十八日目 閉ざされた慟哭

「あぁー……! 本当に腹が立つなぁ……!」


 ゲブ王国の城内の地下。そこへ向かう階段を一人の少年が歩いていた。少年はとても上等そうな衣服を身にまとい、壁につけられた松明の火が照らすその短い金髪はサラサラとしていて輝きを放っていた。

しかし、衣服が隠すその体はだらしなく太っており、忌々しそうな声も綺麗と言うには程遠い物な上にその顔も整っているとは言えなかった。


「兵士達も転移してきた奴らも本当に使えないよな。さっさと他の三国なんて攻め落として、そこの奴らを捕虜にして使い潰してやれば良いのに何も考えずに攻めるのは危険だなんて臆病風に吹かれるばかりで何もしない。

それに、ママもとりあえずは静観するなんて言うだけだし、ここはこの僕様が兵を率いて他の国の奴らの首を獲って、ママに褒めてもらうしかない。そうすれば、ママも僕様を立派な王子だと言ってすぐにでも王座をくれるだろうし、他の国の女達だって抱き放題だ。むふふ……今から楽しみだなぁ」


 その表情は非常に醜く、松明の火が照らした事ではその醜さは際立っていた。


「その時は誰からにしようかなぁ……副委員長とか呼ばれてた女はママから手を出すなって言われてるから、他の女ばかり呼び出してたけど、他の三国を攻め落とせばきっとママもソイツも良いって言ってくれるに違いない。

ああ、でも南方にあるっていうクスザの姫も良いかもなぁ。あの暖かい気候の中で伸び伸びと暮らしてる事でまだ僕様よりも幼いながらもその体つきは一級品で顔も良いって言うし、そっちでも良いかな……けど、まずはこのモヤモヤをどうにかするために地下に呼び出しておいた女共で遊ぼうっと。

最初は嫌がったり抵抗してきたりしたけど、ママに言いつけるって言ったら、すぐにそれも止めて僕様の言いなりになるし、色々な女で遊べるからやっぱり止められないなぁ……さーて、今日はどんな事をして遊ぼうかなぁ」


 そう言って舌なめずりをした王子は地下室の前で足を止め、楽しそうな表情でドアを開けた。しかし、そこに広がっていたのは王子が想像していなかった光景だった。


「あぁ……光真さまぁ……」

「光真様、次は私を……」

「私もお願いします、光真様……」

「ああ、良いぜ。みんなまとめて愛してやるよ」


 中央に置かれたキングサイズのベッドの上には何も身にまとわずに汗と体液、そしてキスマークにまみれた数人の少女がうっとりとした表情で乗っていたが、その中央には汗まみれで上下に動く一人の少女に跨がれた同じく何も身にまとっていない少年の姿があり、その異様な光景に王子は驚いた後に怒りを露にした。


「お、お前ーっ! 僕様のベッドの上で何をしてるんだ!?」

「ん……ああ、どこの豚が迷い込んできたかと思ったら、もしかしてここの王子か。悪いけど、お前が楽しもうとしてた子達はもう俺の虜なんだ。それに……こんなに魅力的な子達はお前みたいなろくでもなさそうな奴にはもったいないしな」

「ふ、ふざけるな……! おい、女共! 今すぐにソイツから離れろ! ママに言いつけるぞ!」


 王子は激怒したが、少女達は憎しみと悪意がこもった視線を王子へ向け、その視線に王子が怯むと、少女達は光真に身体を寄せ始めた。


「光真様、アイツこわぁーい……」

「あの年にもなってママとか言ってる男は本当にダサいよね……」

「その上、あのデブ体型でしょ? 顔も最悪で体つきも男らしくないなんてどうしようもないよね」

「光真様の方が良いに決まってるよね」


 その言葉に王子が更に怯む中、光真はバカにしたような笑みを浮かべる。


「お前、だいぶ嫌われてるな。そりゃ、権力を振りかざしてきただけなら、そうもなるけどさ」

「な、何でだよ! どうしてソイツらは僕様の言う事を聞かないんだ!?」

「言っただろ、この子達はもう俺の虜なんだって。さて……そろそろまたこの子達の相手をしたいし、あまり良さそうな能力もないみたいだから、ここで消えてもらうか」

「なっ……!?」

「強佳、頼んだ」


 その瞬間、王子の顔を勢い良く風が撫で、目元や唇が切り裂かれて血が流れ出すと、その痛みと驚きで王子は悲鳴を上げた。


「ひっ、ひぎゃあぁーっ……!?」

「……汚い悲鳴ね。けど、今のでそんなに痛がってたら、今から麻酔なしで行う処刑に耐えられないんじゃない?」


 そう言いながら暗がりから強佳が姿を現し、王子は痛みで目に涙を浮かべながら強佳に視線を向けた。


「な、何なんだよ、お前は……!?」

「そこにいる性欲魔神の仲間よ。まったく……光真、私を害獣駆除業者みたいに言うんじゃないわよ。本当ならアンタに任せたいところなんだからね」

「ちゃんと他の時は戦うって。それじゃあそっちは頼んだぞ」

「はいはい……」


 やれやれといった様子で強佳はため息をつくと、杖を構えながら呪文を唱えた。その瞬間、王子の足元からは風の刃が幾つも現れ、吹き抜ける鋭い風の刃は次々と王子の衣服や顔などを切り裂き、王子が増える痛みに大きな悲鳴を上げる中、強佳は再び杖を構えた。


「さて、次は……」

「や、止めろ……! ぼ、僕様はこの国の王子だぞ!? 僕様はママの次に偉いんだぞ!?」

「……知らないわよ、そんな事。同じように女を何人も相手にしてきた奴でもクスザの王様の方が本当にマシだわ。あっちは強い男は良い女を手に入れるのが当たり前みたいな事を言ってたけど、胸を一突きされて死にそうになっても、アンタみたいな情けない顔もしないし、最期まで堂々としていたわよ」

「う、うるさい……! どうせお前も追い出してやったあの無能の仲間なんだろ! そんな奴が僕様に逆らうなんて──」

「……いい加減にしなさいよ、この愚図!」


 強佳は怒りを露にすると、杖を構えた状態で二つの呪文を続けて唱え、王子は雷をまとった竜巻の中に閉じ込められた。

そして雷と風の渦は破れた衣服の下にある王子の体を焼き焦がしながら更に切り裂き、みるみる内に王子の体は赤と黒の二色に染まっていった。


「ぎっ、ぎゃあぁーっ!? い、痛い……! 痛いよぉーっ!!」

「……ここに来て、私は少なくとも三人の男の事を認められるようになったのよ。一人は最期まで部下の気持ちに寄り添った将軍で、一人はクスザの王様、そして残りの一人がアンタが今ここでバカにした奴よ。アイツをバカにした罪、その命であがないなさい」

「あ、熱いぃー!! ま、ママーっ!!」

「アンタの母親はここには来ないわ。そして、アンタの悲鳴は向こうの奴らにも届かない。昨日、音を消す能力を持ってる奴を光真達が連れてきて、その能力で私とアンタの周囲にはその声も物音も聞こえないようにしているから」

「や、止めろ……! 今すぐ逆らうのを止めて、僕様に許しを乞えば許してやらなくも──」

「……ほんと、男らしくもないわ。こんな奴に権力を振りかざされて好き放題されてた子達に同情するわ。でも、それも今日で終わり。アンタはこのままここで炎と雷に焼かれて風と氷にその身を切り裂かれ、水と土に自由を奪われてそのまま闇の中へ消えるの。それがアンタに待っている運命なのだから」


 その後、光真が少女達の若く瑞々しい肉体を味わう中で強佳は多種多様な魔法で王子の心身を深くまで傷つけてその命を奪ったが、血が混じった涙を浮かべる王子の悲鳴と助けを求める声は強佳と自身以外には届かず、その地獄の中で王子は死ぬまで苦しみ抜いていた。

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