第5話 適正職業


「はい、これで依頼は達成となります。蒼き久遠の皆さま、お疲れ様でした」


 先程のアルベルさんとの騒動のあと、エルミー達が冒険者ギルドの受付に並び、無事に依頼を達成したことを伝えた。まだチラチラとこちらを見てくる女性もいる。そんなに変なことを言った覚えはないんだけどな。


 ……ちなみに冒険者ギルドの受付は大半が美形の男だった。ギルドの看板娘ならぬ看板息子か、なんかこれじゃない感がすごい。


「盗賊の捕縛とそちらの男性の今後についてはギルドマスターに直接ご報告をお願いします」


「ああ、ありがとう。」




 そのまま冒険者ギルドの奥の部屋まで案内された。元の世界の校長室みたいな感じで、すごく高価そうな物が置いてある。魔物のような剥製もあるもんな。


「なるほど、話はわかった。その盗賊達は最近その辺りを根城にしていた荒野のからすだな。すでに被害も出ていたようだ。よくやってくれた」


 この街の冒険者ギルドマスターは白髪のお婆ちゃんだった。しかしただのお婆ちゃんではない。その鍛え上げられた肉体はまるで元の世界の女性ボディービルダーのようであった。その腕やお腹の筋肉は男である俺でも憧れてしまうような肉体だ。


「問題はこっちのお兄さんだな。改めまして、この冒険者ギルドマスターのターリアだ」


「はじめまして、ソーマと申します」


「ふ〜む、ニホンという国はワシも聞いたことがない。どうしたもんかね……」


 そうだよなあ……たぶんもう日本に帰ることはできないのだろう。異世界に勇者召喚されたとかならともかく、たぶん元の世界の俺はトラックに轢かれてもう死んでしまっている。それに元の世界に帰れたとしても時間軸の問題とかもある。


「あの、この街に住まわせてもらうことは可能でしょうか? 働きながら情報を集めようと思います」


「そうだね、ワシもそれがいいと思う。安心しな、あんたみたいな可愛い男ならいくらでもいい仕事が見つかると思うよ」


 ……どうやら俺はこの世界では可愛い顔立ちをしておるらしい。こちらの世界の女性は男らしい顔つきではなく、俺みたいな線が細く弱々しい顔が可愛いと言われるようだ。さっきのギルドの受付も線の細い感じのイケメンだったしな。


「こうしてあったのも何かの縁だ。何かあったら遠慮なく私達も頼ってくれ」


「おう、もしもニホンとかいう国の情報を聞いたら真っ先に教えてやるよ!」


「エルミー、フェリス本当にありがとう!」


 こんな訳の分からない世界にいきなりやってきたけど、彼女達のパーティに出会えたことは本当に幸運だったな。


「それじゃあ早速ソーマの通行証を発行してあげるとしよう。それと当面の生活費くらいは貸してやらないとな。男でも安心して泊まれる宿を紹介してあげるから、みんなで案内してあげるといい」


「ああ、任せてくれ」


 ……そうか、こっちの世界では安宿だと男のほうが危ないんだな。それに見ず知らずの俺にお金も貸してもらえるとは本当にありがたい。本当に俺のことを心配してくれているみたいだ。


「ええ〜と、名前はソーマ、出身はニホン、あとはソーマのジョブはなんだい?」


「ジョブってなんですか?」


「なんだ、まだジョブを鑑定してなかったのか。ジョブは一人一人が持っているその人の才能だ。基本的には自由だが、このジョブに関連した仕事をするほうが大抵はうまく仕事ができる。普通は8歳を超えたくらいの歳で一度は鑑定しているものだよ」


 なるほど、よくゲームや異世界ものでみる職業ジョブということか。


「ちょうどここでも鑑定できるから試してみるかい?」


「はい、お願いします」


 はたして別の世界から来た俺にもそのジョブというものはあるのだろうか。あるいは異世界ものでよくある勇者とかのチートがもらえないかな。この世界はなにかと男にとって物騒な世界らしいし、ひとりで生き抜いていけるような力がほしい。


 ギルドマスターが透明で丸い30cmくらいの水晶を机の上に置く。


「この水晶の上に両手を添えるとその人の適正ジョブが浮かび上がってくる。あと見えたジョブは言いたくなければ言わなくてもいいからな」


「えっ、言わなくてもいいんですか?」


「ああ、人によっては言いたくないようなジョブもあるからね。それにたとえ悪いジョブであったり、気に入らないジョブだったからといって、ジョブに縛られて仕事を探す必要はないもんさ」


 なるほど、もしかしたら盗賊とか詐欺師とか悪いジョブとかあったりするのかもしれない。


「浮かんだ文字は他の者には見えない。まあ軽い気持ちで試してみるといい」


「わかりました。やってみます」


 両手を水晶にかざしてみる。すると両手が少し温かく感じて薄らと水晶が光り始めた。おお、これが魔法の感覚なのか!



『適正職業:聖男せいだん


『治療士の上級職である男巫おとこみこの最上級職。回復魔法、聖魔法に非常に長けた職業』



「………………」



 ……聖男せいだんってなんやねん!


 思わず心の中なのに関西弁でツッコんでしまった。……いや、言いたいことは分かるよ、聖女の男バージョンってことだろ?

 

 それに男巫おとこみこってあれか、巫女さんの男バージョンってことなのか。ってか、漢字が難しいわ! ちゃんとルビ振ってくれないと読み方すらわかんねえよ! 駄目だ、ツッコミが追いつかない。


「……ソーマ、言いたくなければ無理に言う必要はないのだぞ」


 あ、みんなが心配そうに俺を見てくれている。少なくとも悪いジョブではなさそうだ。だが、まだ何も分かっていないこの世界で、聖女みたいな重大そうなジョブであることを伝えても大丈夫なのだろうか?


 いや、他の異世界ものみたいに聖女として祭り上げられたり、魔王を倒してこいなんて言われても非常に困る。魔王がいるのかどうかも知らんけど。


 ……よし、ここはひとつ下の上級職である男巫おとこみこということにしておこう!


「ああ、大丈夫だよ。俺のジョブは男巫おとこみこだって。治療士の上級職って書いてある」


「「「なんだって!?」」」


 ……あれ、これでも駄目なの?

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