第4話 日が暮れました(中のヒト?)

第一章 はじまりの島(4)



4. 日が暮れました(中のヒト?)



(夜は、自重したほうがいいよね。)


心の中で独り言を呟く。

他に人は誰もいないので声に出しても出さなくても、独り言になるんだけど。


既に空には星が出ている。

風は陸風。

草原をグルリと歩いているうちに、どこが出発点か分からなくなったので、進むのを止めて適当な砂浜で座り込んだ。


不思議な島であることは間違いない。

不思議な生物がいる島と言ったほうが正確かな。

普通ならかなり混乱するんだろうけど、まあちょっと混乱してるけど、それでも何となく受け入れている自分がいる。

記憶が無いおかげかもしれないな。

記憶があったら逆にキツかったかもしれない。


「ウサくん」たちが消えた辺りは丁寧に調べてみた。

体を隠す程の長さの草原ではないし、20個の穴が開いていることもない。

「ウサくん」たち、どこに行ったんだろう?

全然分からない。


休憩しながら自分の状態を確認してみる。

眠くはない。

起きる前はどれくらい寝てたんだろう?

結構歩いた割にはあんまり疲れてないけど、空腹感と喉の渇きは少しある。

水とか、食べ物とか、どうすればいいのかな。


明るいうちに草原を歩き続けて分かったことは、ここが円形の島であること、川はないこと、見える範囲に他の陸地はないこと。


(絶海の孤島ってやつだ。)


見かけた生物は、「タコさん」、「スラちゃん」、「ウサくん」の3種だけ。

遭遇はそれぞれ1回ずつ。

3種しかいないのか、まだ見つけてないだけか。

そう言えばこういう世界では、昼と夜で出現する生物が変わるんだっけ。


今のところ他に人がいる気配はまったくない。

森の中にも、いるような感じがしない。

人工物もひとつも見かけない。


(絶海の孤島に一人ぼっちか・・・)


森にはまだ入っていない。

海の中にも入っていない。

正直なところどちらも、直感的にちょっと怖い。

こういう状況では直感は大事だよね。


することもないので真っ暗な砂浜でただ波音を聞いている。

星空はとても綺麗だけど月は見えない。

人工物がないので明かりもない。

星の光のおかげでかろうじて水平線が判別できるくらいかな。


(ここは安全だろうか?)


と考えかけて、選択肢も判断基準もほとんどないと思い直す。

草原にいて気づいたらお饅頭たちに囲まれているより、タコさんとコンニチワする方がいいかな。

でもタコさんに囲まれたら・・・

タコさん、団体行動しないよね。


座ったままで闇を見つめ続ける。

体育座りとか久しぶりな気がする。

まあ、記憶はないんだけど。


(ずっと、この島でサバイバルなのかなあ。)


暗い海を見ながら取り止めもなく考える。

ある日、船がやって来るとか。

何か飛ぶ手段を手に入れるとか。

どこかに隠された扉があって、別の世界や別の場所に繋がってるとか。

何か先に繋がる展開があるといいんだけどね。


「ステータス、オープン。」


突然思いついて試しに呟いてみた。

もちろん、何も表示されない。

そういうものは、ないのかもしれない。


「ライト。」


手の平を見つめながら言ってみた。

あかりは灯ることなく、砂浜は暗いままだった。

その手の平を海に向けて伸ばしてみる。

それから夜空に伸ばしてみる。

最後に砂浜に当ててみる。

何か不思議な存在を感じることもできない。


魔法を使えるとか、精霊と友達になれるとかもなさそうだね。

少なくとも今のところは。


いろいろと思いを巡らせていると、いつの間にか目を閉じていた。



   *   *   *   *   *



ジャリッ


砂を噛んだ感触で目が覚めた。

いつの間にか眠っていたようだ。

顔を上げて確認すると砂浜の上に横向きに倒れていた。


太陽はまだ出ていないけど、辺りはうっすらと明るくなっている。

早朝に当たる時間帯でも寒さは感じない。

サバイバルにはとても都合のいい気候だと思う。


口に入った砂を吐き出して立ち上がり、体に付いた砂をはたき落とす。

白くて細かい砂が風に乗って流れて行く。


(喉が乾いた・・・)


空腹よりも先に、喉の渇きを強く感じた。

目の前に大量の水はあるけど、さすがに海水はダメだろう。


(森がある以上、雨は降るはずなんだよね。川はないけど、森の中に水源はあるかもしれないし。あと、水分補給できる何か、果物とかが見つかるかもしれない。)


とりとめもなく考え続ける。


(空には雲ひとつ見当たらないから、すぐに雨は期待できそうもないか。待っててもダメそうだね。仕方がない。ちょっと怖いけど森に入ろうかな。水を見つけないと、文字通り「死活問題」だし。)


森に向かってトボトボ歩き出しながら、何気なく口から言葉がこぼれる。


「水が欲しい。」


するとその瞬間、何かが視界の中を流れたような気がした。

驚いて砂浜の上を探してみたけど、動くものは何も見つけられない。

それでも何か違和感がある。

心を落ち着けてもう一度目を凝らしてみると、それは再び現れた。


…設定しろ…


自分の視界の下の方を、薄く光る文字が流れて消えた。

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