第16話

「という感じだ」


「私への嫌みかっ!」


「お前が話せって言ったんだろ!?」



喫茶店でコーヒーを飲みながら、プロポーズの日の話をする夜斗

相手は天音だ。その話を要求したのも当然天音

プロポーズからは約一週間が経過し、夜斗と弥生はそれぞれの職場に報告を入れ散々いじられたあとでもある



「納得いかないなぁ…。あの夜斗が私より先に結婚とか…」


「さらっと失礼だなお前…。つか冥賀とのデートはどうした」


「聞いてないの?付き合ってるよ、昨日から」


「知らんし興味もない。今のは社交辞令的な質問だ」


「酷いのはどっちさ!」


「あいつあれでいて独占欲強いから気ぃつけろよ。今日なんて言ってきたんだ?」


「夜斗と喫茶店行くって言ってあるよ。夜斗ならいいやみたいな感じだったし」



どうやら無事スタートラインにたてたらしい天音と、ある意味ゴールインを果たした夜斗

対象的だが幸せの絶頂にいることだけは共通している



「つーかもしかしてだからあそこに冥賀いるのか(小声)」


「多分ね。カウンターには弥生ちゃんいるよね?(小声)」


「いつから尾けられてたのかわかんねぇけどな。つか店までは教えてねぇぞ俺(小声)」


「私もだよ。これはもう、そろそろ逆プロポーズかなぁ(小声)」


「気が早えんだよ微少女が!」


「なにさ!いまもはや字幕のように文字が見えたよ!どこが微妙なの!?」


「弥生のお淑やかさを見習え!ったく…」



ビクッと反応した弥生の姿を目の端に捉えたが、あえて言及しない

視線を向けると全力で顔を隠しているのが見える



「かわいい…」


「それはそうだけど…。というか私惚気けられにここにきたの?泣くよ?」


「いいだろ彼氏できたんだから許せよ。多少惚気けてもバチはあたんねぇよ」


「当ててあげようか!?夜斗の場合一回の惚気で2時間かかるんだよね!おかげで喫茶店で飲み物しか頼んでないのにもう2000円!しかも私だけで!」


「出すから許せ」


「もう2時間くらい聞いてあげよっか!」


「現金すぎるだろ…」


「珍し…くもない組み合わせですね、先輩方」



夜斗と天音に声をかけてきたのは雪菜だ

どうやらたまたま入店し、声で夜斗と天音だと気づいたらしい



「ああ…あれ?霊斗いねぇのか?」


「霊くんなら教習所です。暇潰しに紗奈さんとここでお茶しようと…ちょうど来たみたいですね」


「お待たせいたしました!あれ、お兄様と独身貴族様」


「誰が独身貴族か!」


「紗奈…。あれ煉河は?」


「煉河はあそこで私たちを見てます」



ビクッと震えるハットを被った男が、新聞で顔を隠した



「新聞上下逆じゃね?」


「そこが可愛いところなんですよお兄様。普段読まないので慣れが足りませんね」


「評論家か?まぁいい、冥賀と弥生もこっちこいよ。ちーとばかし飲み会…ではないが、語らうのもよかろう」



名前を呼ばれて隠せてないことに気づいたのか、2人はようやく近づいてきた

さも当然のように夜斗の隣に陣取る弥生と、同じく天音の隣を陣取る冥賀

紗奈の視線に耐えかねて歩み寄ってきた煉河は紗奈の正面だ



「煉河…」


「仕方ないだろう。机を寄せても7人が限度なのだから」


「…雪菜、煉河と代わってやってくれ」


「はい。どうぞ」



紗奈の隣りに座っていた雪菜が席をあけると音速と見紛うような早さで紗奈の隣に座った

雪菜は全員を見渡せるような位置に座り直す



「こうも新婚が集まると中々面白いな。いや1名新婚じゃないが」


「私はつまり結婚生活における先輩ですから」


「奥手すぎて霊斗に求めることすらできねぇくせに(ボソッ)」


「聴こえてますよ先輩。やはり誘ってほしいじゃないですか」


「わかる。私は私から言うことはないはず。基本夜斗からきてほしい」


「私もそうですね〜。一回だけ言いましたけど、それからは煉河から来ます」


「僕らはそこまでいっていません。というか新婚扱いしないでください、まだそこまでではありませんよ」


「ってことは予定ありか?」


「…ノーコメントで」



和気あいあいと会話を楽しむ7人

夜斗からの連絡に応え、あとから合流してきた霊斗が呆気にとられる中も進む新婚談義は留まることを知らない

喫茶店のマスターが店の外に出て、営業中表示を貸切に切り替えたことさえ、夜斗以外は気づかなかった

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