第21話 王魔《おうま》

「初めて王魔おうまと戦いましたが、

 大したことはなかったですね」  


 そう言って笑顔で碧玉へきぎょくがこちらに向かってきた。


「その槍、封宝具ふうほうぐなんですか?」


「ええ、兄弟子、白天仙はくてんせんに頂いた風を操る槍、

 風殻槍ふうかくそうです」


「かなりの威力ですね。

 でも本当にこれが王魔おうまなんですか?」


「えっ、どういうことですか?」


「あまりにも弱すぎる......

 これで戦わないよう禁止しますかね......」 


「確かに......でも、もう大きな気はしませんし......」


 碧玉へきぎょくはそう言う。


王魔おうまを倒せば、他の魔獣は逃げていくんですよね。

 でも......」


「確かに......魔獣たちはまだ森にいますね......これは一体......」

 

 すると、針ネズミの方から強い殺気のようなものを感じた。


水如杖すいにょじょう!!」


 僕はとっさに気で固い壁を作る。

 その壁に無数の大きな黒い針が打ち込まれた。


「あれ!!三咲みさきさま!」


 針ネズミの中から影が現れる。よく見ると、

 それは身体中黒い針で覆われた、

 幼い人のような姿をしていた。


「人!? いやすごい気だ!」


「しかもこれは!?」


 二人とも驚いた。なぜならその人のような者は、

 巨大でとても禍々しい気をしていたからだ。


「これが王魔おうまか!!」  


「来ます!三咲みさきさま」


 その小さな王魔おうまは雄叫びをあげると、

 一瞬で近づき、僕の作った壁を破壊した。


「この!風殻槍ふうかくそう!!」


 碧玉へきぎょくの槍からでた風が、

 竜巻のように王魔おうまを阻んだ。


「土よ!固まりその者を捕えよ!!

 土囚壁どしゅうへき!!」


 僕はそう言うと地面から土が盛り上がり、

 王魔おうまを包み固まった。


「ウガァ!!」


 そう叫びながら、王魔おうまが土を砕きでてくる。


水如杖すいにょじょう!!」


 僕は一瞬の隙をついて水如杖すいにょじょうで、

 気をできるだけ固く鋭く伸ばし王魔おうまを突く。

 しかし身体にあたった気は砕けた。


(ダメだ!僕たちの術や封宝具ふうほうぐでは、

 こいつは倒せない!)


碧玉へきぎょく一旦ひきましょう!!」


「は、はい!」


 離れようとしたとき、先に回り込まれた。


(こいつ!!知能があるのか!!)


 王魔おうまは身体の針をすべて逆立てる。


「まずい!!碧玉へきぎょく下がって!

 土よ鋼のような壁となれ!!土甲防どこうぼう

 水如杖すいにょじょう!!」


 目の前に土の壁と水如杖すいにょじょうで、

 それを補強した。


「ガァア!!」


 王魔おうまがそう叫ぶと、黒い針が飛び出し、

 作った壁が簡単に粉砕された。


「くっ!」


「きゃあ!!」


 その衝撃で僕たちは飛ばされた。起きて周囲を見ると、

 周りの木や岩などが粉々に砕かれていた。

 王魔おうまを見ると笑っていた。


(これはもう......)


刧雷杓ごううらいしゃく


 諦めかけたその時、そう空から声がし、

 落雷が轟音と共に王魔おうまに落ちた。

  

「ギャワ!!」


 雷にうたれた王魔おうまは転げ回っている。


 空を見ると金白仙こんびゃくせんが、

 大きな白色の象にのって浮いている。

 

「あれは金白仙こんびゃくせんかすごい......」 


「師匠......」

  

 金白仙こんびゃくせんは地上に降りてくると、

 手にもった杓をふるう。

 すると杓から輝く複数の雷が放たれ、

 王魔おうまに当たる。


「ガァアアアア!!」


 そう王魔おうまが叫び、

 身体から煙を立ち上らせて倒れた。

 その瞬間、森にいた魔獣たちの気が一斉に森からでていった。


「魔獣が......王魔おうまは死んだのですか......」


「まあな」 


 僕が聞くと、そう金白仙こんびゃくせんは答えた。


「まったく、こいつがまだ生まれたてだから良かったものの、

 お前たちの気を吸い、もっと力と知恵をつけてたら、

 この国自体も危険になるところだったぞ。

 私はこやつが、これ以上育たぬよう、

 陰の気を陽の気で消滅させていたというのに愚か者め」


「......ですが、ならばなぜお教えくださらなかったのですか」


 碧玉へきぎょくが恨めしくそういった。


「お前は昔から自分の力を過信していたからだ。

 伝えれば必ず力を試しに戦うだろう」


 そう碧玉へきぎょくを見て厳しくいった。

 図星だったのか、じっと聞いている。


「それは......確かに......これ程の化物とは思い至りませんでした......

 私が甘かった申し訳ありません」


 碧玉へきぎょくは素直に頭を下げた。


(あの杓は膨大な気を使うのがわかる。

 それを使いこなすのだから、

 金白仙こんびゃくせんは、かなりの力の持ち主だ)

 

「もう一度修行のやり直しだ。碧玉へきぎょく


 うなだれる碧玉へきぎょくにそういうと、

 金白仙こんびゃくせんはこちらをみる。


「お前は弱い仙人として未熟だ。

 わかったら今後王魔に関わるな。

 力を奪われては面倒だからな。さっさとどこへなりとも行け」


 そう言って振りかえって行こうとした。


「どこへ......そうだな曇斑疫どんはんえきを調べるか......」


 つい独り言をいうと、金白仙こんびゃくせんは振り返る。


「......曇斑疫どんはんえき......あの病がどうした?」


「えっ? ああ......はい」


 僕は陀円だえんとの話を、

 金白仙こんびゃくせんにした。

 黙って聞いていた金白仙こんびゃくせんは、

 じっと僕をみる。

 

「仕方ない......」


 そういって、金白仙こんびゃくせんは僕の襟をつかみ、

 象は空に浮かびあがる。


「うわあああ!!」  


 そのまま僕は空に連れていかれた。

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