第31話 決闘2


もっと無理難題を押し付けられる覚悟もしていたけれど、有馬が僕に提示してきた条件は、拍子抜けするほどに簡単だった。


「そんなことでいいの?」


僕は思わずそう聞き返していた。


ピキッと有馬の額に青筋が入る。


「そんなこと…?お前みたいなレベリングの雑魚がこの俺を倒せると本気で思っているのか?」


「僕はレベリングじゃないけど……まぁ、そうだね。君ぐらいだったら簡単に倒せるかな」


ステータスを鑑定してみた感じ、有馬に警戒する要素は何もない。


ステータスも、所持スキルも大して強くない。


逆に有馬は、僕のステータスを鑑定できていないようだ。


まだ鑑定スキルを持っておらず、ゆえに力の差を理解できていないのだろう。


「はっ…調子に乗れるのも今のうちだぞ、Gランクスキル。俺のスキルランクはA。お前と違って俺は才能ある人間なんだ」


「へぇ、そうかい」


「…っ…まだ実力差がわかっていないようだな。いいだろう。さっさと訓練室へ移動するぞ。勝負はそこで行う」


「わかった」


そうして僕は、有馬と共に訓練室と呼ばれる本来は訓練をするための校内施設へと移動する。


「お、おい…!有馬勝太が決闘するらしいぞ…!」


「有馬商会の有馬が決闘だ…!」


「これは見ものだぞ…!」


早乙女や黒崎、そして周りで成り行きを見守っていた生徒たちも野次馬として引っ付いてきた。


やがて僕は有馬と共に訓練室へとやってきた。


訓練室は強化ガラスで覆われた広い空間だ。


その外からは中を見通すことができる。


早乙女や黒崎、そして野次馬の生徒たちは、強化ガラスの外から対峙する僕と有馬を固唾を飲んで見守っている。


「だ、大丈夫なの…?雨宮くん…」


早乙女が心配そうに僕に聞いてくる。


「あ、有馬くんは相当強いって聞くよ…?勝てるかな…?」


「大丈夫だよ。僕はあんなのに負けない」


「お、応援してるね!」


「ありがとう」


僕が負けないかどうか心配そうにしている早乙女の横にいる黒崎は、全くもって僕の勝利を疑っていないようだった。


むしろ有馬の方へどこか心配するような目を向けている。


「大丈夫かしら、あの間抜け。あなたに壊されなければいいけど」


「いや、僕を何だと思ってるんだ。手加減ぐらいするさ」


「そう?まぁ、私としてはあんなのがどうなろうと知ったこっちゃないけど。でも大怪我をさせると面倒だから、そこは警告しておくわ」


「わかってるよ」


二人とそんな会話を終えて、僕はいよいよ訓練室の中央へと歩いた。


訓練室のドアが閉まり、密閉空間になる。


有馬がニヤニヤしながら僕を見据えた。


「話は終わりか?」


「うん。さっさと始めよう」


「ククク……馬鹿だなぁお前。自分から俺に主導権を委ねるなんて。スキルだけじゃなくて頭も弱いんだろ?」


「どうだろうね。それはこの決闘ではっきりするんじゃないかな?」


「…っ…ああ、そうだな。才能の差ってやつをわからせてやるよ!」


有馬がそう意気込んだ。


いよいよ決闘が始まろうとしていた。


「ルールは簡単だ。どちらかが戦闘不能になるまでやりあう。手加減なしだ。最悪、死んでも知らないからな?」


「それでいいよ」


「よし……言質はとったぜ。ククク…」


これで僕を思う存分痛みつけても、本人同意の上だと言い逃れできる、なんて考えているんだろうな。


まぁ、僕は有馬を傷みつけるような真似はしないからそこは安心してほしいね。


一応有馬はあの有馬商会の御曹司だし、大怪我をさせると後々面倒だ。


だから、僕はあくまでこの決闘では、有馬より僕の実力が秀でていると証明するだけに止めるつもりだ。


「スタートの合図はそっちからでいいぜ。せめてものハンデだ」


「そう?じゃあ、スタート」


僕は雑にスタートを宣言した。


「…っ…舐めやがって…!だったらお望み通り、一瞬でぶっ倒してやるよ…!ユニークスキル『加速』!」


有馬が自分のユニークスキルを発動させた。

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