第27話 蒼花仙《そうかせん》

 安薬堂あんやくどうのある紫水しすいに向かう途中、

 ある山道から二つの大きな気を感じ止まる。


(これはかなり大きな気だ、仙人か......

 もう一体は王魔おうま!?)


 近づくと、人の形をした巨大な角を持つ鹿のような魔獣と、

 一人の青年が戦っているようだった。


(どちらもすごい気を持っている......

 王魔おうまではないが、かなり強い魔獣だ。あの人は......)


 その美しい青い長い髪をなびかせ、その角を切り裂く。

 すると魔獣は巨大な炎を吹きだした。

 

樹界剣じゅかいけん


 そう言うと青年の剣身が伸び、木の根に姿を変え、

 炎ごと魔獣と周囲の木々を飲み込んだ。

 

「あの剣、封宝具ふうほうぐか......

 剣身が木の根っこに変わった、それにすごい威力だ」


 魔獣が木の根から何とかでてくると、

 青年は右手の指先になにか小さなものを作り魔獣に打ち込む。

 すると魔獣の体を貫き、いくつもの花が咲くと、

 魔獣は動かなくなった。


「植物......かな、かなりの術だな」  


「なにかご用ですか」 


 その青年はこちらに振り向き、唐突にそういった。


(女性かと思ったけど、男性かな......なんかアイドルみたいだな)


「いや、大きな気を感じたから、魔獣だと思って」

 

「助けに来ていただいたんですね。

 それはありがとうございます」

 

 そういって頭を下げる。


「あなたも仙人なのですね」


「ええ、蒼花仙そうかせんといいます」


「僕は三咲みさきです」


三咲みさきどのですか、

 あなたもなかなかの使い手とお見受けしますが」


「いえ、僕は......」  


灰混仙かいこんせんのことを知っているかも......)


「あの、あなたは、

 灰混仙かいこんせんという仙人をご存じですか?」

 

灰混仙かいこんせんのことを、

 あなたは知っているのですか」


 その名をいった瞬間、表情こそは変わらないが、

 蒼花仙そうかせんの、

 まとっていた気が高ぶるのがわかった。


「下天教の教祖、陀円だえんに、

 曇斑疫どんはんえきの治しかたを伝えたのが、

 その灰混仙かいこんせんです......」


灰混仙かいこんせんがあの疫病の治しかたを......」


「......ええ、ですが僕はその灰混仙かいこんせんが、

 曇斑疫どんはんえきに関係していると思っています。

 知っているなら教えてください」

 

「............」


 しばし沈黙があったのち、

 考え込んでいた蒼花仙そうかせんは、

 少し落ち着くところで話をしましょうといい、

 僕たちは近くの町の宿に向かった。


 宿につくと、蒼花仙そうかせんは話し始める。


「私は灰混仙かいこんせん探しているのです」


灰混仙かいこんせんを......

 蒼花仙そうかせん曇斑疫どんはんえきと、

 関わりがあると考えてたんですか」


「......いえ、ちがいます。灰混仙かいこんせんは......

 奴は我が師の仇......」

 

 蒼花仙そうかせんは、

 あふれでる感情を抑えるかのようにそういった。


「師の仇......」


「はい、私の師、香花仙こうかせんはあの男に殺されたのです」


香花仙こうかせん!?十二大仙の一人ですか!!」


 僕は未麗仙みれいせん先生から、

 十二大仙の名を聞いていた。

 未麗仙みれいせん金靂仙きんれきせん

 霊棺仙れいかんせん晶慈仙しょうじせん

 命炎仙みょうえんせん龍漿仙りゅうしょうせん

 冥影仙めいえいせん冴氷仙ごひょうせん

 香花仙こうかせん沙像仙さぞうせん

 空姿仙くうしせん宝創仙ほうそうせん

 の十二人だ。


(たしか仙境大乱では香花仙こうかせんは、

 玄陽仙げんようせんに属した、

 六黒仙ろくこくせんの一人だ)


「そうです......灰混仙かいこんせんは弟子になりたいと現れ、

 そして私の前で香花仙こうかせんを殺した......

 私はあの男を探して、地上に降りたのです」


 そういうと、静かにこちらを見据える。


「しかし、あてがないでしょう」


「いえ、あの男は珍しい銀髪で、

 首にアザのようなものがあります。

 我が師の仙術で毒を受けました。

 あの毒は、そう簡単には治せないでしょう」


「銀髪で首にアザのある男か......でもそれだけじゃ......」


「巨大な気を持っていました。

 隠していても近づけばわかります」


「なるほど」


三咲みさきどの、

 私もあなたについていってもよろしいですか?

 二人ならば見つけやすくなりますから」 


灰混仙かいこんせん......十二大仙を殺せる者...... 

 確かに不用意に一人で会えば命はないか)

  

「分かりました。一緒に行きましょう」


「ありがとうございます」


「まず僕の知り合いから情報を得るとしましょう」


 こうして、僕たちは安薬堂あんやくどうに向かう。

 安薬堂あんやくどうにたどり着くと、

 大勢のお客のそばで遊んでいた、

 僥儀ぎょうぎさんが走ってきた。


「みさきーー帰ってきた!」


「ええ、僥儀ぎょうぎさん。

 陸依りくい先生はいらっしゃいますか」


「めいなーーみさききたーー!」


 そう言ってかけていく。

 店から鳴那めいなさんかでてきて、案内してくれた。


「お久しぶりです三咲みさきさま。

 どうぞ、店が終わるとこちらに来ますから」


 そう言ってお茶をだしてくれる。

 鳴那めいなさんと話していると、

 足早に陸依りくい先生がはいってきた。


「おお!三咲みさきさま!お久しゅうございます」


「おひさしぶりです先生!」


 陸依りくい先生は、今、紫水しすいの、

 国抱えの薬師くすしとして仕えてもいると、

 鳴那めいなさんが教えてくれると、

 恥ずかしそうにしている。

 僕は陸依りくい先生に、

 連れてきた蒼花仙そうかせんと、

 灰混仙かいこんせんという仙人の話をした。

 

「十二大仙の仙人さまを殺害とは......それは」


 陸依りくい先生は言葉を失っている。


陸依りくい先生、あの曇斑疫どんはんえきについて、

 なにかわかったことはありませんか」


 そう僕が聞くと、陸依りくい先生は、

 険しい顔をして腕を組んでいる。


「......実は紫水国の方から話が来ております。

 曇斑疫どんはんえきの発生源と、

 みられる国が判明しました」

 

「本当ですか?」


燎向りょうこうという、砂漠にある国です」


燎向りょうこうか......」


 蒼花仙そうかせんが眉を潜める。


燎向りょうこうになにか?」


 僕が聞くと蒼花仙そうかせんは静かに答える。


「あの国は他と違い、とても厳しい法令を持つ国なのです......」


「ええ、蒼花仙そうかせんさまがおっしゃるとおり、

 あそこは貿易も少なく、閉鎖的な国で、

 情報ももらえないのです。 

 一応感染は拡がってないようですが......」


「......では、そちらにいってみますか蒼花仙そうかせん


「......そうですね、しかたありませんね......」


 僕と蒼花仙そうかせん陸依りくい先生に礼をいい、

 燎向りょうこうに向かった。

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