コスモスが見えるあの場所で、約束のコーヒーを飲みましょう(詩)

美しいむらがありました


春霞に色づく沈丁花じんちょうげ

初夏に香る山梔子くちなし

秋陽に揺れる秋桜コスモス

冬空に忍ぶ常盤桜プリムラ


この花がいちばん好きだよと

あの人はやさしく

ぎこちない手つきで

わたしの髪に秋桜を挿してくれました


バルコニーで

大きな体に寄り添って

甘いお茶を飲みました


苦いのはきらいというわたしに

あの人はコーヒーを飲みながら

子どもだなとからかって


いつか一緒に飲めるといいねと

やわらかく目を細めてわらいました




むごい戦がありました


奪われる命

血濡れた大地

慟哭

失われた誇り


あの人はつよく前を向いて

きみを護ると言いました

やさしいくせに頑固なあなたは

どれだけ泣いても

わたしを置いていくのでしょう


かならず帰る約束は

いまも果たされぬまま

わたしは苦いコーヒーを

ひとりで飲めるようになりました


あの人の好きな花を植えましょう

あの人の好きなコーヒーを淹れましょう


そうしてわたしの前にあの人の影がさしたら

コスモスが見えるあの場所で

約束のコーヒーを飲みましょう



◇◇◇◇◇


別サイト・タイトル固定企画「コスモスが見えるあの場所で、約束のコーヒーを飲みましょう」参加作品

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