第7話 想いを込めろ!


「……うう」


「た、頼む! 仲間が魔物にやられたんだ! ポーションを分けてくれ!」


 冒険者の格好をした女性がひとりの男性を背負っていた。背負っていた男性を地面に降ろすと、その男性のお腹からは大量の血が溢れて出てきた。


「この傷は……」


「……気の毒だが諦めるんだな。この傷はもう助からねえ」


「ふざけるな、まだ助かる! 頼む、もう俺達のポーションは使い切っちまったんだ! 金は払う、ポーションを分けてくれ!」


「……ほらよ」


「すまねえ、恩にきる! ほら、メナス、ポーションだ!」


 女性は別の冒険者から瓶に入った緑色のポーションと呼ばれていた液体を受け取り、男性のお腹にかけていく。


 しかし、この怪我をした男性の顔色は一向に真っ青なままだ。それどころか呼吸もどんどん弱くなっていき、顔色も更に青白くなっていく。


「ちくしょう、なんでだよ! なんで治らねえんだ! 頼む、死ぬなよ……死なないでくれ!」


 これがこの世界の冒険者……


 ボロボロになった防具、溢れてでくる血液、ゆっくりと死へと近付いていき、青白くなっていく人の顔色、そしてそれをなんとか助けようと泣き叫ぶ仲間の表情。


 正直に言って、俺はまだ別の世界に来たという感覚があまりなかった。スライムというモンスターと遭遇し、女盗賊達に襲われたにもかかわらずだ。


 だけど今ここにきてハッキリと理解できた。消えつつある命、泣き叫びながら今もポーションを仲間にかけて、最後まで決して諦めずにその命を助けようとする者。これが今この世界の現実なんだ。


「一体なんの騒ぎだい? おっと、怪我人か! とりあえずそいつをこっちの部屋に……」


 気付けば俺は怪我人の元に走り出していた。


「ソーマちょっと待つんだ!」


「おい、誰だお前!」


「どいて!」


 人体の細かい構造なんて普通の高校生の俺には分からない。元の正常な状態だってこんな血の海で穴が空いたお腹からは想像できない。ならありったけの想いを込めろ!


 この人を治したい、救いたい、助けたい! できるだろ、ここでできなくて何のための聖男せいだんだ!


 治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ!


「ヒール!」


 両手を傷口に向け俺が魔法を唱えると、先程ターリアさんの親指を治療した時とは比べられないほどに傷口が光り輝き、メナスさんのお腹の傷がみるみるうちに塞がっていった。


「うう……あれ、僕はどうして? 確か魔物に襲われて……」


「メ、メナス! よかった、生きてる、生きているぞ! すげえ傷が塞がっている!」


「「「おおおおおお!!」」」


 よかった。どうやら俺の回復魔法は無事にメナスさんの身体の傷を治せたようだ。致命傷と思われていた傷でも一瞬にして治療された。これが聖男せいだんによる回復魔法の力か。


「おい、誰だあの可愛い男は?」


「あいつ、今回復魔法を使っていなかったか!?」


「ま、まさか、治療士なんじゃねえのか!」


「さっきの黒髪の美人さんが、まさか!?」

 

 あ、やべ! ついさっきギルドマスターに男巫おとこみこであることはできる限りバレないようにしろと言われたばかりだった! ギルドマスターもやっちゃったな的な顔をしている!


「あ、ありがとう! あなたのおかげでメナスが助かった、本当にありがとうございます!」


「治療士様、本当にありがとうございます!」


 ……なんかもういろいろ手遅れのような気がする。でもまあこの人を助けることができたし、よしとしよう。


「いえ、怪我が治って本当によかったです。ですが、まだ完治したのかわかりません。しばらくは絶対に安静にしていてください。それと具合が悪くなったらすぐに誰かに診せてくださいね」


「はい! 治療士様の仰せの通りに!」


「……あの、そんなにかしこまらないで大丈夫ですよ。あなたのほうが歳上なんですし」


「なんと慈悲深いお言葉! それで……あの……命をお救いいただきましたのに、申し訳ありませんがお金がございません! ここに僕の全財産の金貨20枚がございます! 足りない分は後ほど必ずお支払いします。どうか今はこれで許してください!」


 ……いやアホか! 絶対に安静にしろって言ってるのに全財産支払ってどうするんだよ!


 しかしまずいな。まだ治療費用の相場を聞いていなかった。これくらいの怪我を治した場合の治療費はどれくらいが相場なのかまったくわからない。いいや、とりあえず怪我が本当に治っているかも分からないんだし、少しだけ受け取って残りは後払いにしてもらおう。


「このお金を受け取ってしまえば、あなたは安静に怪我を治すことができないじゃないですか。それでは金貨5枚だけ受け取って、あとはあなたの怪我が治ってからゆっくり返してくれれば大丈夫ですから」


「……へっ!? ほ、本当にそれでよろしいのですか?」


「ええ、まずは怪我を治すことに専念してください」


「あ、ありがとうございます! この御恩一生忘れません!」


 ……いや、さすがに一生は重いから。


「「「うおおおおおおおおおお!!」」」


 な、なんだ!?


男神おがみだ! 男神おがみ様が現れた!!」


「すげえ、治療士なのになんて優しい男性なんだ!」


「天使だ! 黒髪の天使にちげえねえ!」


「美しく可愛くて慈悲深い! 婿にしてえ!」


 本当に大丈夫なのか、この世界は……


 あと男の俺を男神おがみとか黒髪の天使と呼ぶのはSAN値がヤバいから、マジでやめてくれ……




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