三日目 世界について

 三日目、光真達の姿はまた教室にあった。前日と同じように男女で隣り合って席に着いてはいたが、少し離されていたはずの机が光真と真言の物のみきちんとくっついており、嬉しそうにする真言と照れながらも満更でもなさそうな光真の姿に強佳はため息をつく。


「はあ……あんた達、昨日もだいぶお楽しみだったようね。声、しっかりと廊下まで聞こえてたわよ」

「あ、それは悪い。けど、どうして強佳がそれを知ってるんだろうな?」

「そうですよね。私達、光真君のお部屋にずっといたのに、女子の強佳さんが知ってるのは何ででしょうね?」


 理由をわかっている様子で二人がニヤニヤと笑うと、強佳は少し顔を赤らめ、敦史は強佳の肩を静かに叩いた。


「たしかにすごい声だったな。だが、ほんのり赤くした体を四つん這いにしながら後ろから突かれていた時の強佳の可愛らしい声もそれに負けず劣らず大きく──」

「敦史! ま、まあ……それはとりあえず置いておくとして、今日はたしかこの世界の事について説明するのよね? 30日かけて復讐をするって言ってたのに、このペースで間に合うの?」

「ええ、大丈夫ですよ。30日というのは、あくまでも目安ではありますが、あなた方の能力は多少の使いづらさこそあるものの、一般的にはチート能力と呼ばれる物なので、武器や魔法の扱いに慣れ、能力の活用法さえわかれば簡単に復讐は果たせます。

なので、とりあえず今日も含めて三日はこの世界の事やそれぞれの能力の事について学びながら交流を続けてもらう。そんな期間にしようと考えています」

「たしかに何も知らないままでは良くないからな」

「そういう事です。では、まずはこの世界について改めてお話しをしましょうか。皆さん、これから話しながら板書していくので注目していてくださいね」


 光真達が頷くと、センセイは頷いてから手に持ったチョークで黒板に書き始めた。


「まず、世界の名前はシュオン。皆さんにとってはファンタジー小説の中の世界のような場所で、十種類の種族がこの世界には存在し、スライムやオークといった魔物、中にはドラゴンやクラーケンなどもこの世界にはいます。

そして小規模や中規模の国々もありますが、主にこの世界は四つの大国が支配をしており、それがリュイ王国とビャコ王国、ゲブ王国にクスザ王国です」

「俺達を勝手にクラス転移させてきた国か。そういえば、俺達を戦力として転移させてきたようだったけど、それって自分以外の大国との戦争で戦わせるためなのか?」

「基本的にはそうです。しかし、このシュオンにも勇者や魔王という概念はあり、魔王も特殊な魔法を用いて容易には自分の仲間以外が近寄って来られないようにしている上に四天王やその部下達も各地に送ってはいますから、彼らとの戦いに向けて軍備を整えるためでもあるわけです。

そして勇者ですが、先代の勇者が亡くなってからそれらしい存在が出てきていない上に古くから勇者はある日突然現れるとされているので、転移させてきた中にいる事に僅かな希望を持っている可能性はありますが、転移させてきた人々も基本的には使い捨ての駒か王達や兵士達の慰み物、小間使いくらいにしか考えていないかと。

こう言ってはなんですが、先代の勇者と魔王が争ったのも数百年もの前の話で、勇者の体のどこかに現れるという印も実際に見た者はもういませんから、適当に勇者らしさのある人物を祭り上げて印を体のどこかにつけ、仕立て上げた勇者を魔王や他の大国への威圧のための案山子にするのが目に見えてますからね」

「まさに私達がそうなりかけたからね。それにしても……向こうだと異世界転移なんて小説や漫画の大人気ジャンルで夢があるイメージなのに、現実なんてこんなものなのね」

「そうですよ。異世界なのに言葉が簡単に通じたり自分達の文化の方が特別優れていたりなどそう簡単にあるわけはないですし、いつだって転移させてきた側が友好的というわけも元の世界で目覚めない能力が転移した途端に目覚めるなどというご都合展開はないのです。

もし、あるとすればその世界が転移した本人の前世に関連していたり転移してその世界の空気に触れた事で発生したり、それか転移中に誰かに授けられていたり転移先の人々が本質的に善人だからくらいですよ」

「夢は夢でもそれは悪夢かもしれないわけか……」

「その通りです。皆さんに関しても“たまたま”あなた方がクラス内で無能力で“たまたま”逃げるだけのチャンスがあって、“たまたま”私に目的があって皆さんが協力者としてピッタリで、“たまたま”良さそうな能力を目覚めさせられた。それらが積み重なっただけの事ですよ」


 センセイは微笑みながら言う。しかし、その声には一切の感情はなく、光真達もそのただならぬ雰囲気に怯えた様子を見せる中、センセイは雰囲気を柔らかくしてから口を開いた。


「ですが、こうして皆さんと出会い、協力者として頑張って頂く以上は私も支援は惜しみません。料理や洗濯、掃除などは共同生活をする上で大切な事なので、皆さんにやってもらっていますが、食料や生活用品などの補給は私がやりますし、ここは魔王が用いる魔法と同じで私達以外は近づけない場所にしていますしね」

「……って事は、センセイは本当に信じて良い存在なんだな」

「少なくとも、他の人物達よりは。さて、それでは説明に戻りますが、四つの大国はそもそも先代の勇者と魔王の大戦の後に出来た物で、先代の魔王の四天王達に支配されていた国々が自分達が協力して勇者がもたらしてくれた平和と自由を守るという目的で復興の果てに大きくした物です。

ただ、時が経つに連れてその考えから他の三国を従えて自分達こそがこの世界の支配者となるのだという考えへと変化し、今こうして四つの大国同士で争おうとしているわけです」

「な、なるほど……」

「それぞれにも特色があって、対田さんがいたリュイ王国は気候も程よい東に位置する各地から様々な文化が流入してくる国で一色さんがいたビャコ王国は西側に位置する古くからの文化が色濃く残る国。

猪狩さんがいたゲブ王国は北方に位置する寒気が厳しい代わりに独自の魔物の姿も見られる国で食満さんがいたクスザ王国は南国らしさのある少し暑いところですが綺麗な海が見られたり海産物の美味しい国です。そして食料は私が現地から調達しているので、産地直送の物だと言えます」

「そして復讐を果たした暁には、それらが俺達の物になる……」

「そうです。さて、この世界についての簡単な説明はここまでにして、そろそろ武器を配って今日は終わりにしましょうか」


 その言葉と同時に光真達の机の上にはそれぞれの武器が現れた。


「俺のは……青い宝石が真ん中についた長剣か」

「私のは白い鞭……ですね。それもとても鋭そうな赤い棘がついた……」

「俺は黒いボウガンだ」

「私は赤い杖ね。それじゃあ明日はこの武器の使い方を学ぶのかしら?」

「そうです。尚、各々の武器はそれぞれの利き手の甲につければ体内に収納しておけるので不要な時はそうしておいて下さい。では、これで本日は終わりなので、後は自由時間にして良いですよ」


 センセイの言葉に四人が頷いた後、真言は棘鞭を自身の中にしまってから光真にしなだれかかった。


「ん、真言。どうかしたか?」

「いえ、今日も能力の研究に付き合ってもらいたいんです。光真君を放っておくと、どこかに行っちゃいそうな気もしますから……」

「はは、どこに行かないって。それじゃあ今日も俺の部屋に行くか。お前達はどうする?」

「俺ももう少し強佳と仲を深めようと思う。もちろん、強佳さえ良かったらだが……」

「わ、悪いなんて言わないわよ……けど、今日も変な事はしないでよ……?」

「変な事はしない。あくまでも強佳と仲を深めたいだけだからな」

「そ、そう……」


 強佳が少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうに顔を赤くし、敦史がその姿を愛おしそうに見つめ、自分の胸を軽く押し付けてくる真言の姿に光真が目をぎらつかせるその光景をセンセイは黒板の板書を消してから何も言わずに見つめていた。

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