第12話

「保健室、行く?」



「うん……」



千鶴に支えられて、あたしはどうにか歩き出した。



ドアの前まで来ると、千鶴がドアをノックした。



保健室に見立てているのだろう。



あたしと千鶴は保健室に入り、あたしはすぐにベッドに横になった。



フカフカの白い布団を想像しながら床に寝そべり、目を閉じる。



「奏、大丈夫?」



千鶴の声にあたしは頷く。



横になっているだけで緊張は少しずつほぐれていく。



保健室で5分ほど休憩してからあたしたちは教室へ向かったんだ。



それを思い出して、あたしは目を開けた。



時間の感覚がよくわからない。



ここでスマホを取り出すわけにもいかず、あたしは千鶴を見た。



千鶴も困っているようで、隣に有紀がいるものとして会話を続けるしかないようだ。



でも、こうして千鶴と有紀の会話が続いている間は、まだ保健室にいたと言う事だ。



問題は、2人の会話が途切れてすぐに保健室を出たかどうかだった。



あたしはまた目を閉じて考えた。



あの時千鶴と有紀はずっと会話をしていたような気がする。



体育の授業は休んだ方がいいとか、無理せず帰った方がいいとか。



どれもあたしを心配してくれている会話だった。



でも、どのタイミングで起きて教室に向かったのかがわからない。



そうしていると、人の気配を感じてあたしは目を開けた。



そして、目の前に立っている人物に思わず「えっ……」と、声を出してしまった。



あたしを見下ろすようにそこに立っていたのは、信一だったのだ。



「そろそろホームルームが始まるから、迎えに来た」



信一が優しい笑顔を浮かべてそう言ったのだ。



もちろん、実際には信一は迎えに来たりはしていない。



あたしが倒れたことだって、今初めて知ったはずだ。



「どうし……!」



「ほら、早く」



千鶴の言葉を遮り、信一は歩き出した。



あたしは慌てて起きて千鶴と2人で信一の後を追って教室へと向かった。



信一は自分の身をていして千鶴を守るつもりなんだ……。



あたしは信一の後ろ姿を見てそう思った。



そして、今回の《リプレイ》は終わったのだった……。

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