第2話 女盗賊の狙いは…
「それでは改めまして、助けていただいて本当にありがとうございました」
「いや、君が無事で何よりだよ」
先程の金髪ポニーテールの女性がニコッと笑う。女性なのにものすごく格好良く見えるのだが、素肌に金属製の胸当てという姿がものすごくエロくて、どうしてもそちらの方に目線が行ってしまう……いかん、また男の筋肉のことを考えよう。
「まさかこんな場所に男がひとりでいるとは思わなかったぜ! 無事で何よりだな」
赤いショートカットの髪で額にバンダナを巻いている大柄な女性。彼女は先程大きな盾で俺を守ってくれていた女性だ。……下は普通なのだが、上半身がサラシのような布を巻いているだけなので、その大きな胸が強調されていてかなりエロい。
「……無事でよかった」
そして最後のひとりは小柄な女の子で白いローブを身に纏って長い木の杖を持っている。もしかしたら魔法使いだったりするのだろうか。
しかしこの子も普通の女の子ではない。金髪碧眼の外国人と思える容姿はまだいい。しかし彼女の耳は
……やっぱりここは異世界なんだろうなあ。
「それで君はどうして男ひとりでこんな場所にいるんだ? この辺りには村もないし、スライムを相手に苦戦していたところを見ると冒険者ではないのだろう?」
「はい、実は俺にもよく分からないんです。ふと気付いたら、いきなり全然知らない場所にいました。それに記憶も少し曖昧で……」
とりあえず嘘は言っていない。ここは本当に元いた世界とは別の世界かもしれないが、いきなりそんなことを言っても信じてもらえるわけがないから、その辺りは伏せておこう。
「それじゃあここがどこかも分からないのか? どこから来たのかはわかるか?」
「ええ、ここがどこかまったく分かりません。俺は日本という国から来ました」
「ニホン……聞いたことがない国だな」
「少なくともこの辺りにそんな国はねえよな」
「……もしかしたら魔力の暴走による突発性の転移事故かもしれない。本当に低い確率だけど、魔力の濃いスポットが暴走し、そこにいた人を強制的に転移させる現象が起きたことがあるらしい。少なくとも彼は嘘を言っていない」
はい魔力に転移までいただきました。どうやらこの世界には魔法があるらしい。そして彼女には俺が嘘をついていないことがわかるようだ。これも魔法の力なのだろうか?
「マジかよ。そりゃあ災難だったな。それでこの辺りじゃ見かけない綺麗な黒い髪をしているんだな」
いや、別に綺麗ってわけでもないけどな。
「……大変だったのだな。私達はここから近くにあるアニックの街を拠点にしている冒険者なのだが、よかったらその街まで一緒に来ないか?」
「いいんですか! ありがとうございます、ぜひご一緒させてください!」
「ああ、もちろんだ」
「そういえば自己紹介が遅れたな。私はエルミーという」
4人で近くにあるという街へ向かう。どうやら俺がやってきた道を反対に進めば街に着いたらしい。2択を外してしまったようだが、そのおかげでエルミーさん達と出会えたので、かえってよかったかもしれない。
「俺は
よくある異世界ものじゃ苗字は貴族しか持たないんだったよな。
「ソーマか、俺はフェリスだ」
「……ソーマはオレっ子、珍しい。私はフロラ、よろしく」
……いやオレっ子ってなんだよ。ボクっ娘じゃあるまいし。
「エルミーさんにフェリスさんにフロラさんですね。よろしくお願いします」
「さんはいらねえよ。よろしくな、ソーマ!」
出会ってすぐに呼び捨てはちょっと恥ずかしいけれど、この世界の文化なのかもしれないな。女性を呼び捨ては少し恥ずかしいけど、できるだけ合わせるとしよう。
「わかった。よろしくね、フェリス」
「お、おう!」
ん? なぜか少し顔を赤くして照れているフェリス。自分でさんはいらないと言ったのにな。
「でもソーマは運がいい。あの辺りの森にはスライムの他にもゴブリンやオークもいる。襲われた相手が服を溶かすだけのスライムでまだよかった」
おう、それはよかった。ゴブリンやオークみたいなゲームではたいしたことない敵であっても、戦闘力が皆無の俺が出会っていたら間違いなく殺されていただろう。
そういえば異世界ものだとよくチート能力みたいなのがもらえるけど俺にはないのかな。さっきこっそりと小声でステータスオープンと唱えてみたが何も起こらなかった。
「そうだな、もしも私達よりも先にゴブリンやオーク達に出会っていたら大変なことになっていただろう」
そうだね、殺されていたね。
「ああ、依頼で何度かゴブリンやオークに捕らえられていた男達を助けたことはあったけれど、そのほとんどがやつらに
……ん?
「おい、フェリス。男性の前であまりそういう事は言うな」
「おっと、すまねえソーマ。見ての通り俺達は女3人パーティだからな。デリカシーがなくて悪い」
「いえ、そこは全然いいんですけど。……あの、この国のゴブリンやオークは男性を狙うんですか? 女性じゃなくて?」
「はは、女を狙うゴブリンやオーク? そんなのいてたまるかよ!」
「ソーマはおかしなことを言う。古今東西、メスゴブリンやメスオークは男の天敵」
ええ……俺の知ってる異世界ものの常識とまったく逆なんだけど……
「……おい、話は後だ。気付いているな」
「もちろんだぜ」
「当然」
んっ? いきなり前を歩くエルミーがその歩みを止め、フェリスもフロラも俺を制止する。なぜだろう目の前には大きな岩があるくらいだ。
「おい、そこにいることは分かっている。さっさと姿を現したらどうだ!」
エルミーがロングソードを抜き、岩に向かって声を上げる。なんだ、あの岩陰に何者かが潜んでいるのだろうか。
「……っち、やるじゃねえか。不意打ちは無理なようだったか。おい、おまえら!」
岩陰からひとりの女が姿を現した。緑と黒の迷彩柄のようで周囲の草むらと同じような色をしたボロボロのズボン、動物か魔物かは分からないが、その毛皮を加工して作ったと思われる上着、そして右手にはキラリと光る大型のナイフを握っている。
そしてその後ろからはゾロゾロと合計8人もの女がその姿を現した。しかもその女達は最初に姿を現した女性と同じ、いかにも盗賊のような格好をしている。珍しいな、全員女性の盗賊団か。
「へっへっへ、
くっ、かわい子ちゃんてことは、こいつらの目的はフロラか! 確かにフロラは小柄で可愛らしいエルフの女の子だ。もしもこの世界に奴隷制度があるならば、間違いなく高値で売れるに違いない。
「ふざけるな! 盗賊風情に渡すものなどひとつたりともありはしない! おまえ達こそ大人しく投降すれば命だけは助けてやる!」
そしてその盗賊の脅しに一歩も引かないエルミー。マジかっけーっす!
「おうおう、可愛い
「くっくっく、引き締まったいい身体をしているじゃねえか! 俺の股の下でヒィヒィ言わせてやるぜ!」
「久しぶりの
「………………」
あれ俺の耳と目がおかしいのかな……男を犯すと聞こえたし、どう見ても女盗賊達の視線が俺の身体……具体的には俺の下半身に向けられている。
「あの、エルミー。もしかして女盗賊達の狙いって……」
「安心しろ、ソーマは必ず私達が守る!」
ですよね〜。……どうやら女盗賊の狙いは金目の物と俺の身体らしい。
男を狙う女盗賊、男を襲う魔物、さっき俺の上半身を見た時の3人の態度、胸を見られてまったく平然としていたエルミーの態度。
どうやら俺は男女の貞操が逆転した異世界に来てしまったらしい……
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