第39話 凱朋《がいほう》

 僕たちは凱朋がいほうに向かいながら、

 こうに聞いた話をする。


香花仙こうかせん曇斑疫どんはんえきを......」


「もちろん灰混仙かいこんせんが、

 嘘をついてる可能性はあるけど......」


 驚くほど静かに僕の話をこうは聞いていた。


「いや、正直ない話じゃない......

 香花仙こうかせんは明らかに、

 人間を下に見ていた節があるからな。

 あの人はかつて人だったとき、奴隷だったらしい......

 その事が関係してるのかもな。

 ......もちろんそうには伝えられないがな」


こうもそう思っていたのか......)


「だけど、目的はなに?曇斑疫どんはんえきで、

 人間たちを滅亡てもさせようっての?」


 桃理とうりが信じられないという風に答える。


「わからない......それに世鳳せおうを滅ぼした仙人も......

 命炎仙みょうえんせんが、

 争いをあえて起こさせてるんじゃないか、

 って灰混仙かいこんせんにいっていたけど......」


灰混仙かいこんせんを動かして何かを企んでいる者、

 それが、世鳳せおうを滅ぼしたやつか」


 こうは考え込む。


「......とりあえず、わからないことはおいといて、

 命炎仙みょうえんせんさまに、言われたように、

 凱朋がいほうに向かいましょう」 


 桃理とうりにいわれ僕たちは凱朋がいほうに急いだ。


「これは......」


 僕は驚いていた。凱朋がいほうに入ると、

 そこは見渡す限り雪ですごい吹雪だった。


「すごいな。俺たちは気で周囲を暖められるから平気だが、

 普通の人間ならすぐ死んじまう。本当にこんなところに、

 人が住めんのか?」


「十二大仙の一人、冴氷仙ごひょうせんが、

 この地に人が住める場所を、いくつか作ったらしいわ」


 こう桃理とうりが答えた。


冴氷仙ごひょうせんって、

 玄陽仙ゲンヨウセンに与した方だよね。

 悪い仙人じゃないの?困ったら訪ねるように、

 命炎仙みょうえんせんもいってたけど」


 二尊仙にそんせん白陰仙はくいんせん側についた、

 六白仙ろくはくせんが、未麗仙みれいせん

 金靂仙きんれきせん霊棺仙れいかんせん

 晶慈仙しょうじせん命炎仙みょうえんせん

 漿龍仙しょうりゅうせんの六仙で、

 玄陽仙げんようせん側に、

 ついた六黒仙ろくこくせんが、

 冥影仙めいえいせん冴氷仙ごひょうせん

 香花仙こうかせん沙像仙さぞうせん

 空姿仙くうしせん宝創仙ほうそうせんだった。


「そういうわけではないわ、考え方の違い、

 そう命炎仙みょうえんせんさまは、おっしゃっていた......」


 そういいながらも、

 桃理とうりは少し疑問を持っているようだ。

 こうも何かを考えているようだ。

 

命炎仙みょうえんせんが言うからそう言ってるだけで、

 桃理とうりこうも疑問に思ってるようだな......)


「きゅい!!」


 コマリがなく。


「ねえ!あれ人じゃない」


 吹雪の中に今にも埋まりそうな少女が倒れている。

 すぐに助け、雪でかまくらを作りはいる。

 その時人骨らしきものが、多数埋まっていた。


(この雪で死んだものたちか......)


 倒れた少女に桃理とうりが気をいれると、

 スースーと寝息が聞こえた。


「ふぅ、何とか命は取り留めわね」


桃理とうり回復術を使えるの?

 確か、内丹術を外に放出する難しい術だよね」

 

「ええ、そうよ、すごいでしょ」  


 自信満々に答える。


「そういえば命炎仙みょうえんせんは重傷者すら、

 回復させられると言われているな」

 

 こうがそういう。


「......まあね。命炎仙みょうえんせんさまほどじゃないけど、

 ある程度なら回復させられるわ」


(やはり十二大仙の弟子だけあって、かなり優秀だな)


「う......う、はっ!」


 少女が目を覚ますと、飛び起きて離れた。怯えているようだ。


「大丈夫よ。あなたは道で倒れていたの」


「......あなたたちは、外の人たちですか......」


「ええ、仙人よ」


「仙人さま......」


 状況を察したのか、少女は頭を下げた。

 

「助けていただいて、ありがとうございました」


「だけど、こんな吹雪の中歩くなんて危険だよ」


「は、はい、わかっていますが、どうしても弟に食べ物を......」


 よく見ると少女は痩せ細っている。

 

(食べ物......確かにこんな豪雪地帯で、

 どうやって食べていってるんだ?)


 僕たちは手持ちの食料を少女に渡した。

 少女はためらいがちに受けとると、

 近くに自分の住む村があると教えてくれた。


 少女の名は早受さじゅといい、十三才だという。


(にしては小さいな......八、九才くらいに見える)


早受さじゅさん、何かおかしなことは起こってませんか?」


「......いいえ、なにも」


 そう言葉少なに語る。


「でも食料が足りなかったんじゃないのか」


 そうこうが聞いた。


「いえここは常に食料が不足しているだけです......」


「それなら、他国に移動するとか......」


「............」


 僕がいうと早受さじゅさんが黙る。

 桃理とうりが僕を肘でつつく。


「ここの人たちは他国から追いたてられてきた者たちで、

 作られた国。ほとんど外部と交流がないの。

 そもそも何か取引できるものもないから、

 交易もしていないのよ」


 そうそっと耳打ちしてくれた。


(ここは排斥者の国か......だから、ここで生きるしかないのか)


 僕たちは気で彼女を囲むと、村までついていくことにする。

 村につく、その中は寒さこそあるが、

 見えない何かで囲われており雪は入ってこない。

 

「これを冴氷仙ごひょうせんが作りだした場所か、

 中に雪が入ってこないな」  


「どうやってつくってんだ?」


 こうが空を見回している。


(まあ仙島を作れるぐらいだから、このぐらいはできるのか)


 その名もなき村は石や木を組み立てた粗末な家がたち並び、

 畑も痩せ細っていた。

 

(これじゃ生きていくのも大変だろうな。

 外に食べ物を探しに行くのも仕方ない)

 

早受そじゅ......」  


 そう呼び掛ける、老人が村人たちと共に現れた。

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