末をポケットにねじ込み、部屋から出てため息をついた



「そこにいたなら声をかけてくれよ、霊斗」


「まぁ、兄妹水入らずに踏み込むほど野暮じゃねぇさ」


「寝たんじゃなかったか?」


「ちっとばかし目が冴えてな。一服付き合えよ」


「いいぜ。ベランダ行くか」


「玄関に行こう。弥生さんが来たときに応答できなくなるしな」


「…そうだな。なんか羽織っていけ、風邪引くぞ」


「本当に面倒見がいいこった。コートでも着てくかな」



一度部屋に入りすぐ出てきた霊斗と共に階段を降りる

玄関を開けると冬の寒さが肌を刺した

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