第31話 巣くうもの

樹界剣じゅかいけん!」

 

 紅花こうかさんが剣を振るうと、

 地面から鋭い植物の根が飛び出してきた。

 周囲の家臣は叫び逃げ惑う。

 

水如杖すいにょじょう!」


 僕は気の壁でそれを防ぐ。

 

「止めろこう

 いくら樹界剣じゅかいけんがあっても、

 未熟なお前では軍隊相手では殺されるぞ!」


 蒼花仙そうかせんが叫ぶ。


「それぐらいの覚悟はある!

 町の外に武装した奴らをおいている。

 俺が王を殺せば、奴らは軍をたたく!」


「お前だけではない!

 これを好機にあの区画の住人は同罪として殺されるぞ!」


「それがどうした!!このまま放置されても結果は同じ!

 あの場所は元々存在すらしてねえ!

 生きてないのとおなじなんだ!

 あそこを捨てたお前が言う資格があるのか!」


「くっ!繰縛蔓そうばくばん!!」  


 蒼花仙そうかせんが太いつるを地面から呼び出し、

 紅花こうかさんを狙う。

 だが紅花こうかさんは剣でその蔓を切り裂いた。


「さすが仙人だなそう!だが、俺には樹界剣の力がある!

 お前がわざわざ持ってきてくれたこれがな!」


 そういうと剣を地面にさした。


森叉根龍しんしゃこんりゅう!!」


 すると地面から巨大な球根の芽が育ち、

 大きくなると、いくつもの首を持つ木の龍が生まれる。


 その龍は次々こちらに向かって襲ってくる。

 何度倒しても次つぎ首がはえてくる。


「くっ! これじゃ!」


三咲みさきどの!

 球根を破壊しないときりがありません!」


(だが、この龍、再生力も速い!王を守りながらだと、王は......)


 王の方を見ると、王はにやついてこちらの戦いをみている。


(!?)


「いや、今はいい!まずあの龍を何とかしないと、やはり......」


水玉すいぎょく!」


 僕は水球を作ると龍に投げる。


「そんな水じゃ、効きやしねえよ!!」


 水は龍の首に吹き飛ばされる。


(ぐっ!でも......)


 僕は水を気で変化させた。


蒼花仙そうかせん!火を!!」


焙炎珠ほうえんじゅ!!」


 蒼花仙そうかせんはこちらを見ると、

 火球を作り龍に打ち出した。


「そんな火でこの龍が焼けるかよ!」


 そう紅花こうかさんはそう言ったが、

 当たった火球は瞬く間に業火となり、

 球根まで伝わって燃え盛った。


「なに!?この匂い油か!!水を油に変えた!?だが!」


 その時、紅花こうかさんは王のもとへ飛び剣を振るう。


「しまった!!」

 

 僕が王のもとに翔ぼうとする。


 ガキッ!!

 

 その時、金属音が響いた。


「なに!?斬れない!!!」


 王の身体は鈍い銀色となり樹界剣を防いでいた。


「ふ、ふふふ、あっはっは!」


 突然、王は笑いだす。

 そして身体は銀色のどろどろになりその姿を変えた。

 そこに現れたのは銀の扇を持つ黒い肌、銀の髪の女性だった。


「お前仙人か!!」


 紅花こうかさんが叫んだ。


「わらわは流鋼仙りゅうこうせん


「王に成り代わっていたのか!」


「そうよ。わらわが王になり、 

 この国をよき方につくりかえていたの」


「何のためにだ!!」


「わらわの師、

 晶慈仙しょうじせんがそれを望んでいたからよ」


 そういいながら目を伏せた。


晶慈仙しょうじせん!?十二大仙の、

 でも確か大乱で死んだのでは、

 確か香花仙こうかせんに......」


 僕がそう言うと、

 流鋼仙りゅうこうせんはその黒い肌を震わせて、

 こちらをにらんだ。


「そうよ! あの方は綺麗で完璧な方だった。

 人間を救おうとその優しさから、

 白陰仙はくいんせんに与した結果殺された。

 香花仙こうかせんにね!」

 

 そういいはなった。


「......あの方を失ってから、ずっと仙島でこもっていたわ。

 でも晶慈仙しょうじせんさまはもう帰らない......

 だからわらわが、人間どもを管理して、

 綺麗な世界を作ろうと思ったの」


「で、では王は」


 周囲の大臣たちはそう聞いた。


「殺したわ。美しくないもの」


「なっ!?」


「この国の富を牛耳り、私欲を肥やすだけの豚よ。

 いない方がよかったでしょ」


「この仙人を討つのだ!!」


 王宮の衛兵が周囲を囲んだ。


「うるさいわね。次からつぎへと汚いものがわいてでてくる」


金漿扇こんしょうせん!!」


 そう流鋼仙りゅうこうせんが手にもった扇を振るうと、

 倒れた永銀えいぎんの身体が、

 どろどろの銀色の液体となり、周囲の兵たちをのみこむ。

 

永銀えいぎんは、人形だったのか」 


 僕が聞くと、流鋼仙りゅうこうせんは笑みを浮かべる。


「ええ、そうよ。軽銀けいぎんとても美しいでしょ、

 腐食しない、つまり腐らず永遠の輝きを持つの」


軽銀けいぎん......)

 

 流鋼仙りゅうこうせんを、

 紅花こうかさんが剣で斬りつける。

 それを扇で受け止め弾いた。粉が舞う。


「ふふ、道士風情がわらわを斬れると思ってるの?」 

 

「くそっ!なめやがって!」


幻香華げんこうか!」


 ソウリュウセンが言うと、青い花が一面咲き、

 周囲に青いもやがかかった。 


三咲みさきどの!」


 蒼花仙そうかせんの声がする。


蒼花仙そうかせん!?」


「あの身体、樹界剣じゅかいけんでも斬れないのなら、

 普通の剣ではほんの少しの傷しかつけられません。

 何か弱点があればいいのですが」


「確かに......金属の身体か......しかも多分あれは......

 とても二人では倒せない......」


「なら俺も加えろ......」


 もやの中から紅花こうかさんが現れる。


こう......」


「こうなってはやつを倒すしかないそう


「ええ、三人でやりましょう」


 僕は話すと二人に離れてもらい、

 水如杖すいにょじょうをかまえる。


「ふっ、仙人の癖に、目眩まし位しかできないの。

 ずいぶん情けないわねえ」


 流鋼仙りゅうこうせんはそう言うと、

 もやを扇で吹き飛ばした。

 そして流鋼仙りゅうこうせんの足元から、

 大量のどろどろの金属が拡がってくる。


炎柱牢壁えんちゅうろうへき!」


 紅花こうかさんがそう言うと、

 地面から柱のように炎がたち、

 流鋼仙りゅうこうせんと周囲を包む。

 

「道士にしては、ましな術ね。

 でもこの程度の炎で私の金属が溶けるわけないじゃない」 


水玉瀑布すいぎょくばくふ!!」

 

 僕は大量の巨大な水球を打ち出し、それが割れ炎を消した。


「なに、なぜ消した......」

 

 流鋼仙りゅうこうせんはいぶかしげに言った。


鉱流錘穿こうりゅうすいせん!!」


 つづけざま蒼花仙そうかせんがそう言うと、

 無数の巨大な黒い鉱石のドリルが地面から伸び、

 流鋼仙りゅうこうせんに向かう。


「うっとうしい!」

 

 ドリルを扇で弾き砕くと、キラキラと粉が舞い、

 砕かれた鉱石はどろどろの金属の中に落ちる。


「ふん、大方、金属を熱して冷やし脆くして砕こう、

 とでも思ったのでしょうけど残念ね。

 せいぜい軽銀けいぎん表面を固め、

 ほんの少し削るのがやっとね」


 そういって流鋼仙りゅうこうせんはせせら笑う。

   

(まだ足りない......)


「少し聞きたい。

 あなたは灰混仙かいこんせんを知っているか」


「僕は流鋼仙りゅうこうせんに聞いた」


「誰よ?」


曇斑疫どんはんえきに関わっている仙人か道士だ」


「知らないわ。

 でもあの病で、この国から汚いものを消し去ろうとしてたのに、

 まだ生き残りがいるなんていまいましいわ」


 そういって紅花こうかさんをにらむ。


「だけど、お前たちを殺してから、

 重臣、兵士殺しの反逆罪として、

 あの区画ごと消し去れる理由ができたわ。

 これでこの国はきれいになるわ。

 晶慈仙しょうじせんさまも、きっとおよろこびになるわ」


 そう、うっとりとして扇をほほに当てた。  


 僕は水如杖すいにょじょうで気を剣に変え、 

 下から地面を斬りながら流鋼仙りゅうこうせんを狙う。

 

「無駄よ!さっさと死になさい!」

 

 そういって流鋼仙りゅうこうせんは扇で、

 僕の剣を粉々に砕いた。キラキラと銀粉が舞った。


「みんな!離れて!」


 そう叫ぶと、僕は火を流鋼仙りゅうこうせんに打ち出し、

 翔地しゅうちで衛兵たちを離す。


「なに、そんな火なんかで逃がすわけ......」 


 すると轟音を伴い流鋼仙りゅうこうせんの前で、

 強い光と爆発のような火柱が上がる。


「なにこの火!?消えない!!熱い!!」


 流鋼仙りゅうこうせんは水を作り消そうとするが、

 一瞬で蒸発し水蒸気が辺りを包む。

  

「きゃああああああ!!」


 叫びが轟く中、炎に包まれた人型の黒い姿は、

 あっという間に見えなくなっていった。

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